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    yuki_me_nko

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    新洸/🍫🍓

    ワードパレットより
    「一目惚れ」「声」「足音」で書かせていただきました。

    #新洸
    newSurge

     談笑の声、電車の音、信号機の鳥の鳴き声。休日の駅前は音が入り交じって、不快でない程度の騒がしさに満ちている。
     そんな喧騒の中で、たったっ、スニーカーのつまさきがアスファルトを蹴る音が聞こえて、柱から背を離した。

    「遠野、悪い、遅くなって……!」
    「おはよう、洸太郎くん。走ってきてくれたんだ」

     手を引いて、駐輪場前の自動販売機へと、ゆっくりと歩く。

    「遅くなったって言っても、俺が早く来ただけで、じゅうぶん間に合ってるよ」

     一番上の段、中央のボタンを押せば、ICカードを灰色の部分に押し付けた。その数秒後、ガコン、と重みのある物が落ちる音がして、取り出し口から手を差し入れてペットボトルを取り上げる。

    「はい、どうぞ」
    「ん、悪い……」

     ぺこ、ぺこ、と鳴らしながら350mlを飲み干した洸太郎くんは、自販機横のゴミ箱に空のペットボトルを突っ込んで、ようやく俺と目を合わせた。

    「ありがと、な」
    「どういたしまして。……行こうか」
    「ん!」

     デート中の洸太郎くんは、いつもよりも積極的だ。
     差し出された手を握れば、にぱ、と満面の笑みを向けてくるし。

    「遠野、あー」

     自ら口を開いて『一口ちょうだい』をねだってきたり、

    「とーの、あれ、何だろうな」

     腕に抱き着いてきたり。
     その度に走る鼓動に知らん振りをして平静を保っていることは、どうにか一生隠したい秘密だ。

     ひっそりドギマギドキドキしながら、気が付けば夕暮れ、空は橙色と濃紺が溶け合う頃。

    「さて、と。送っていくよ」
    「ん、ありがとな」

     最初のうちは自分も男だから、とか、申し訳ないから、だとか、そういう理由を並べていたけど、いつの間にやら送らないと寂しそうな顔をするようになった。わがままな一面を見せてもらえるというのは、恋人冥利に尽きるというもので。
     夏服が入荷したら、またあのお店に行こうか。あそこの期間限定のアイスはたまに奇抜なのがあるから、今度教えるね。楽しい時間というものはあっという間で、そんな他愛もない話をしていれば、あっという間にいつも別れる公園まで来てしまった。

    「それじゃあ、次会うのは明後日の練習かな。今日はゆっくり休んでね」
    「遠野も、ちゃんと休めよ〜? 無理しがちだからな、どいつもこいつも」
    「なるべく気を付けるよ。じゃあね、洸太郎くん」

     くん、と文字通り引き止められる感覚に、首を捻って振り返る。

    「あ……」
    「……少し、座ろうか」
    「……ん」

     掴まれた手をやんわりと離させれば、デート中と同じように、指を絡めて握り直す。それだけで頬を染めるものだから、本当に愛おしくて仕方がない。
     ふたり並んで、ベンチに腰掛ける。洸太郎くんの住む家は目と鼻の先だから、少しくらい大丈夫だろう。

    「覚えてる? 俺が、告白した時のこと」
    「わっ、すれられるわけ、ないだろ、!?」
    「あはは、それならよかった」


     あの日――『BROWN』で、彰人くん、それからVivid BAD SQUADと、対戦した日。
     Vivid BAD SQUADに背を向けて、今日はどこのチョコレートパフェを食べに行こうか、と思案していた時。

     とっくに次の組が歌い始めていて、舞台袖にも音が流れ込んできていたはずなのに、何故か、はっきりと聞こえた。彼らの元に駆け寄る、足音が。

    「お、お前ら〜……!」

     泣きそうな程の感情を滲ませて、そう呼び掛ける声が。
     くるりと振り返れば、そこに立っているのは一人の、少年と青年のあわいを彷徨う年頃の彼。特段、目を惹く容姿でも――言ってしまえば、華があるわけでもない。なのに、俺の視線は釘で打ち付けられたように、彼に固定されていて。
     ひらひら、と四人に手を振って、こちらに向かってきた彼の腕を、俺は堪らず掴んだ。

    「少し、いいかな」
    「へ?」

     きょとんと傾げた首の角度までも可愛く思えて、そこでようやく俺は彼に一目惚れをしたのだ、と気が付いたのだった。


    「……あの後、気が付いたらファミレスでパフェ奢られて、挙句の果てに家の前で告白されて、びっくりしたんだからな」
    「あはは、ごめんね。気が急いてたんだと思う。あのまま帰すわけにはいかないな、って」
    「……遠野って、オレのこと好きだよな」
    「うん、好きだよ」

     臆面もなく告げた言葉は、どうやら洸太郎くんの心に響いたらしい。

    「……オレも」

     涙を隠そうと目を逸らすよりも、自分の想いが伝わるようにと真っ直ぐ相手を見据える、そういう所が好きだなあ、と。そう思っていれば。

    「オレも、たぶん、……一目惚れだった」
    「え」
    「かっこいいし、歌上手いし、色々と癪に障るけど、……でも、あばたもえくぼって、こういうことなんだろうな」
    「……はぁ」
    「え、オレ、何か変なこと――」

     頬に手を添えれば、そっと唇同士を重ねる。見開かれた瞳が明滅する電灯に時折輝いて見えて、額を合わせた。

    「……持ち帰りたいなあ」
    「来年まで待つって言ったのは、どこのどいつだよ」
    「まあ、俺だけど、さ」

     それはそれとして、男心というものが別問題で発生していて。

    「家で寂しくないように、声だけ、録音させてくれない?」
    「妬くからいやだ」

     なにそれ、かわいい。
     ぎゅうっと抱き締めれば、潰れた蛙のような声が上がった。
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