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    たわし!?

    @tawashikana_
    男子高校生にはシコが隠れてる

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    たわし!?

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    この過ぎ行く日々が終わらなければいいのにと、本当は思っていた。
    お前の名前を呼んだら——この旅は、どこへ向かう?



    金曜投稿予定のブロマンス導入です。

    過去温めていたBAD DOGS船パロディ読み切り(仮)ブロマンスです。
    カプ表現はありませんがブロマンスなので友情以上のなにかです。
    2年半ほど前に書き殴り、ちょくちょく書き直していましたが納得したため投稿に踏み切りました。

    #青柳冬弥
    AoyagiTōya
    #東雲彰人
    ShinonomeAkito
    #ブロマンス
    bromance
    #BADDOGS

    夢の続き 潮風が、前髪を揺らしている。

     波の溶ける音、舟の駆動音、海のさざめき。心地よい揺れが全身を包んでいる。重い瞼を押し開ければ、長い長い夢を見ていたような気がしてくる。
     ああ、中身は何だったか。ただ暗闇をさ迷って、一筋の光が差して——そのほかは。照りつける太陽に瞳を突き刺されて霧のように消えてしまった。
     まばゆいばかりの陽光に体の型を取られてしまうような感覚に苛まれながらも、揺れる船体の上、上体を起こして周りを見渡す。青いばかりの空が広く、広く視界を覆っている。辺りはやけに静かで、鳥の声ひとつ聞こえない。板の上で長い時間を眠り込んでいたからか、節々を回してみれば少し痛むが体に異常はない。
     ただ広い海の真ん中に揺る船頭へ立たされていること。この船の舵を取る誰かがいること。今分かる全てはそれだけだった。
     となれば、今すべきはただひとつ。

    「ここはどこだ」

     操作室内、すぐに見えた姿へ当然の問い。すぐそばの台で項垂れていた橙色の髪の男は、雨漏りに打たれたように目を覚ます。聞き間違いかと、あさっての方向へ、あちらこちらへ首を動かした。
    「ここは、どこだ」
     今度こそ聞き間違いなどない。聞こえた方向も認知した男は垂れた前髪の隙間からこちらの顔を畏れるように伺い、数秒目を閉じて、何かを思考したと思えばようやく口を開く。

    「……なあ、ノアの方舟って知ってるか」





     街に溢れた人が、まるで山を成すよう。オレンジ色の髪は、茶や黒がほとんどの街では唯一誇れる初手の武器。
    「えー、でも…」
     含みのある目線。
    「ならお嬢さん、どうよ。今ならまけてこれもつけとくぜ。綺麗な栗色の髪に良く似合う」
    「あら、お上手だこと。うーん…だったら、頂こうかしら?」
    「ども。まいどあり」
     握り締めた銀貨を麻袋にしまい、華奢な指にたんと耳飾りを握らせては口角をわざとらしくゆるませ背中に手を振った。
     足元見やがって。
     愛想を取り柄に競り合う場では禁句のそれを、苦虫とともに飲みくだして左腕の瘡蓋を掻く。麻袋は未だなお、痩せこけたまま。
     しばらく愛想をふるまい、自分が机を使っていい時間が過ぎたとなれば去るほかない。前歯の根と舌先が背中をあわせて跳ねそうになるのを落ち着かせるように、台に敷いた小綺麗な布をてきぱきと畳んで仕舞って、もう少し重くなるはずだった麻袋をかついだ。
     ぎらぎらとまぶたを焼き付ける太陽、酔ってしまいそうなほどの人の波。その中で輝き続けられる商人は、流行りのものをすばやく取り入れられるほどの情報網、人脈、金貨とそれから大きな声を持て余した者だけ。
     今しがた遠くから声をかけてくるのはこの市場の仲間だ。
    「アキト、もう店仕舞いか?お疲れ。後から顔出そうと思ってたんだけどな」
    「おかげさまで。お前もお疲れさん、明日の昼またここに来るよ」
    「おー。また明日!」
     人脈はいつでも何よりの宝だが、客への愛想と口車とばかりを磨いたところで、夢のひとつにも近付けやしない。銀をどれだけ磨こうが金にはならないし、肥えた者ほど傲慢に持て余す。掃き溜めの鶴は哀れみの目と顔見知りとしばしの同情で食いつなぐばかり。これと、時たま目利きと題し鑑定商の真似事で小銭を稼いだり。数年もこのざまだ、笑えてしまう。
     生まれてこのかた、何度も何度も頭の中を回って、いまなお回り続ける言葉。

     あーあ、ノアの方舟が手に入りさえすればな。
     幻の船で自由に海に出て、旅が出来たら。


     瞬間。

    「返せ…!その海図を、うわっ、すみませ…待て!」
     掛け声とただならぬ足音。
     こんな人混みでは日常茶飯事。まあ、よくある事だし別に一人の荷物が奪われたところで。……いや、出来る限り人助け云々で人脈を増やすことも、生きていくには必須。しかしこんな心境でみずから面倒ごとを増やしたくはない。
     海図というその単語が、頭を回る言葉に都合良く重なった。気まぐれ半分、見返りを期待半分に掛け声の主の目線の先を射抜く逃げ足をとらえる。
     望まない身軽が幸いしたか。足取りすばやく飛び出して人の隙間を縫い、駆け続けてしかと踏み出した最後の一歩、外れかけのフードを鷲掴みにすればその足が止まる。
    「ぐえっ、誰だっ、てめえ!」
    「はぁっ、盗ったもん、返して貰えませんか?」
    「違う!これは元から俺のものだ!」
    「じゃあなんで逃げてんだよ。これ以上大ごとにするなら、豚箱食らうことになるけどよ」
     騒ぎの渦中、人々は近づきがたくなるこちらを徐々に遠巻きにして眺める。さながら公開処刑、証人だらけのこの状況。
     ひったくりは紙切れを乱暴にこちらへ押し付け、秒針さえも鼻で笑うような舌打ちをその場に残し、お得意の逃げ足で颯爽と消え去った。
    「ども、まいど」
     背を向けて去る人に対するテキトーな口癖。声音に愛想のひとつもないことだけが違っていたが。そして手に残る、古びた紙が物語る年季。自らの目を以てしても、これは本物に限りなく近い。いや、本物を見たことがないからそう思うだけで、もしかすると本物なのではなかろうか。安っぽい偽物の古い紙ならば、衝撃でたやすく破れているであろうに。思いがけぬ収穫——すぐ持ち主に返すものだが——を得た。
     遅れて背を追いかけてきた人の姿を形どる特徴は、見れば一瞬で覚えてしまうほどの異端さ。
    「ほらよ」
    「すまない、ありがとう」
     紙切れと呼ぶには少しだけおこがましかったそれを持ち主の手に。やたら畏まった袖。引き締まった襟。頭は水色と紫がかった深い群青、それも真ん中に分けて半分ずつ。繊細な織り布や留め具に金具。さきほどはよく見ていなかったが、加えて身なりはやたら小綺麗で。そんじょそこらで手に入るようなものではない、怖いもの見たさに足元を一瞥すれば、石や砂が直に当たることを防ぐだけとは到底思えぬ堅牢なつくりのものが目に飛び込む。
     この島のお偉いですら身に付けていないような身なりに思わず仰け反りそうになる。目の利かぬ痴れ者でも金目のものがないかと目をつけてしまうようなその男は何かを言い出そうとしているものの、それより先に疑問が飛び出てしまう。
    「…お前、どう見てもこの辺のもんじゃないだろ」
    「ああ、まあ」
     何やら含みのある返事。
     とは言え見返りは期待するだけ無駄だ、人脈が作れるだけでも大儲け。こいつを人脈のひとつに入れて損は無い、が。ここまで身なりの良い人間が関わるとなると、見えぬ後ろ盾を勝手に推し測っては少々気が引ける。
    「じゃ、オレは」
    「…なあ、礼をさせてはくれないか」
     男の提案。だが、オレはただ“紙切れ”を取り返しただけ。人として正しいのは、その程度で傲慢にならない姿勢。
    「んなほどのことしてねえよ。さっさとソレ握って船にでも揺られてお里に帰りな。またひったくられて終いだぜ」
    「生き別れた家族の手掛かりなんだ。それも一番大きな。…今では形見になるとも知れない」
     やたら食い下がると思えば。
    「なるほどな」
     じゃあ、その辺の出店でひと月分の飯でも食わせてくれよ、と。そんな金があれば苦労はしない。どんな金持ちでもこんなこと言われりゃ身を引くだろうに、その辺の商人を拾うような同情を食らうほどではないし、あえて有り得ない話を吹っかけた。冗談交じりに呟いたその返事。
    「…そんなものでいいのか?」
    「…………は?」





    「…と、いう訳だ」
     人間万事塞翁が馬。オレがあのコンマ数秒の揺れで駆け出してとっ捕まえたのは、どうやらすげえ鯛の尻尾だったらしい。
     出店どころか洒落た石造りの建物の小綺麗な飯を食い、よくわからない味の熱湯を流し込んでいる。多分何やらいい匂いなのだろうがいかんせん今まで縁のない味覚に香りに、どんな価値があるのか勘定付けがたい。
     この街にこんな店があったのかよ。ちょっと、いや、場違いも甚だしい己の服装だが、良かったのか。誰も何も言ってこないから別にいいのか。しかし、耳飾りが中心の商いとはいえ、身なりに気を遣う商売をしているからには架空の視線が刺さってくる。とはいえ、人生で初めて「腹がはち切れる」という感覚に出会った。毎日細い飯を貪っては足りないと思っていたのに、もう食いたくないとすら思った。
    「……つまりお前は今、でけえ海の中でアテもなく血縁を探して、持っていた金と海図の数々を握りしめてただ放浪し続けている、と」
    「言い方は悪いが…」
     眉根を軽く寄せた男は声を細めて何かを切り出す。

    「……ノアの方舟を知っているか」

    ——突如降りかかるその言葉に、あからさまに目の色を変えてしまったのは自分でも分かった。

     お前まだノアの方舟信じて探してんのかよ、もっと現実見た方がいいぜ。昔から聞き飽きた台詞。だからもう、自分からこの話題を切り出すことも無かった。

     正直根拠もなく、勝機が来たと、確信した。

     否、根拠など知らない。目前を覆っていたもやがその一言で弾けて晴れたような衝撃が、自分の中に確として存在した。それだけだった。
    「あんた…何を知ってる?」
     半信半疑に切り出して曇っていた表情は、変わる目の色を見たその瞬間から安堵滲ませつつ強気に次の手を繰り出した。
    「お前の知っているノアの方舟について教えてくれ」
     この男の言動の節々の違和感。その正体など知れず、擦れるほど頭に刷り込んだ昔話を掘り返す。
    「今に死にかけのやつも、その船に乗ればケロッと治る魔法の船。金も食も住処も困らねえ富の船、その名の通り箱の船、不思議な形をしていて、部屋がたっくさんあって…それから、」
    「そうか」
     んだよ。怪訝な顔で見つめれば返ってくる返事。
    「——ある旅人を乗せて出航すると、世界を巻き込む大洪水が起きる。その不可抗力から唯一救われる船。結果として地球の上には、船に乗った者だけが救われ取り残される、厄災の船。……俺は、そう聞いた」
     耳慣れぬ、展開。それに、世界を巻き込む大洪水っつうのは。
    「……何?」
    「とは言うが、それがこの世に存在するならば今頃全員海の餌食だからな。俺はそれを本で読んだだけだ、諸説ありといったところか。俺が見聞きしたノアの方舟とはまるで違うようだ」
    「ビビらせんなよ。……っぷはー、で、諸説ありのノアの方舟が一体なんだよ」
     よくわからない味の湯を流し込んで、驚きに渇いた喉を潤す。
    「……あるかは分からないが、探しているんだ。どこにあるか、知っていたりしないか」
     約五百年前に起きたという洪水の大災害。要約して、生き残った数人がまた初めから孤島で人間の文明を繁栄させ、取り戻して今に至るという神話のような話。
     その話が、何よりノアの方舟の存在の輪郭を残している。
    「でもよ、お前…知らないのか?五百年前の厄災を」
    「……厄災?」
     そのあらましを改めて話す。ノアの方舟に対して信ぴょう性を高めたらしいこの男には、何不自由なく暮らせるほどの金があるであろうことは簡単に予測できた。
    「よし、分かった。オレはいつ乗ることになるかも分からない船の舵取りの知識だけはたんと詰め込んである。それにこう見えても顔は広いんだぜ」
    「そうなのか。」
    「……あー。食いもんを何とかしてもらう代わりに、オレはお前の家族を一緒に探すって言ってんだよ。オレもノアの方舟を見つけたいと思ってたし、どうだ。仲間が増えるのも悪くねえだろ」
     外で分かりやすく高価な服を着て出歩くわ、案の定ひったくりに遭うわ、所作がいちいち繊細であることに加え会話を砕かないと通じないあたり、どう見ても人や外に慣れていない。
     男は一瞬だけ迷うような所作を見せたが、そのうちはっきりと鋭い白銀の双眸を露わにして、力強くうなずいた。
    「で、今気付いたんだがよ。オレはアキトってんだ。お前の名前は?」
    「……トウヤ」
    「おう、よろしくな。トウヤ」
     荒波よりも過酷で、乗り越えがいのある日々が、心躍る日々が始まる気がする。
    「じゃあ、その前に身だしなみだな。その服だと何持ってても盗られるぞ」
    「どの島に行っても、どんな人の波でも、やたら俺ばかり狙われるのはそういういわれか」
    「……お前本当に一人で放浪してたんだな」
    「…悪いか」
    「いや、まだお前のことよく知らねえけど、多分お前らしいよ」
     トウヤはなぜかその一言に笑みを浮かべる。



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    お前の名前を呼んだら——この旅は、どこへ向かう?



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    過去温めていたBAD DOGS船パロディ読み切り(仮)ブロマンスです。
    カプ表現はありませんがブロマンスなので友情以上のなにかです。
    2年半ほど前に書き殴り、ちょくちょく書き直していましたが納得したため投稿に踏み切りました。
    夢の続き 潮風が、前髪を揺らしている。

     波の溶ける音、舟の駆動音、海のさざめき。心地よい揺れが全身を包んでいる。重い瞼を押し開ければ、長い長い夢を見ていたような気がしてくる。
     ああ、中身は何だったか。ただ暗闇をさ迷って、一筋の光が差して——そのほかは。照りつける太陽に瞳を突き刺されて霧のように消えてしまった。
     まばゆいばかりの陽光に体の型を取られてしまうような感覚に苛まれながらも、揺れる船体の上、上体を起こして周りを見渡す。青いばかりの空が広く、広く視界を覆っている。辺りはやけに静かで、鳥の声ひとつ聞こえない。板の上で長い時間を眠り込んでいたからか、節々を回してみれば少し痛むが体に異常はない。
     ただ広い海の真ん中に揺る船頭へ立たされていること。この船の舵を取る誰かがいること。今分かる全てはそれだけだった。
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