audio codecオーディオコーデック：音声データを圧縮符号化（エンコード）したり、圧縮符号を展開して元の音声に復元（デコード）する装置やソフトウェア

電話を通した相手の声は、電話機器に内蔵されている音声プログラムが0.02秒で声帯の振動、喉の響き、声の大きさを数値化し、データ化したものらしい。

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オペレーションネーム・ハンドカフス。
現統括理事長が就任後初めて舵を取った施策。
大きな混乱の末暗部の粛清は未達となったものの、一方通行の肝煎だった妹達の社会的保護は概ね成功に終わった。『大掃除』の名残もいずれ彼の信じる自浄作用によって薄れていくだろう。
実働していた時期を考えると、あれだけの人員操作を刑務所内から一人でやってのけたことに対しては、純粋な能力の高さよりも寛容性の向上に評価が集まっていた。身内の中では。

「お、やっと繋がった？」
『……手短に用事だけ言え』
「え〜、打ち止めからのお節を受け取るくらいの優しさを俺にも分けてくれよ」
『な……！？誰から聞きやがった！！』

そりゃ本人に決まってるでしょうが、とは言わないでおく。
何か私怨じみたぼやきが聞こえるのも気のせいだと思いたい。
橋架結社の超絶者周りは未解決事項まみれだし、正直年末年始もあったもんじゃなかった。
俺ですらこんな調子だ、本当は一方通行だってこんなプライベートの回線に応じている場合じゃない筈だ。それでも出てくれる、というのは存外愛されてる、と自惚れてもいいんじゃないだろうか。

「まぁその……なんていうか、明けましておめでとう……なーんて」

『今年もよろしく、でイイのか？』

「お、お前の口から新年の挨拶が聞けるとは……」
『用件は終わりか？』
「ああ」
『……切るぞ』
「風邪引くなよ」

『誰に言ってやがる』

ツー、ツー、──────

思わず反論する間も無く、電話口から聞こえる音が瞬時にBTへ切り替わる。
そんな電話の〆ってありか？と思わず苦笑が漏れた。

リサコ救出の司令が降りた時の番号も一応控えてはいたが、以前浜面と一緒にいた時に交換した番号が奇跡的にまだ生きていた。
右手の異能力以外は何の変哲も無い一男子高校生の部屋には今シスター、神様、超絶者ととんでもない面々が集まり、気の休まる時間もない。
オンの時間であろうと声を聞けたのは嬉しかったけど、こんな時だからこそ、お互いのことしか考えていない時の声色がもたらす癒しの力は大きかった。
一国家にも近い規模の都市で長となってしまったあいつに直通連絡できる人間はおそらく仕事を除けば殆どいない筈で、かけた身としても正直出ることはないだろうと思っていた。だから、ワンコールして出なければそれで諦める気だった。

「普段の不幸で支払っても、お釣りが来ちまいそうだな……」

メッセージアプリが普及し、どんなに言葉を尽くしてもパケット代が上乗せされないこの時代に、数秒のディレイと偽物の音声を以て心を満たす幸せ。
繋がると知ってたら録音したのに……と後悔はしたものの、また一つ前向きな気持ちが生まれた。
今山積みになっていることがもし落ち着く時が来たら──それがいつになるかは置いといて、今度は面会に行ってみよう。たとえ何度門前払いを喰らったとしても、あいつの声が直に聞ける場所に行きたいから。