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    duck_ynbt

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    duck_ynbt

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    同タイトルの曲に影響された上←一もどき/0831の前日譚的な

    まだ 見ぬ 最愛発現したチカラは反射
    他者からの接触を跳ね除ける拒絶
    拒絶に対して与えられるものも、また拒絶







    照準器のレンズが無機質な輝きを湛えてこちらを見据え、明確な攻撃意志を携えた戦車砲の発射口が向けられる。
    俺はただその場に立ちすくむだけ。
    戦車の周りに配備された隊員が拡声器を片手に、何か喚いているのが見える。
    何を喚いているのかは知らない、聞こえない。
    ヘリが真上を滞空する音も、戦車が地面を蹂躙しながら進行してくる音も、レスキュー車輌のサイレンも、全てが自分に対する責苦のように響いた。
    鼓膜が破れそうになったから、ただ防御反応に従っただけ。

    (どうして、誰もそばにいてくれないんだろう)
    (なんで誰も守ってくれないんだろう)
    (ただここにいただけなのに)
    (どうして、)

    砲撃が反射され、発射元の機体が破損していくのを呆然と眺めていた。
    人が傷つき倒れて、力無く立ち尽くして、絶望に塗れた幾つもの瞳が自分を捉えている。
    音は反射できても、視覚情報は反射できない。
    ただ立っているだけで、何人もの人間が息絶えていく。
    もし自分がいなかったら、こんなことにならずに済んだのか?
    彼らを殺したのは、自分?
    自分がいなければ、彼らは死ななかった?
    ここにいなければ、生まれてこなければ……
    俺は──────







    夢を見た。
    あの日から夢見が良かった記憶なんて一日も無い。
    しかし不幸中の幸い──現況生きていても死んでいても大差無いかもしれないが、死なないでいることだけはできている。尤も「命あればこそ」なんて思想は微塵も無いが。
    たった一人の、年齢二桁にも満たない子供に軍事総攻撃が通じないという記録はセンセーショナルだったらしい。一方で現場の外には徹底した箝口令が敷かれていた。市民に対するショックや警戒の緩和は勿論、俺自身の能力に関する情報が流出することで国家間のパワーバランスが崩れるのを恐れた、なんて眉唾モノの噂も研究所で耳にした。
    もし本当ならそのうちコスパのいい傭兵として紛争地に駆り出されるかもしれないし、自分のチカラを巡って世界各国が権謀術数を巡らすのか……なんて、休むに似たる考え。
    実験の規模がいかに広がろうが、自分は所詮モルモットだ。
    今ここにいる環境が設定する基準と照らし合わせたら、出来がたまたまいいだけの。
    行動も一定範囲なら許容され、チカラをちらつかせれば喧しい連中を黙らせることもできる。
    いずれ研究が進み、前人未到の絶対能力者に到達すれば、絡んでくる人間にいちいち睨みを効かせたり威嚇したりする必要もなくなる。もう関わってくる人間もいなくなる。
    もしそうなれば、俺は──────







    「xxx、今日はなにして遊ぶ?」
    目の前に手が差し出される。
    姓が2文字、名が3文字のありふれた名前を呼ぶ人間は、ここ数年で目にしなくなった。
    ならこの手の持ち主は、あの頃の知り合いか。友達、そんな存在もいたかもしれない。
    名前と同じように切り捨ててしまったのか、切り捨てられてしまったのか……ただ、今はもう目の前の少年の名前も口をついて出てこない。
    声を出そうとすれば、口からは乾いた息が漏れ出るだけ。
    もし差し出されたその手に触ったら、何か変わるだろうか。

    「XXX、──────」







    夢を見た。
    普段見る夢の主なモチーフは拒絶/喪失等、決してプラスには繋がらないものが殆ど。
    なら先ほど見ていたものは一体なんだ。
    自分の手を握ろうと手を伸ばす誰かが過去にいて、夢の中の自分はそのことに疑いすら抱いていなかった。
    繋がりなんて執着するだけ現実とのギャップに苦しめられるだけだ、そう言い聞かせ続けてきたのに……潜在的な欲求が今更抑圧を退けたとでも?理屈の通らねェ話だ。
    退屈に飼い慣らされた日常を揺るがした──たかが夢、そんな微かな異常に身震いする。
    一体オマエは誰だ。どこで、何をしている。







    「歯を食いしばれよ、最弱──────」
    「──────俺の最強は、ちっとばっか響くぞ」

    日常は呆気なく瓦解する。

    能力が発現し、軍事攻撃を受けるまでに至ったあの日既に痛感した事実を再度突きつけられている。結局量産型能力者計画は頓挫し、『学園都市最強』という自分の中では大した意義も無い"化け"の皮も剥がれた。同時に能力に欠損が生じたわけでもないという不変性も介在する。
    絶対能力者への到達に対する必要性も自分の中では失われ、自滅していく襲撃者にいちいち追い討ちをかけようという気概も最早無い。
    今までの自分なら完膚なきまでに戦意喪失へ追い込むような真似もしていたが……。

    「やっぱ何かが変わったンだ。でも何が変わったンだァ?」

    答えの出ない自問、学園都市第一位の頭脳が聞いて呆れる。
    暫く巡らせた思案の末、手繰り寄せた記憶の糸に或る日の夢が引っ掛かっていた。
    単なる虫の報せとも取れる──にしては些か自身にも戸惑いを与える程度の密やかな願いを孕んだ夢。

    誰かに止めて欲しかった?
    誰かとの繋がりを諦めたくなかった?

    そんなくだらない、軟弱な願いがまだ自分の中に残っていたとでも……。
    名前も知らない無能力者との一戦が無ければ、こんなことは考えてもみなかっただろう。

    夢の中で、あの日の少年に再び相見えることがあれば問い詰めてやりたい。
    どうして、何のために、自分の前に現れ、手を差し伸べようとしたのかと。

    オマエは誰だ、と───。
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