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    MondLicht_725

    こちらはじゅじゅの夏五のみです

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    MondLicht_725

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    呪専時代の夏五
    風邪っぴき夏の話

    #夏五
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    【夏五】いつもとは違う顔「…お前、大丈夫かよ?」
     覗き込んでくる五条に、いつもの傲慢さはない。まるで置いてけぼりをくらった幼子のように、青い目は不安げに揺れていた。大丈夫だよ、と伝えたかったのに、耐えきれなかった咳に邪魔される。こんなときどうすればいいのかわからないのだろう、ただおろおろと周囲を見渡して狼狽える。
     あの、五条悟が。
     そう考えればなんだかおかしくて、思わず顔に出てしまっていたらしい。なに笑ってんだよ、と顔を顰めた。
    「だい、じょぶ、だから。ほら」
     もう出なければならない時間なのだろう。白い頭の向こうに、困った顔で中を覗き込んでいる補助監督が見える。急がなければならないが、無理やり連れだすほど非情にもなれない。
     だから、夏油から促すように腕を撫でた。
    「くすり、飲んだし。あとはおとなしく、寝てれば、治る」
     回復しないようなら病院へ連れていくと担任である夜蛾は言っていた。熱は39度を超えている。全身怠くて、咳が止まらない。
     ただ、夏油としてはこのまま寝てれば治るはずだと楽観視している。風邪を引くのは初めてじゃない。今までだってそうして次の日には回復していたのだ。
    「仕事、でしょ。ほら、行きな」
     いつまでも動こうとしない五条を、もう一度促す。一度入り口を振り返って、もう一度夏油を見る。
    「ちゃんと、寝てろよ」
    「うん」
    「なにかあったら、教えろ」
    「わかった」
     後ろ髪引かれる、というのはこういうことを言うのだろう。渋々、仕方なく、という態度を隠そうともせず、何度も何度も振り返りながら、五条はホッとした様子の補助監督と一緒にようやく部屋を出ていった。
     タイミングを見計らったかのように、再び咳が襲ってくる。苦しさに、涙が滲む。
    「はー、しんど」
     ひとりだからこそ吐き出せる本音をこぼして、なんとか眠ろうと目を閉じた。






     ひやりとした手が、頬を撫でる。冷たくて気持ちがいい。まだ高いわね、と心配そうな声が言う。母の声だ。
     薄っすら目を開ければ、優しく微笑んだ顔がある。
    「大丈夫よ、すぐに良くなる」
     頬や頭を優しく撫でられて、力が抜けていく。ひとりじゃないのだと安心できる。だから、離れようとした手を追いかけて、掴む。
     おねがい、そばにいて。ひとりは寂しい。
     母は驚いた顔をしたが、すぐに笑って握り返してくれた。
     大丈夫よ、ずっとここにいるからね。






    「あ、起きた」
     一瞬、混乱する。今そこにいたのは、母だったのに――今目の前でニヤニヤと、人の悪い笑みを浮かべているのは。
    「―――さとる?」
     思ったより、きちんと声が出た。薬が効いたのか、幾分体が楽になっている。気がする。
     それよりも。
    「もう、かえってきたの?」
     予定では確か、明日までかかるかもしれないと聞いていた。まさか寝ている間にそんなに時間が経ったのだろうか。
    「あんな雑魚、一瞬で終わった」
     べぇ、と舌を出す。つまり、さっさと祓除を終えて、予定よりも早く戻ってきたということなのだろう。
     なぜか、なんて。自惚れてもいいのだろうか。
    「それよりお前、やっぱ寂しんぼうじゃねぇか」
     ニヤニヤ、ニヤニヤ。五条がやけに上機嫌ににやついている理由が、ようやくわかった。持ち上げた五条の右手を、夏油の右手がしっかりと握りしめているのだ。
     夢を見ていた。幼い頃、風邪を引いて寝込んでしまったときの夢。しんどくて、苦しくて――寂しくて。ひとりにしないで、傍にいてと懇願した夏油に、母は優しく笑ってずっと手を握ってくれたのだ。
    「あー…」
     夢だと思っていたのに。一体なにを口走ったのかは、このムカつく顔を見れば大体想像はつく。離そうとした手は逆に強く握りしめられて叶わない。
    「さみしんぼうの傑ちゃん、寝るまで傍にいてあげまちゅよ」
     明らかに、喧嘩を売られている。しかも、こっちがまだ満足に動けないことを知っていて、だ。
     夏油はにっこりと笑い返した。そっちこそ、放っておかれれば拗ねる寂しんぼうのくせに。朝自分がどんな顔をしていたのか知らないのだろう。
    ちゃんと、相手をしてあげないと、子どもはいじけてしまうから。
    「悟」
    「え」
     握られた手を、そのまま強く引っ張る。無防備だったせいか、簡単に倒れてきた体と入れ替わる。状況を把握できない青が何度か瞬き、夏油を見上げた。
    「じゃあお言葉に甘えて、寝るまで付き合ってもらおうか」
    「は?いや、ちょ、待、」
     繋いだ手をシーツの上に縫い付けられて、ようやく事態を把握したらしい五条が、一転して慌てふためく姿が面白い。
     もう片方の手でシャツを捲り上げ、首筋に唇を寄せて―――。
    「あー…やっぱり無理」
     襲ってきた眩暈と怠さに、そのまま沈む。
    「…まだ熱いじゃねぇか。大人しくしてろよ」
     へへん、残念でしたぁ。下で笑う五条に腹が立つが、事実なので仕方がない。回復したら絶対やり返してやると心に誓いつつ、体を起こそうと身じろぐ。しかし逆に背中に回された腕に引き寄せらえて、動けなくなった。
    「しょうがねぇから、寂しんぼうの傑ちゃんの傍にいてやるよ」
     任務も速攻で終わらせてきたしな。肩口に顔を埋めているので顔は見えないが、きっと得意げな顔をしているに違いない。
     誰かを慰める、なんてことに慣れていないぎこちない手が、ぎこちない動きで背中を撫でてくる。それでも、夏油にとっては他の誰の手よりも温かくて、なによりも嬉しい。
    「このまま寝たら、君に移しそうだ」
    「大丈夫だって。俺、風邪なんてひかねぇもん」
     自信満々に言い切られると、本当に大丈夫な気がしてくる――のは、風邪で頭が働いていないせいなのだとわかったのは後日。
     けれどこのときはどうにもこのぬくもりを突き放すことができずに、結局そのまま寝てしまったのだ。







     次の日。どうやら今度はもう片方が風邪を引いたようだと報告し、家入にチベスナ顔を返されたのは、また別の話。
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