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    ikawa234

    @ikawa234

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    ikawa234

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    夏五の日に間に合わなかった…
    話の進歩のために脇役のオリキャラ(伊地知父)が登場。
    もしももっと早く二人が出会っていたら的なやつ

    未来予知伊地知さんと二人の小さな術師たち出会い、もしくは五条悟12歳の春念願、あるいは11歳の夏三年飛んで、14歳(夏)17歳、夏(星漿体護衛任務)出会い、もしくは五条悟12歳の春

    「五条悟様。あなたが一番欲しいものを差し上げます。」

    眩いばかりの『記憶』だった。沢山の誰かの視界に映る映像を繋ぎ合わせた、まるで神の視点から見る一つの[[rb:人生>モノガタリ]]。

    「なに、今の。」
    「あなたの未来にある、一つの可能性です。」

    自分よりもはるかに背の高い男が、畳に額を擦り付ける。低く垂れた首。

    「私の術式は[[rb:未来予知>・・・・]]。戦闘にはまるで役に立たない、守るべき家族も危険に晒すどうしようも無い相伝です。
    前任者が死んだのでしょう。この歳になって、身に余る代物を手に入れてしまいました。」
    男は依然として顔を上げない。俺を仰ぎ見ることも無く、ただ額を床に擦り付けている。全く情けない大人の姿だ。
    なのに、その言葉には意志のようななにな強いものがあって、それが矛盾していて面白かった。
    「この力、お気に召すようならば【全て五条悟様に捧げます。
    私にできることであれば、粉骨砕身働きます。
    決して裏切らず、嘘偽りを述べず、忠誠を誓います。】」
    「そんで、【代わりに俺に何をしろって?】」
    「【我ら家族に庇護を。】」
    「はははっ!」
    言葉は縛りとなって、男に巻きつく。あまりにも割りに合わない要求だった。あまりにも損な契約だ。
    悟にとって? いいや、違う。男にとって。
    悟が差し出すもの、男が差し出すもの。天秤の釣り合わない契約を提示して、【そうしろ】と下手くそな縛りを自分から結んでしまった。
    あまりにも呪術について不勉強で、不慣れな男。
    だけれど予知を駆使して五条家に侵入し、決死の覚悟で嘆願する胆力が気に入った。面白い奴は[[rb:不快>きらい]]じゃない。
    にい、と。桜色の唇がつり上がる。あらゆる神秘を詰め込んだ六眼が愉悦に染まり、うっすら細まった。

    「いいね、お前。気に入った。
    名前は?」
    「伊地知清春と申します。」

    それが、彼らの出会いだった。
    念願、あるいは11歳の夏
    夏油傑、11歳の夏。
    ちょっと他の人には見えないものが見えるだけの、なんの変哲もない中学生。小学生の頃は怖くて震えているだけだったけれど、【そいつら】が殴れば消えることに気づいてから格闘技にハマった。
    低学年の頃から空手道場で扱かれてるから、腕っ節には自信がある。大会優勝経験もあるし、師範に特別目をかけられている自覚もある。何かにつけて褒められて、自信を持たないわけもない。
    学校行って、道場に行って、ほどほどにだらけて、そんなルーティーンの繰り返し。
    どこにでもある、平凡な学生だ。
    いつも通りの日常を繰り返しているだけで、悪いことなんて何一つしていない。……うそだ、気に食わないやつと喧嘩をして先生に怒られたことはある。でも、それぐらいだ。
    今日だってそんな代わり映えのない一日の延長になるはずだった。空手部の夏練習の帰り。汗を流すついでに友達と市民プールに寄り道したのは校則違反だけれどそれぐらいいいじゃないか、夏休みなんだから。
    でも、実際行ってみればそんないいものでもなかった。
    密集すぎて逆に熱い、泳ぐ隙間のないプール。人も、[[rb:人じゃないもの>・・・・・・・]]もぎちぎちになった25メートルプールはただの地獄。
    入場料がたった五十円といえども、割りにあっていないだろう。格安すぎるが故に不快感も仕方がないとでも?
    はあ、まったく。それにしてもこれはひどい。他人の肌がくっつくのはあまりにも不快で、人じゃないものを避けて泳ぐのはもはや不可能。
    スライダーを数回乗って、流れるプールで少し泳いで、「もういいや」と解散。
    塩素臭い髪を乾かすのも億劫で、適当にタオルを巻いて外に出たら友達に笑われた。
    バイバイと手を振って別れて、帰り道が同じやつと途中まで帰る。うん、至って普通。
    でも、それからがおかしなことになった。しばらくとろとろ私たちの後ろをついてきていた車が突然横に止まる。ずらっと並んだ黒塗りの車。車内からわらわら出てくる黒スーツの男たち。
    あっという間に傑は友達ともども囲まれた。
    「こいつが夏油傑か?」
    「ああ、間違いない。」
    「もう1人はどうする?」
    「坊っちゃんの望みは夏油傑の身柄だけだ、放っておけ。」
    「了解。では作戦通りに」
    好き勝手にペラペラ喋る黒服。逃げねば、と思ったのは当然だろう。だが、恐怖で足が震えて動けず。
    隣にいる友人に視線を送る。視線が交わった。口をパクパク開けて、「たすけて」と声もなく頼んでみる。友達がプルプル震えて、そして……
    「ごめん!!」
    私を見捨てて逃げやがった。あの野郎!!
    私も早く逃げねばと意識した時は既に遅く、黒服の男に車内に引き摺り込まれる。
    「はなせ! やめろ、私を何処に連れてくつもりだ!」
    「叫ぶな、舌を噛まれたら面倒だ。布噛ませておけ。」
    「いいんですか?」
    「ああ。万が一傷物にして、伊地知さんに睨まれたら最悪だ。
    あの方に目をつけられて、五条家でやっていける人間は誰もいないよ。」
    「うす」
    ちくしょう、好き勝手言いやがって。布なんで噛んでやるものかと抵抗したけれど、鼻を塞がれて息ができなければ口を開けるしかない。
    あっという間に手ぬぐいを噛まされる。ドラマみたいに、バラバラに走り出した車は捜査を撹乱させるための囮なのかもしれない。
    せめてもの抵抗に、リーダーらしい男を睨みつけた。鼻で笑われる。
    私を攫うように命令した伊地知とかいうやつの目的はわからない。五条家とかいうのにも心当たりはない。
    車が停車する。男に荷物のように抱えられて、どこかに移動する。小学生の頃ろ、よく遊んだ広場だった。見慣れない【関係者以外立ち入り禁止】の看板と侵入防止ロープの中にズカズカ入っていく黒服。
    見慣れたはずの広場の中央に、見慣れないものがひとつ。
    「(ヘリコプター!?)」
    私を抱えたまま、黒服の男が乗り込む。もう1人の、私を抱えている男の舎弟と思われる男が運転席に乗った。
    あまりにも金をかけすぎな誘拐。ここまで手の込んだ誘拐をする必要性がわからない。
    私の家はとりわけ裕福というわけじゃないし、金だってそんなに出せない。
    暴れられても困ると言って両手両足は「何か」に拘束された。
    どれぐらい経ったのだろうか、ヘリコプターが離陸して、停止する。
    「おい、降りるぞ。」
    促されて、降りる。もうここがどこだかわからない。下手に逃げるのは悪手だろう。
    従順なふりをして、ヘリコプターを降りた。降りた先は、見事な日本庭園。ヘリポートの芝生に違和感があるほど立派な公家屋敷。不釣り合いなインターフォンを押して、黒服の男が「佐伯です」と告げる。
    「夏油傑を連れて来ました。」
    「ええ、どうぞ。」
    使用人らしきひとが、扉を開けた。長い廊下。奥へ奥へと進んでいく。
    猿轡をようやく外された。よだれでベチャベチャになった布はゴミ箱に捨てられる。
    一番奥の部屋の、一つ手前。扉が空いて、眼鏡の男が出て来た。和服の男だ。
    頭が痛そうに「何をしてるんですか……っ!」と唸るように、ため息混じりに吐き出された言葉。苦労してるんだろうな、と悟る。
    「まあ、いいでしょう。
    悟様は奥の御座敷でお待ちです。今日やって来るのはわかってましたけど、こうなるとは思ってもいませんでしたよ、もう……。」
    私の顔を手拭いで拭う。きっとよだれまみれで見苦しかったのだろう。
    ある程度整えて、男は扉の向こうへ声をかける。
    「悟様、伊地知です。」
    「入っていーよ。」
    思っていたよりもずっと、幼い声が。
    カラカラと静かに開いた障子戸。上座に座っていたのは真っ白な少年。ものすごく、綺麗な男の子だった。同い年くらいに見えるけれど、何故か同じ人間に思えない。
    それだけ、人間離れしていた。白銀に輝く髪も、青空のように燦く青い目も、シミひとつない白い肌も。和服を着た、天使か何かに見えた。
    「あは、まじで変な前髪じゃん」
    が、口を開いた瞬間出て来たのは失礼すぎる言葉。
    ぴょこん、と楽しそうに、跳ねるように立ち上がり、ズカズカとこちらにやって来る。
    そして胸ぐらを掴んで自分の方に引き寄せた少年は、笑顔で言った。

    「俺は五条悟。
    お前、今日から俺の親友な。」
    「……はぁ?」

    悟と私と、それから伊地知さん。頭がおかしくなるほどの非日常は、間違いなくここから始まった。


    青い目の少年の名前は悟と言うらしい。ずっと私を探していたと言うから「どこかで会ったか?」と聞いてみたら「今日が初対面だよ」とあくびする。
    「じゃあなんで私を探してたんだよ。」
    「傑が俺の未来の親友だから。」
    さも当然とばかりに言われた言葉にポカンと口を開ける。未来がわかるとでも言うのか、こいつ。クラスの女子がやってる類のおまじないにそんなものがあったな、と思考を飛ばした。
    悟はキョトンとした目でしばらくこちらを見て、「ああ」と何かに気づいて頷く。
    「おまえ、術式知らないのか」
    「術式?」
    聞き覚えがなくて、眉を顰めた。悟は「いじちー」とさっきの人を呼ぶ。「はい、悟様」、現れた伊地知さんが悟に箱を手渡す。中身を見て、ニヤリと笑う。
    「お前さ、これ見えるだろ。」
    虫かごを投げ渡されて、思わず腰を浮かせてキャッチした。蓋が開いて虫が出てきたらどうするんだ! と怒る。
    蓋が開いてないかを確認するためにそれを掲げて、ピタリ。よくある、小さな虫かごの蓋はテープのような何かでぴったりとめられていた。けれど、中に入っていたのはカブトムシでもクワガタでもなんでもなく、蠅頭の化け物。
    「見えんだろ」
    「君も見えるのか……」
    「とーぜんだろ」
    ふん、と胸を張って、ニンマリ笑った。
    「だって俺たち、呪術師だもん」
    それが理由になっているのか、いまいちよくわからない。でも今まで誰も共感てくれなかった私の視界と、同じものを持つ悟に親近感を抱くのは当然のことで。彼の言う通り、親友になれると思った。
    悟から呪術師について教えてもらう。この気持ち悪いものたちは呪霊という名前で、負の感情から生まれる呪いが具現化したものらしい。
    そしてそれを倒すのが呪術師。呪術師は術式というものを使って呪霊を倒して、非術師を守るのが仕事。
    まるで正義のヒーローだ。ニチアサレンジャーや仮面ライダーのようで少し興奮する。
    「俺の術式は無下限呪術。理論とか小難しくてまだ上手く使えないけど、こうやって潰したりできる」
    虫かごの中の蝿頭がバン!と爆発した。「おお!」と手を叩く。
    「私はいつも殴って消してるんだけど、それが術式?」
    「いや、それはただ呪力で殴ってるだけだ。傑の術式は別のやつ」
    「そうなんだ。じゃあどんな術式なんだい?」
    「傑のは呪霊操術ってんの、かなりレア。
    調伏した呪霊を取り込んで手駒にできる」
    「ポケモンみたいな感じか」
    なるほど、と頷くと悟が「はあ?」と首を捻った。
    「ポケモン? なにそれ」
    「悟、ポケモン知らないの?」
    「知らない」
    私が知らないことを当たり前に知ってる悟が、私の当たり前を知らないことに少し驚いた。でも「教えてあげる」ということにすこし優越感を感じて、お兄さんぶって「今度ゲーム持ってきてあげるよ」とわらった。
    しばらくポケモンの話をしたり、他のアニメやゲーム、子ども遊びなんて話をしたけれど、悟はその全部を知らなくて「俺がわかる話をしろよ!」と頬を膨らませるから、「じゃあ悟もやってみようよ」と誘う。
    外で遊ぶのは「少しまずい」らしいから、室内でできる遊びをする。アルプス一万尺なんて久しぶりにやった。グリンピースに軍艦ジャンケン。色々遊んで、そろそろネタが尽きるというときに伊地知さんがおそらくさっき買ってきたのだろう、新品の人生ゲームを持ってきてくれた。2人だと味気ないから、伊地知さんも巻き込んで熱狂した。
    伊地知さんが「夏油くんのお母さんが心配されてるので、警察に通報される前に電話してきますね」と席を外す。警察に連絡なんて大袈裟だ。そう悟にこぼしたら、「多分マジで警察に通報されるでしょ」と悟が返した。
    「伊地知はさー、未来予知できるんだよね。」
    「なるほど。だから通報される前に連絡なんだ」
    「多分ね。さっきの人生ゲームもさ、たぶんこれから人生ゲーム買ってこいって言われるのがわかってたんだろ」
    「すごいじゃないか!」
    「だろ!」
    悟が自分のことのように得意げに胸を張る。ばちりと視線が交わって、「ふふ」と嬉しそうに笑った。
    「そーだよ、すげーんだよ。
    ちなみに、俺が傑のこと知ったのは伊地知の術式だぜ。
    俺さぁ、ぶっちゃけ信じてなかったんだよね、親友なんて。伊地知に未来の知識もらっても実感なかったし。
    でもさぁ、実際に会ってみると違うわ」
    膝を抱えて丸まって、少し上目遣いになりながらはにかんだ悟はまるで天使のようだと思った。赤く染まった丸い頬が可愛くて、照れた私は目を逸らす。
    「傑探して正解だったな。スッゲー楽しかった」
    「私も、君に会えてよかったよ」
    出会いのきっかけはなかなかにハードだったけれど、今となればあれもいい思い出だ。
    「これからよろしく、悟」
    「おう!
    俺と一緒にさいきょーになろうぜ、傑!」
    悟に向けた拳は重ならなかったけれど、説明したらコツンと触れた。


    三年飛んで、14歳(夏)

    ちり、ちりりん。縁側の風鈴が風に煽られ涼やかな音を立てる。
    ぶぉーーんと回る扇風機は生ぬるい風を送ってくれるが、エアコンの快適さには負ける。
    汗をだくだく流しながら、棒アイスを齧り涼をとる。金盥にはった氷水に足を浸して、一言。

    「「あっつ……」」

    五条家本家、エアコン未開通。地獄の暑さも根性で耐えろと言わんばかりの灼熱地獄が当たり前だった悟少年も今や傑少年宅のエアコンの快適さを知った身。極楽を経験してしまうと地獄がより苦痛に感じる理論。
    優秀な付き人の伊地知も当主の意向に逆らってエアコンは導入できなかった。「外観を損なうとか言ってる場合じゃねぇよ」とは某少年怒りの一言。俺が当主になったら真っ先にエアコン導入してやる。
    「なんでわざわざ悟の家に集合なんだよ。私の家でいいじゃないか」
    「同じ地獄を味わえよ、親友だろ?」
    「今すごい親友辞めたい気分」
    「死なば諸共だよ」
    みーんみんみんみんみんみーーーん。
    至る所から聞こえるミンミンゼミの鳴き声にうんざりしてしまう。暑さでぐてぐてに溶けた傑が「マジ無理」と呻く。
    「てかさ、気合い入れろよ。この後任務あるってわかってんのか?」
    「そっくりそのまま君に返すよ。
    てか、伊地知さんまだ?」
    「今車手配中。クーラーガンガンになったから来いって言ったからもうそろそろじゃねーの?
    あとアイス追加で買ってきてって頼んだわ」
    「君、伊地知さんに迷惑かけすぎじゃない?」
    「じゃあ傑はクーラーなしの灼熱地獄で任務先行けば?」
    「持つべきものは優秀な付き人を持つ親友だね」
    「はぁ、ちょーしのいい奴」
    14歳。俺と傑が出会って3年がたった。本来出会うのが16歳だったから、本当なら俺は後2年一人でいたということだろう。
    五条家の灼熱地獄っぷりに文句を言うこともなく、アイスの味を覚えることなく、だらしなく金盥に足を浸すことすら覚えてなかったんだろうと考えると少しゾッとする。
    傑は覚えるのが早くて、すぐに呪霊操術をマスターした。もともとぶん殴って祓っていた時代から黒い泥団子になる現象は起きていたらしい。
    傑はそれを「ドロップ品」なんて言ってたけれど、基本的に泥団子の形態だからそこらへんに捨てて新しい。
    「これどうやって取り込めばいいの?」「さあ? モンボ作るか」「オーキド博士呼ぶか」「伊地知ー、モンボ作ってーー」なんてくだらないやりとりをして、試行錯誤。
    握りつぶしてみたり、投げてみたり、地面に叩きつけてみたりと色々した後、冗談めかして「食べてみれば?」なんて言ったらそれが正解だったらしい。
    でも黒団子の味はゲロマズで、あまりの不味さに初めて食べた時、傑は失神した。
    その時の俺はまだコントロールが未熟で六眼に振り回されていた時代だから、ぶっ倒れた傑を見て「傑が呪霊に乗っ取られた!!」と大騒ぎをして、伊地知に回収されるまでがワンセット。
    目を覚ました傑は見事呪霊を使役できるようになっていたけれど、術式のデメリットに中指を立ててた。
    「失神するほどまずいってどんな味だよ」と聞いたら「ゲロ拭いたまま一週間放置した雑巾の味」なんて言うから、実際にゲロ拭いて一週間放置した雑巾を食べてみたら今度は俺が失神した。伊地知と一緒に俺の家に来た傑が雑巾口に突っ込んで気を失ってる俺を囲んで大騒ぎしてたのは記憶に新しい。あの時の俺は無謀だったな……と思うけれど、今思えば未知への探究心だったんだろう。
    傑には「いくら親友でも、同じ苦痛を共有なんてしなくていいんだ」とか言われたけど、俺はそんな高尚な理由でそんなことをした覚えはない。
    「いや、大袈裟だろ。失神するほどまずい味ってどんな味だよ(笑)」とか考えてた気がする。まあ、茶化せる雰囲気じゃなかったから「たった一人で地獄を歩くより、二人の方がマシだろ」とか格好つけたけど。
    まあ、そうしたら傑が俺と一緒になって高等数学やり出したのは驚いたっけ。あれはたしか、無下限呪術は使うだけで脳みそ茹だりそうとか愚痴こぼしたのがきっかけだった気がする。
    まあ、一人より二人の方が何万倍もマシって言うのは俺も該当するみたいで、傑が心配しながらあんだけ喜んだのはこう言うことか、と理解してみたり。
    「悟様、傑くん、お待たせしました。アイスはガツンとマンダリンとゴリゴリくんが車内の持ち運び冷凍庫に入ってます」
    「おせーぞ伊地知!」
    「ありがとうございます伊地知さん」
    どうぞ、と差し出されたタオルを受け取って濡れた足を拭く。
    冷房が効いた車内は本当に快適だと思った。

    ■■■

    【○○県**村(現在は廃村)、神社跡地】







    「悟様‼︎」

    伊地知が叫んだ。真っ青な顔で、「悟様、傑くんっ!」と俺たちの名前を呼ぶ。なんだか様子がおかしい伊地知に「これはただ事ではない」と察する。
    「どうしたんですか?」
    「お前、顔真っ青だけど」



    「……今。予知を、しました」

    「予知が鮮明であれど断片的であったことから、おそらく三年から5年以内に起こる内容です。
    今から共有いたしますので……失礼します」
    「おう」
    伊地知が俺の頭を鷲掴む。傑は「えっ」と少し驚くが、これも術式のうちなのだから仕方がないだろう。「早くしろよ」と俺が急かせば躊躇いがちに伊地知に頭を差し出した傑。それを伊地知は鷲掴みにした。割と容赦がない。こう言うとこ見ると、伊地知もちゃんと術師だなぁと思う。
    「では、いきます」
    手のひらを通して、脳に直接記憶がぶち込まれる。
    断片的な記憶。ワンシーンごとに動画がぶつ切りになって、雑に繋ぎ合わせて編集したような映像。
    黒い髪の女の子の映像。偉そうな態度、どこかの海、メイドの女、薄暗い室内のどこか、どこかの道端、口元に傷がある男らそして血溜まり。
    俺が真っ二つに切り捨てられて、傑は十字に袈裟斬りされた。
    そして最後は脳天を撃たれて射殺されたあの少女……。

    「……なにこれ」
    傑が呆然と呟く。
    「これが伊地知の術式だよ。未来予知とその記憶の共有。
    後天的に血脈に付与される珍しい生得術式」


    「とりあえず、今わかることは3つだな。
    1.あの三つ編み女は命を狙われている。
    2.俺たちはおそらく、あの三つ編み女の護衛がなんかをしていた。
    3.それが原因で俺たちはゴリラ男に殺される」
    「私と悟が同じような制服を着ていたから、おそらく高専に入学してからのことだろう。最短で2年……短いな」
    「いえ、最短は三年でしょう」

    「ニ年までなら、私の術式はもう少し詳しい情報が引っ張れます。
    あれだけ映像が断片化されているとなると、三年以上。それにしては記録が鮮明だったので、五年より先の未来ではない。
    結論として、三年から5年以内に起きる出来事だと推測できます」



    17歳、夏(星漿体護衛任務)

    「とうとう来たな、傑」
    「ああ、とうとう来たね、悟」

    夜蛾にその任務を命じられた時、二人で目を合わせて頷いた。

    「「俺/私たちの敵のハイパーゴリラと戦う時が……っ!」」

    伊地知さんにその未来を予知されてから三年間。私たちは二人で同じ目標を目指して走り続けた。全ては巫女姫を狙う悪の組織の手先にして最強の手駒のゴリラ男を倒すため。
    まあ、巫女姫うんぬんは厨二病だった私たちがそれっぽく生やした補足設定だったのだけれど、まあ似たようなものだろう。
    星漿体護衛任務。内容は星漿体の少女の護衛と抹消。おそらく、あの日伊地知さんが観測した未来の記憶はこの任務の内容と類似している。
    「油断するなよ、悟」
    「とーぜん。お前こそ、油断して殺されんじゃねーぞ」




    「そういえば。伊地知さんってどうして悟の従者をやってるんですか?」
    「傑くんは知りませんでしたっけ?
    悟様に自分自身を売り込んだんですよ。」
    「そうじゃなくて、そもそもなんで悟だったんだろうって……。」
    「あはは」
    からからと力無く笑う姿はどうにも哀れで、使いっ走りにされまくってる普段の苦労を察せるというものだ。
    「傑君、悟様は大切ですか?」
    「え?」
    「私は、悟様を孤高のままひとりにしたくな一人にしたくないんですよ」




    「私の術式は未来予知です。この術式は相伝術式なんですが少し特殊でして。
    相伝を持っていた前任者が死ぬと、後任に引き継がれるんです。
    大抵は直系の嫡男に引き継がれます。が、多分なんらかの不祥事があったんでしょうね、どういうわけか私が引き継ぎました。」
    十中八九不倫ですね。とカラカラ笑いながら告げた伊地知さんは何か黒いものを背負っていて、生々しい話に少し引く。
    「相伝を引き継いだとわかった時、私がみた未来は家族を失う未来でした。」
    静かな語り口で、滔々と流れるように語られる言葉。
    「妻は殺され、息子は奪われ、私は人権を奪われる。
    何もかも失った私はただ未来を予知して、呼吸をするだけの人形として生きるんです。地獄ですよ。
    だから、私は悟様に庇護を求めたました。その未来が一番私が求める条件に合致していたからそう選びました。
    悟様が望むがままに未来を予知し、その結果を一つの取りこぼしもなく差し上げる。
    代わりに私の大切な家族を守っていただく。まあ、結果だけ見れば傑君を売り飛ばして御慈悲をいただいたわけですね。」
    「私、知らないうちに人身売買されてたんですか?」
    「はい、高値で売り飛ばしましたよ。お陰で私は悟様専属従者です。ありがとうございます、傑くん」
    とんでもないことを悪びれなく言い切るところを見ると、「ああ、この人も術師なんだなぁ」と思う。いつも穏やかな顔で付き従うか、胃を押さえてるところしか見ないからかえって新鮮だ。
    「売られたのかもしれないけど、私は伊地知さんを恨んでませんよ。
    悟がいなければ、今も私も呪霊のことを誰にも話せないで孤独なままだった。」
    「そうですか。ですがそれは結果論です。」


    「私はね、傑君。君に負い目があるんですよ」

    「だから、教えてくださいね。悟様に言えない君の悩みも、心の内側も。
    私は君の未来がわかってしまうから、隠したって無駄ですよ。」
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    たんごのあーる

    TRAINING16巻の衝撃にうなされるようにしてひとつ。ショートショート。目が覚めたら、まだ真夜中だった。隣で眠っていたはずの傑がいない。悪夢の続きかと思うと、鼓動が不規則に激しくなり、呼吸が乱れる。
    とりあえずひとつ深呼吸して、周りを見渡す。薄いカーテンの向こうのベランダで、ホタルのように明滅する小さな光を見つけ、慌ててベッドから降りると、引き寄せられるようにその広い背中に縋り付いた。
    「悟?どうした?目、覚めちゃた?」
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    「身体、冷えて 573