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    mariko15kattun

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    mariko15kattun

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    いくつだったか(30?)RTがあったらエロを書くというあれ、当然自分の思うエロしか書けないので、人様には生ぬるくても、自分なりのエロを、とトライしていたつもりだったんですが、さすがにこれはエロじゃない😅そこを書けよ、書くんだよ!という仕上がりになってしまったので、改めて挑戦します。
    でも、これはこれで書けたので😅
    〇服って、エロいアイテムだと思うんですけど、前に書いたな、これ😅

    闇を打ち払って ホテルに戻ってきた勇利は、まるで世界の破滅を目撃してきたかのように、憔悴しきっていた。暗い表情に血の気はなく、いつもくるくると動いている、俺の大好きな瞳は光を失い、どこを見ているのか判らない。もしかしかすると、何も映してはいないのかもしれない。
     常に美しい姿勢で、きびきびと動く彼は消え失せ、肩を落とし、ぼんやりドアの向こうに佇んでいる。この様子で、よく戻ってこれたものだ。こんな風になるのなら、たとえ騒ぎが起きても、葬儀場までついて行けばよかった。己の失策に、ギリと歯ぎしりをひとつ。
     でも、どんな状態であろうとも、無事に帰り着いたことに安堵し、俺は彼の背に手を添え、入室を促した。
     そうだ。長谷津でヒロコに教えて貰った。葬儀から戻ったときは、部屋に入る前に塩で身を清めるのだと。
     部屋の入口に用意してあった小皿からひとつまみし、見様見真似で塩をかける。
     勇利の反応はない。彼はのろのろと足を動かし、俺のなすがまま。予想通り、心ここに在らずといった状態だ。
    「お疲れ様」
    そっと声をかけると、「ん」という、息が鼻から抜けただけの微かないらえがあった。
     よかった。反応してくれた。
     俺は僅かばかりホッとして、彼を部屋の奥へと導く。
    「コーヒーでも飲む? それともお茶がいい?」
    「大丈夫。ありがとう」
    今度はきちんと声が返って来た。ますます安心して、彼をソファにかけさせようとし、はたと思い留まる。
    「それ、脱いでしまおうか。綺麗なきみの体に、全然似合ってないし」
    少しでも勇利の心の緊張が解ければいいと、何か冗談めいたものを言いたいと思っていたのに、口から飛び出したのは、本音だった。
     彼が纏う黒いスーツは、見慣れないこともあって、非常に違和感がある。サイズが微妙に合っていないため、変なところに皺が寄り、彼の美しさを諸共に消してしまっている。俺の美意識が許さないそれを、いつまでも勇利が着ているのは、何とも許し難い。
     でも、仕方がない。日本では大手の紳士服店で、急に誂えた1着だ。一流のテーラーが仕立て上げる、オーダー品のようにはいかないのは当然だ。最近プレゼントした、パーティー用の華やかなスーツを着た勇利を思い出し、あまりの違いにうんざりする。
    「うん、そうだね。でも……」
    勇利がはーっと大きな溜息をひとつ漏らす。本当に疲れ果てたといった吐息に、背に添えた手のひらが緊張する。
    「勇利……?」
    大丈夫かと問う前に、勇利の瞳が俺を見た。
     まだ青い顔。表情豊かな眉は力なく垂れ下がり、葬儀の間、少し泣いたのだろう。瞳がどことなく潤んでいる気がする。
     彼をここまで打ちのめしたのは、大学時代の後輩にあたる女性の訃報だ。危篤であると連絡が入ったとき、勇利はひどく動揺していた。その有様が尋常ではなかったので、周囲は過保護だと笑うかもしれないが、俺はすべての予定をキャンセルし、彼と共に日本にやって来た。
     彼女とどういう関係だったのか、とても聞けない雰囲気だ。でも、ふたりの間に艶めいたものはなかったことは、何となく、本当に何となくだけれど、確信していた。
     でも、知人の不幸な知らせを受け取ったと言うには、あまりに衝撃を受けていて、俺は飛行機の中で彼の手を握り続けていた。勇利が少しでも安心できたらいいと願いながら。
     だが、勇利は間に合わなかった。
     病院に駆けつけるより早く、彼女は息を引き取った。
     勇利と故人の共通の知り合いらしい人たちが、遠くから駆けつけた彼を気遣いながら、その後の予定を知らせてくれた。ツヤと呼ばれる儀式は、長谷津にいたときに見かけたことがある。ひと晩中、故人を偲ぶのだそうだ。今は夜を明かすまで語り合ったりはしないそうだけれど。
     慌てて荷物を作った、というよりも、最悪の事態を想像したくなかったのか、勇利は喪服の準備をしていなかった。大手チェーンの紳士服店は、日本中どの町にもあるから大丈夫と微笑う勇利の言葉通り、店はすぐに見つかり、ふたりで買いに行った。どれを試着してもがっかりするばかりだったが、何とか着れるものを吊るしてある中から選んで購入した。帰ったら仕立て直すか、あっさり燃やしてしまうか、真剣に検討しようと思っている。
     日本人の標準体型より、手脚が特に長い勇利には、どうしても袖丈が足りない。中に着た白いワイシャツも短くて、手首が覗いてしまう。黒から白、そして、勇利の肌の色。並び順は普段と変わらないのに、漆黒のスーツの布地が引き立てるのか、肌の色がやけに白く、生めいた色に見えてしまう。骨の位置がはっきりと判る、俺よりもずっと細い手首が、握り締めたら折れてしまうのではと思うほど、儚げで。
     いっそ、本当にそうしてみるか……?
    「……て」
    よからぬことを考え始めた俺は、勇利の言葉を聞き逃した。
    「ん? 何?」
    「疲れて、脱げない」
    ああ、そうだろう。知人との別れは辛いものだ。ましてや、まだ早すぎる別れならば。
    「ヴィクトル、脱がせて」
    黒い髪に黒いネクタイ、黒いスーツ。闇に包まれてしまったような彼が、俺に乞う。この闇を打ち払えとばかりに。
     俺は無言で彼の体を抱き締めた。気がつかなかったが、こんなに体を固くしていたなんて。強ばらせていたなんて。小刻みに震えていたなんて。
     最初に、こうしてやるのだった。
     ごめん、と心の中だけで謝り、彼から離れると、まずは重そうなジャケットを取り去った。1枚、彼にまとわりついていた闇を退けたような気がして、眩しい白くシャツに目を眇める。
     スーツにばかり気が向いていたが、こうしてみると、シャツもまるで体に合っていない。スケートという競技にふさわしい筋肉をつけた体は、どうしたって既存の服など合わないものだ。
     俺は早く彼に相応しくない服を剥ぎ取ってしまいたくて、安っぽいネクタイを解くことにした。
     結び目に差し入れようとした指が止まる。突然、彼の白い喉が戦慄いたように見えたからだ。
     俺は硬直したまま、勇利とネクタイとを見比べた。
     黒のネクタイは、彼のほっそりと長い首を捉え、まるで拘束しているようだった。
     震える喉が、葬儀場でつまらぬことを喚き散らさぬように、それとも、嘆きの声を上げぬようにか。
     故人と何があった? ここまできみを傷つける何が。
     聞いてはいけないと奥歯を噛み締め、結び目に指を差し入れる。瞬間、顔を背け、目を閉じた彼が、妙に扇情的で、俺は彼を辱めているのかと錯覚する。
     シュルという滑らかな音と共にネクタイを引き抜くと、別に戒められていた訳ではないのに、勇利はまた嘆息した。
    「勇利」
    そっと呼びかける。
     彼はゆっくりと首の位置を戻し、俺を見詰め返してきた。
    「ヴィクトル……」
    瞳が揺れる。
     何だ? 俺にどうして欲しいんだ?
     何かを言いたそうな勇利に、どうしたら心情を吐露させられる?
     俺は迷った末にキスをした。
     泣いている訳でないけれど、泣きそうになっている恋人に、どうしてやったらいいのか途方に暮れて。
    「全部、脱がせて」
    俺の首に両手を回し、額と額を擦り合わせるようにしながら、勇利がまだ強請る。
     俺は手探りでベルトを外してやり、ファスナーを下ろした。独特な音がやけに耳に響いて、何だか本当におかしくなりそうだ。目眩がする。
     ジャケットよりも更に体に合っていないスラックスが、ストンと床に落ちた。裾は短いのに、ヒップはきつそうだったから、きっと苦しかったに違いない。勇利の吐息が、また漏れる。
    「勇利……」
    「これも」
    視線だけ落として、彼はシャツも剥げと俺に命じる。
     俺は下僕になったような気分で、自分の胸と彼の胸の間に手を差し入れ、小さなボタンをひとつずつ外す。
     ひとつ外す毎に、漏れる吐息が甘くなっていくような気がするのは、俺の錯覚だろうか。
     シャツを取り去り、これは彼の普段使い用で、よく見なれた高性能のアンダーシャツも剥ぐ。現れた肌の色に、何故かホッと安堵する。
    「ヴィクトル……」
    俺の首に再び腕を回して、下着しか身につけていない恋人が、俺の名を呼ぶ。
     おかしなところが熱くなるのも仕方がない。
    「僕、何もしてあげられなかった」
    けれど、飛び出した悲痛な声に、一瞬にして熱が引く。
    「亡くなった人に?」
    「そう……」
    こちらに身を預けてきた勇利の体を抱き締める。固い筋肉に覆われた体は、さっきよりも弛緩したとはいえ、まだ冷たい。室内は適温に保たれているとはいえ、いつまでもこんな格好をしていたら、ますます冷えてしまう。
    「何か着るものを……」
    言いかけたのに、勇利は取り合わない。独白のような言葉が続く。
    「彼女も世界を目指していた。でも、女子の選手層は厚く、なかなか代表にはなれなくて」
    どうやら彼の告白が終わるまでは、こうしていなくてはならないようだ。
     俺はせめてとばかりに、彼の背を撫でた。俺の熱を移してやりたいと。
    「無理をしているのは気づいてた。でも、僕は自分のことで精一杯だった。だから、気づいても何も言わなかった」
    背だけでは足りないような気がして、片手は彼を抱きとめ、もう片方の手で腿を擦ってやる。形のいい筋肉に沿って何度も何度も……。
    「自分の失敗を悟ったのは、彼女が怪我をしたとき」
    「え? 怪我?」
    「ヴィクトル、彼女の名前を聞いても、知らなかったでしょう?」
    「ああ、確かに」
    勇利が言ったように、日本人の女子スケーターは層が厚く、国際大会に出場する選手は殊のほか多い。そして、彼女たちは、かわるがわるメダルを攫っていく。どうでもいいことは忘れてしまう俺でも、さすがにメダリストのスケーターくらいは覚えているし、日本でのショーで共演したら、多少は……。でも、亡くなった人の名前は記憶していない。
    「その怪我が元で、目立った戦績を残すことなく引退したんだ」
    そういうこともあるだろう。でも……。
    「勇利が罪の意識を感じることはない」
    練習量が特別多い勇利に、無理な練習をしていると指摘されても、彼女が受け入れたかどうか。
    「部を去るときにね……」
    俺の胸を押して、抱擁から逃れた勇利が呟く。
    「僕と一緒に世界で戦いたかった。それが夢だったって」
    ほろりと落ちた涙が、静かに頬を伝った。
     勇利はそれをどう受け止めたのだろう。
     言葉通り、スケートで切磋琢磨し合いたかったと聞いたか、それとも、些か一方的であるが、愛を求められたと感じたろうか。
     でも、どちらにしろ、勇利は彼女の選手生命が途切れたことに、責任を感じてしまった訳か。
     その人がこんなに早く他界したともなれば、忘れたか……いや、彼のことだ。忘れてはいまい……見ない振りをしていた責任感が、改めて彼を苦しめているのだろう。
    「ヴィクトル。お願いがあるんだ」
    「何? 何でも聞くよ?」
    「何も考えたくないんだ」
    うん、判る。体を覆う闇を取り去っても、心の中の闇は消えない。
    「今夜、僕をめちゃくちゃにして」
    「勇利……」
     

     俺が彼をどんな風に抱いたか、それは誰も知らなくていい。
     俺たちだけが知っていれば。
     ただひとつだけ。
     
     勇利の髪に鼻を差し入れたときに感じた線香の香りは、とても……とても……。
     だめだ。言葉にはできない。
     でも、清らかで禁欲的な香りに包まれながらのこのひと夜を、俺は一生忘れないと思った。それだけだ。
     
     
     
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    mariko15kattun

    DONEいくつだったか(30?)RTがあったらエロを書くというあれ、当然自分の思うエロしか書けないので、人様には生ぬるくても、自分なりのエロを、とトライしていたつもりだったんですが、さすがにこれはエロじゃない😅そこを書けよ、書くんだよ!という仕上がりになってしまったので、改めて挑戦します。
    でも、これはこれで書けたので😅
    〇服って、エロいアイテムだと思うんですけど、前に書いたな、これ😅
    闇を打ち払って ホテルに戻ってきた勇利は、まるで世界の破滅を目撃してきたかのように、憔悴しきっていた。暗い表情に血の気はなく、いつもくるくると動いている、俺の大好きな瞳は光を失い、どこを見ているのか判らない。もしかしかすると、何も映してはいないのかもしれない。
     常に美しい姿勢で、きびきびと動く彼は消え失せ、肩を落とし、ぼんやりドアの向こうに佇んでいる。この様子で、よく戻ってこれたものだ。こんな風になるのなら、たとえ騒ぎが起きても、葬儀場までついて行けばよかった。己の失策に、ギリと歯ぎしりをひとつ。
     でも、どんな状態であろうとも、無事に帰り着いたことに安堵し、俺は彼の背に手を添え、入室を促した。
     そうだ。長谷津でヒロコに教えて貰った。葬儀から戻ったときは、部屋に入る前に塩で身を清めるのだと。
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