駅に着くと、見慣れた姿が立っていた。
見慣れた、と言っても、着ている服は初めて見るものだし、そわそわとしながら辺りを見回す姿は明らかに浮き足立っている。
「……お待たせ、穂波」
「! お、おはよう、志歩ちゃんっ!」
私を視界に捉えるなりアクアマリンの瞳を輝かせた穂波は、スカートの裾をきょろきょろと一通り見て、顔を上げた。
「そんなに気にしなくても、大丈夫だよ」
「ううん、志歩ちゃんの隣を歩くんだから、」
穂波は時々、無自覚で爆弾を投下する。
「……出来る限り可愛いわたしで居たいな、って…」
なんちゃって、と慌てて付け足して誤魔化す穂波の手を、少し強引に握る。
「…待たせてごめん、誰にも声掛けられなかった?」
「うん、大丈夫だったよ。……そんな心配、要らないのに…」
「何言ってんの」
頬の横に垂れる髪を一房、空いた手で掬い取れば、顔を覗き込んだ。
「私の為になる前から、穂波は可愛いんだけど?」
「……は、い、」
「…行こっか」
穂波の手を引いて、駅の中へと続くエスカレーターに乗る。
今日、私達は、秘密のデートをする。