Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    Na0

    雑文をポイっとしにきます🕊

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💘 🍷 🍸 🍖
    POIPOI 112

    Na0

    ☆quiet follow

    加筆修整しました。近衛リンゼルの続き。次が一番書きたかった話で、そこで終わりの予定。タイトルは…もうこれでいいかなってくらい浮かびません。

    恋のキューピッドコログちゃん2『さぁ。私のかわいい御ひい様。庭に精霊を探していらっしゃい』
     鈴音の様な美しい声が告げる。逆光に目を細めた幼いゼルダには、母の表情がはっきりと見えなかった。
     けれど、確かに自分は愛されている実感があった。この母に。この世界を包む大気、その全てに安心感と幸福を感じていた。
     だからなんの不安もなく、ゼルダはつないだ母の手を離した。振り返れば、盤石の存在として、いつもそこにあると信じて疑わない。だから正面から吹く風にだって、ゼルダは笑顔で全力で駆け出した。髪のリボンを翻し、ドレスの裾が捲れるのも気にしない。
     そこは、水源豊かなハイラル城の王族専用の庭。一歩踏み出す度に緑のにおいが濃くなった。様々な色の花を付ける生け垣のクネクネした道を抜け、目についた淡い黄色の花弁に誘われて花壇に近づく。大人の掌ほどの大きさの多弁の花からは、むせ返るほどの濃い甘い香りがした。
    「いいにおい。きれい」
     ゼルダが花に顔を寄せて香りを楽しむと、まるで甘いお菓子を口いっぱいに頬張った時と同じ、幸せな気持ちで溢れた。その時、鼻先に何かが触れて、驚きに目を見開くと、同じく慌てたように飛び去る蝶の姿があった。
    「まって!」
     香りに誘われて舞う蝶を追いかけながら、視界の隅に同じくふわりふわりとひらめく、鮮やかな桃色の光輪を振り撒く光。緑の繁みから聞こえるのはカラコロカランと鳴る小さな音。
    なぁに?と振り返っても、覗き込んでもそこには何もない。ただ、同じくあたたかい気配。
    「ねぇ、だれかいるの?」
    あたりが急に霞む。それは、白い靄の向こう。
    幼い日の記憶だった。

    「お目覚めでいらっしゃるか?」
     朝日が射し、うっすら赤く染まる寝台で、ゼルダは目が覚めた。呼びかけるのは、幼いあの日、ゼルダの母の隣に控えていた侍女長だ。今は唯一と言っていい、信頼できる身近な者だった。
    「今……」
    「お時間でございます」
    「わかりました」
     緩慢に身を起こし、耳をそばだてると、天蓋の外からは複数の気配がした。洗面に水を張る音。身嗜みの準備をする為に引き出しを開ける音。大きなドレッサーからの衣擦れの音。
     幼い箱庭で慈しまれた夢から覚めて、今日もまた。ハイラル王国の。このハイラルという世界の為に在る姫巫女ゼルダの一日が始まる。
    「あの黄色い花は、何という名だったかしら……」
     夢の中の甘い香りが脳裏を過ぎり、ゼルダは独りごちた。天蓋の朱い天鵞絨が開くと、朝日に目を細める。窓からは、青い空がのぞいていた。
    外を吹く風の音の最後に、カラコロと乾いた音が微かに響くが、それは誰の耳にも届かなかった。

    ✽✽✽

     庭は、そこに訪れる者を楽しませ、癒やす為に季節の顔を見せる。春は花の盛り、夏は青く茂り、秋は鮮やかに彩り、冬は静かに雪に隠れる。
     そして、春はそこ、夏はあちらに、秋は向こうと花を咲かせ、種を落とす。そして次の年。同じ所でまた花を咲かせ、それを何度も何度も繰り返す。まるで人生そのものと、例える者も少なくない。
     久方ぶりに訪れた王家の庭は、庭師の想いか、それとも情熱か。まるであの日に帰ったかの様に、変わらぬ姿でそこにあり、当たり前にゼルダを迎えた。ゼルダにとって母との思い出が多い場所だった為、一人で花を愛でても虚しい想いが募り、次第に足が遠のいていた。
    (懐かしい。ここは本当に変わりませんね……)
     城の回廊から、一歩足を踏み入れると柔らかな芝がゼルダを受け止めた。
    緑のアーチを潜るとそこは個人的な空間だ。限りあるスペースを視覚的に誘い、狭さを感じさせない造りになっていた。子供の背丈では迷路の様に感じていたそれは、大人のそれに近づいた今も人知れず姿を隠すのに丁度良さそうだ。幼い頃には気づけなかった意図を感じ取り、ゼルダは口元にほろ苦い笑みを浮かべた。
    「少し、寄り道をします」
     ゼルダが後ろで常に黙して付き従う近衛騎士リンクに声をかけると、彼は黙って頭を垂れて少し距離をとった。
    (ありがとう、リンク)
     心の中で礼を述べ、ゼルダは庭へと歩をすすめた。昼を過ぎて傾きかけた日差しが、眩しい。
    風は止み、空気がむわっと緑の気配を強くする。
    同時に、幼い記憶がゼルダを襲う。ここは悲しい。母との思い出が溢れすぎて、愛しさと同時にゼルダの胸に冷たい隙間風が吹く。
     あの頃、無意識下に庇護と愛を感じて、何も怖くはなかった。今はどうだろう。
    急な息苦しさに、ゼルダはちらりと視線だけで背後を伺った。
    すると、すぐに空色の瞳が何事かと。静かに問いかけてくる。口にする言葉は何もない。
    「何でもありません。もう少し、奥まで行こうと思います」
     リンクはまた黙したまま小さく頷いた。少し前まで、ゼルダはリンクのそんな態度に、自己肯定感の低さからか、一方的に厭わしく思い、避けてきた。未だ出会ってから此の方、二人が多く語らった事はない。
     なのに今は、違う。あの雨の日。言葉少ないながら共有した時から彼への印象はまったく変わってしまって、安堵感すら感じている自分にゼルダは気がついた。
    だから深く大きく息を吸う事ができる。
    (ありがとう……)
     ゼルダは今度こそ怯むことなく、記憶の中の道を辿った。生け垣の花が緑に映えて美しい季節だった。その間を整然と並んだ舗石を行くと、それは思ったよりも入口のすぐそこにあった。
    (もっと奥まった所だとばかり……)
     ドレスの裾を気にする事も無くしゃがみ込み、緑の茂みに視線を右へ、左へと彷徨わせる。
    そこに探す花の姿はなかった。
    (季節が違う? いいえ、たしかあれは今の頃。蕾も花の散った跡もない)
     ふっと背後から日が陰る。何かしらの気配を期待してゼルダが振り向くと、そこには精霊ではなくリンクが彼女と陽の光との間に立っていた。
    ゼルダは落胆の色を隠せずに、また俯いて小さくため息をこぼした。
    「どうかなさいましたか?」
    「昔、ここで……」
     途方に暮れた幼子の様な声がした。
    それに驚いたリンクの瞳が大きく開かれた。主君のいつも毅然とした王族としての顔ではない。あの雨宿りの際に出会った少女と再会した気持ちに、空色の瞳が、鎧を纏った心がとらわれる。
    ゼルダはその表情を見て、逆にはっとした。誰にも弱味を見せたくない。何よりも役目を果たさんと、背筋を伸ばしてきた自分がまさかと、ゼルダは口をつぐんだ。
    「……いいえ。何でもありません」
     彼女の様子に、リンクの視線が揺れる。
    何事か口にしようと、いつもの貝のごとく閉ざしたそれを開こうとして、またきつく引き結んだ。
    「余計な事を。失礼いたしました」
     そのまま背を向けて、また数歩下がった。ゼルダに影だけを残して。そのリンクのささやかながら温もりを感じる心遣い。なのに突き離してしまった気持ちに、ゼルダは後悔と寂しさを募らせ、そしてどこか物足りなさを感じていた。会話を途切れさせてしまったのも、歩み寄る彼の気遣いから自ら扉を閉じたのに、もう少しこちらに寄り添って欲しくて「にべもないこと……」と、小さく小さく言葉が漏れた。
     それは誰の耳にも届いていない。今朝の独り言と同じなはずだった。
    そして、また同じく──カラコロカラカラと草木の影で誰にも聞かれぬ音が鳴る。

    ✽✽✽

     その次の日。自室の中央に置かれた丸テーブルの上に飾られた花が変わっているのに気がついて、ゼルダは目をしばたかせた。ゲルドより献上された青が鮮やかな七宝の花瓶に、可憐な黄色の花が活けられている。
    「まぁ!? この花は、どうしたのですか?」
    「覚えておいでですか? 王妃様のお好きな花でした」
     ゼルダが問うと、侍女長は目を細めて答えた。
    「覚えています。ですが、昨日、庭で探しても見つけられませんでした」
    「それは……陛下が、その花を目にするとお辛いと申されまして。身罷られた次の年、花の盛りに全て抜かれてしまいました」
    「それで記憶していた場所に咲いていなかったのですね」
     同じ花だが、母と共に愛でたあの花ではない。ゼルダは一抹の寂しさから、もう朧気な母の面影を求めて、そっと花弁に触れた。指先にわずかに冷たく、けど瑞々しくも柔らかな感触がした。
    「……でも、それがなぜここに?」
    「庭師が姫様が気にかけていた様子だったと、先ほど届けにきました」
    「そう、ですか」
     ゼルダは訝しんで、視線を花に戻す。
    (あの時、庭には他に誰もいませんでした。まさか……。貴方、……なのでしょうか?)
    優しい影の残像を思い出しながら、花に触れて、顔を寄せる。胸いっぱい香りを吸いむと、どこか頭の芯が痺れるような。心地よいゆらめきを感じた。
     それは、花の甘さか。それとも別の何かか。
    頰をわずかに染めながら、ゼルダははにかんだ。
    (にべもないのは、私の方ですね)
     その表情に、聡い主君は全てお解かりだな、と。侍女長は複雑そうな。けど満足気に、こっそり口元をほころばせた。
    外はもう夜。雨季が終わり、月夜に夏の香りが漂う。そんな季節になっていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💗💗👍👍👍👍👍💲🅰↩🅱⛎✝🔼🅰®♏💖💗💗💗💗❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤🇱🇴🇻🇪❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤💯💯
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    Na0

    DOODLEゼルダが戻った砦が大騒ぎになって、全種族揃って宴会する話。
    4種族そろうのってなかなかないと思う。ゾーラなんて特に清水がないと駄目だし。そんな中でうまれた料理に、自分の成した事を見出してほろりとする事があっていいなぁと…思ったらくがき。
    ゼルダが戻った砦が大騒ぎになって、全種族揃って宴会する話 その日、ゼルダの帰還に砦は歓喜に沸いた。
    鳴り止まぬ彼女を称える声が鳴り止まない。
    リンクは集まる人々からゼルダを守りつつ、自らももみくちゃにされ、多くの物が彼の腕を、その背中を叩いた。
    「よくやった!」と、そう誰かが言った。リンクの胸が熱くなる。
     リンクとゼルダがようやく中央まで進むと、「どいてっ!ちょっとどいてよっ」と、突然プルアが人垣を押しのけて現れゼルダに抱きついた。
    涙を浮かべるプルアにゼルダは、感謝を口にしてその体を抱きしめかえした。
     その光景に、地下の梯子によじ登り氷柱に顔を出した者達も腕を振り上げる。
    「ゼルダ様、万歳!」
    「ハイラルに安寧を!」
     皆が口々に叫ぶ。
    この数ヶ月、誰もが不安の中、できる限りの務めを果たした。ここに──この世界にいる誰しもがそうだった。そこにゼルダは、百年前と変わらぬ命の輝きを見た気がした。
    1808

    recommended works