たきいぶきが色々と悩んだりする話の最初〜中盤ぐらい-
ふとした事だった。たまたま見かけてしまった、自分自身への言葉。
「滝維吹には実力がない。紅月のメンバーの存在感をかき消している。あの子が入ることで"紅月らしさ"をかき消してる。
蓮巳くんも鬼龍くんも神崎くんもどうしてあの子を入れたんだろう?」
自分自身の携帯画面に写るそんな言葉がやけに胸に残った。
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その日からあまり眠れてない
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-ESビル空中庭園-
「滝」
音楽を鳴らしながらダンスの練習をしていると後ろから声をかけられた。
かけていた曲を止めて敬人の所まで走る。
「蓮巳サン。お疲れ様ね」
「ああ…お疲れ。お前はこんな所で……」
敬人は何かを言うとして言うのを辞めた。そしてまたため息をついてから話し始める。
「滝。最近無理していないか?」
「そんなことないね〜?疲れてるように見える?」
敬人はしばらくじっと維吹を見た後また小さく口を開けて声を出した。
「いや…見た目では分からないが…それにしても練習のし過ぎだ。少しは休め」
今日は休息日だぞ…と敬人は言う。
「練習は必要だからしてるだけね?
それに変に疲れないようにコントロールもしてるさ〜♪なんにもない、ね〜?蓮巳サンは優しいさ!」
それにあんまりやりすぎると同室の人に心配されちゃうね〜♪礼瀬サンも真白サンもすぐ気がつくね。
維吹はせかせかと自分の荷物をカバンに詰めて振り向いた。
「でも蓮巳サン心配するし、今日はもう帰るさ〜♪」
「ああ」
敬人はそう言ったあと維吹に手を差しのべる。
「俺も今日はもう帰るつもりだ。一緒に帰ろう。滝」
維吹は目をぱちくりとさせると差し出された手を受け取る。
「にゃっはは!一緒に帰るね〜♪」
立ち上がったあと行こうと言って歩き出した敬人の後ろを追いかけて行った。
-とちゅうまだかいてる-
うーー泣き止むさ〜こんな事で泣いてちゃアイドルなんて出来ないね〜。
チカチカと光る自分の携帯をそっと閉じたあと腕でグイグイと目元を擦った。何度擦っても擦っても、擦りすぎてヒリヒリとしても涙は止まらなかった。
"要らない"
"滝維吹が入ってから紅月のレベル落ちてる"
"今までの紅月はどこに行っちゃったの?"
"紅月は永遠に3人"
"3人でいいのに"
ダメだって分かっていたのに見てしまってから心に残り続けてる。
気持ちばっかりが焦ってどうにもならない。
時が解決するかも、頑張ったら認めてもらえるかもって、思いたい。
「ふ…ぅ……」
悔しい。悔しいね。頑張っても認めて貰えない。無条件で要らないって言われる。
居場所が欲しかった。ここなら…紅月なら吾の居場所になるって。吾が望んで、"紅月"だから入りたいって思った。吾が大好きだと思ったユニットだったから。ここに居たいって思ったから。
自分の居場所はない、そうやって突きつけられる現実が、痛みが、酷く苦しかった。
まるで独りだけ暗い穴の中に居るようだ。底抜けの穴。落ちて落ちて落ち続ける。這い上がることも出来ないような真っ暗な穴。
涙止まらないさ〜…止まって欲しい。
止まれ、止まれ、止まれ、止まれ……
「ぐすっ……どうしよう、止まらないさ…」
「わ?!えっと君……」
声が聞こえてパッと顔を上げると維吹の知らない金髪の男の人が立っていた。
見られた。見られた……?!
「えっと君、紅月の蓮巳くんの後輩くんだよね?えっと確か…滝維吹くん。うん…滝くんだ」
「えっと…」
金髪の人に見られながらも維吹の目から涙は止まらなかった。
「ああ。そっか滝くんは入ったばっかりだから知らないよね。俺、紅月と同じリズムリンク所属のユニット『UNDEAD』の羽風薫だよ。わかる?」
薫は何事もないようにニコッと笑って答える。
「ごめんさ〜分からないね…」
「あはは!だよね!気にしないで!あっ隣座ってもいい?」
俺も休憩しに来たんだよね、ここ人こないから気楽でさ〜
と薫は言ったあとに維吹の隣に座る。
「はっ?えっと…」
「あっこれ飲む〜?お茶。喉乾いてるでしょ。ほら」
「ありがとうございます…?」
持っていた2本のペットボトルのうち1本を維吹に手渡す薫。
そして、手に持ってた携帯を少しだけ操作したあと維吹の方に向く。
「ふふふっ♪君の事、紅月の子達から聞いてるよ〜。滝くん入ってから蓮巳くんも鬼龍くんも颯馬くんも、君の話しかしないからね。久しぶりの後輩だからかな〜。3人とも嬉しいみたい」
颯馬くんなんて後輩は同じユニットでは初めだもんね〜かわいいよね〜と言葉が続いた。
「はぁ…」
「この前ね〜リズリンの同級生…え〜っと、俺と俺と同じユニット零くん、えっと朔間さんね。あとRabbitsの仁兎くん。それから君の先輩2人と話してたんだよね。」
薫は手に持ってたペットボトルから少しだけお茶を飲む。
「俺たち同級生たまに集まって自分たちのユニットの近状報告し合ってるんだ。同じ事務所だし同じ学校卒のユニットだからね。まあ手を取り合ってって程じゃないけど、協力できることはしようって感じ?まあ滝くんが紅月入るまでにも色々あったからね」
「そこで滝くんの話題沢山出てたんだよね〜蓮巳くんがべた褒めしてたよ」
「滝は努力家だとか、笑ったら可愛いとか、ダンスも歌もセンスがあるとか、沢山頑張ってるんだって〜。
君の事、蓮巳くんも大好きなんだね〜」
熱烈なラブコールだねぇと言ったあとまた1口薫はお茶を飲む。
維吹もそれに釣られるようにペットボトルを開けて1口飲み込んだ。
「鬼龍くんも。紅月のダンスって結構難しいでしょ?単純なダンスじゃないし。それを短期間で見せられるレベルまで持ってきて俺たちについてきてるのすげぇし根性あるってさ」
「颯馬くんもね〜あっ颯馬くんはね、俺の学生時代の部活動の後輩なんだよね〜それで今は…オーシャンズって分かる?ESの中にあるサークルなんだけど…そこも一緒で、よく話すんだけど…。颯馬くんもべた褒めって感じ。素直じゃないけど、君のことかなり気に入ってるみたい」
「弟みたいに思ってるのかな〜まあ颯馬くん実際に弟もいるし、滝くんのこと可愛いって思ってるみたいだよ。会う度に滝が〜って自慢されるもん」
「兄様たちが…」
薫は維吹の顔をみて、またふわりと優しく笑った。
「……蓮巳くんや颯馬くんに褒められるの結構すごいんだよ?俺、学生時代の時結構やんちゃしててさ。その時も良く『もっと真面目にやれ』って怒られてた。まあ今もたまに言われるんだけど〜。朔間さんが結構ふざけてる時あるしそのせいかもだけど!」
「今は自分なりにも結構頑張ってるし、割と真面目だけどな〜あははっまあ中々着いたイメージは消えないよね」
薫は維吹の方を見ずに真っ直ぐどこかを見つめる。しばらく何も言わずにそっと顔を伏せたあとまた維吹の方を見た。
「真面目でいい子。教えたことをすぐに吸収して活用出来る。
みんなの話してること聞いてる感じだと、器用で賢い子って感じ♪」
頭をそっと撫でてそのまま薫は維吹の目元を指でなぞった。
「まだ止まらないね…。器用だからこそ…なんだろうね」
薫は眉を下げて笑う。
滝くん見てると出会った頃の零くんを思い出すなぁ…と小さい声で薫は言う。
「ねっ。滝くんはさ、先輩達に何も言えない?蓮巳くん達は頼りない?」
「俺も伊達に先輩してないからさ。後輩が1人で泣いてるのに頼ってくれないの、俺なら結構悲しいかも。
滝くん俺のユニットの後輩では無いけどさ、同じリズリンで歌ってる後輩くんだから。」
「俺ですらそうだもん。蓮巳くん達なんてもっとそうじゃないかな…?余計なお世話かもしれないけど…何があったかは言わないの?」
維吹の目から少しだけ涙は引いていた。それでもポロポロと溢れ落ちるのは止まらない。
「ううん…そうじゃないね……兄様達に吾がまだ頼るべきじゃない…って思うって言うか…」
薫はまたぽんぽんと維吹の頭優しくを撫でる。
「吾が…弱いだけさ…吾が自分で、解決しなくちゃいけない事ね。だって、はみ出しものの吾を、『紅月』は…蓮巳サンも鬼龍サンも神崎サンも…受け入れてくれて、それだけで吾は嬉しい…のに……」
薫に話す維吹の目からはまた大きな雫がこぼれ落ちていく。
「これ以上何を望んでいいのか…分からないね……吾の居場所をくれた人たちに。吾は…」
維吹はそんな薫を嫌がらずに撫でられ続ける。
「ええ〜?そうかな…」
薫はその後何も言わずに小さく体育座りで座る維吹の頭を撫で続けた。薫の手元で携帯がピカピカと光る。
「ん〜……君の兄様たちは滝くんに話して欲しいみたいだよ」
「それに、滝くんはもっと欲深くなっていいんじゃないかな?」
薫がそう言った後
「滝!!!」
薫と維吹が座っていた所に大きな声が聞こえてくる。敬人にしては珍しく、大きな足音を立てて走ってきた。
「おっ来た来た」
「蓮巳サン…」
「滝……」
敬人は蹲りながら顔をこっちに向けた維吹を見て一瞬目を開く。その後すぐに薫の方につかつかと歩いてきた。
「遅いよ〜蓮巳くん」
「滝から手を離せ。羽風」
「ええ〜?酷くない?」
薫はパッと維吹の頭から手を離した。
「俺、滝くんが心配でそばに居たのに〜」
「それには感謝する。それからこれでも全力で走ってきたんだ」
「なんで……?」
二人の会話を遮るように維吹は小さな声でそう言った。
「俺が呼んだの。ごめんね、騙すみたいな真似しちゃって」
「吾は…」
敬人は薫の隣から無言で歩いてくると維吹の前に立って立ち上がってた維吹の手を掴んだ。
「滝。何があった?事務所か、他事務所か。誰がお前をここまで泣かせた。傷つけた?
もし誰かわかるなら教えろ。
お前を傷つける人間を俺は許せない。
いや…もしかして俺たちか…?紅月に居るのがしんどいのか。練習量が多かったか?お前は出来るやつだと思って難しい練習内容にしていた自覚はある。もしそれが嫌ならやめよう。お前が泣くほど苦しいのなら他の事をしよう。
だからお願いだ、1人で泣かないでくれ……」
「あの…蓮巳サン……」
敬人はぎゅうっと維吹の身体を抱きしめる。
「はいはい〜蓮巳くんストップ。滝くん困ってる」
「しかし……」
「蓮巳くんの悪い癖。詰め寄ったら話せないでしょ?蓮巳くん同じ事されて話せるの?」
薫に言われながらも維吹を腕から離さない敬人に向かって薫はため息をついた。
後輩大好き人間め……とボソッと薫が言った後、薫の携帯から音が鳴る。それに薫は出て少し話したあと維吹と敬人の方を向いてこう言った。
「取り敢えず場所移動しない?」
零くんが会議室取ってくれたって。
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「して、これはどういう状況かえ?」
「ん〜………廊下の隅っこで泣いてた滝くんを俺が見つけて保護して、蓮巳くんに連絡して、零くんに会議室取るように連絡して、蓮巳くん、颯馬くん、鬼龍くんと合流してここに連れてきたって感じかなぁ……」
「それは分かっておる。我輩が言っておるのは今の目の前の状況じゃよ」
零と薫の目の前には滝を膝の上に載せる敬人、そんな2人事抱きしめる颯馬、ひたすら滝の頭を撫で続ける紅郎。そして全く泣き止む様子のない維吹の姿があった。
「蓮巳くん。そろそろ話さないかえ?」
「しかし…まだ滝が泣き止んでなくてな……ああ目元が赤くなっている。袖が濡れているな…袖で拭っていたのか…?それだと痛いだろう…」
「旦那、タオルだ。これならそこまで痛くないはずだぜ」
「ありがとう鬼龍。ほら滝。顔を拭こう。そのままではせっかくの男前が台無しになってしまう」
離れる様子のない3人に零と薫はため息が出る。
「うむ…ダメじゃのう」
「そうだね」
「しかし話さぬと進まぬからの…」
「でも俺達もさ、もしアドニスくんやわんちゃんが泣いてたら同じ事するかもしれない……落ち着くまで待つ?」
「しないとは言えないのう…いや…確実にやるのう…」
「だよね〜…」
ガチャっと扉の開く音が聞こえて後ろを振り向くと零ちん〜っと言う可愛らしい声が聞こえた。
「おや?仁兎くん。来てくれたのかえ〜ありがとう」
「いや零ちんが呼んだんだろ……?んで維吹ちんの状態………って、なんだあれ……」
「うんうん、そうなるよねぇ〜?!」
なずなの向いた方向には紅月が居る。
「まあ…珍しい光景ではあるな…?あっ後で友ちんもこっちに来るぞ〜維吹ちんと同室だから。滝の着替えいるんだろ?」
「あっほんと〜?着替えいるいる。泣いちゃって服がね〜俺たちのだとちょっと大きくてさブカブカになっちゃうから。それから紅月はここに連れてきた時からもうあの団子状態だよ。どーしようかなぁって思ってた所」
「まあ…敬人ちんも紅郎ちんも後輩大好きだからな……暴走しちゃった感じか〜?」
「そんな感じじゃろな」
「颯馬くんなんてもう何も言わないでずっと抱きしめてるもん。珍しいよねー……」
薫の視線の先には抱きしめたまま微動だにしない颯馬がいる。
「蓮巳サン……あのもう大丈夫ね?離して欲しいさ…」
「離せばお前は逃げるだろう?」
「うっ……にっ……逃げないね…」
「ふむ…。その返事の仕方はダメだ。
このまま話そう。
すまない羽風、朔間、二兎。色々頼めるか?」
「乗りかかった船だからね〜なんでもどうぞ」
「助かる。滝、ゆっくりでいい。お前に何があったかを聞かせてくれ」
「逃げないからまず離して欲しいね〜?!神崎サンも離して欲しいさ?!結構力強くて痛い!」
「ダメである。滝には前科(沖縄)がある。大人しく抱きしめられてるが良い」
「離してほしいさ〜っ!鬼龍サン!!」
「まあまあ滝。これは隠し事をしたお前が悪い。そのままさっさと吐くんだな」
「鬼龍サンも味方じゃないね?!」
「羽風サン!『なずな先輩』!」
「諦めた方がいいと思う」
「諦めろ滝」
「そういうことだ。諦めろ滝」
「うう……」
維吹は紅月3人に可愛がられながら諦めたように息を吐くと少しづつ話し始める
「逃げないしちゃんと話すね…」
「えっと…たまたまだったね。吾と同じナッさんに連れてこられたエスプリの子達の事をSNSで見てたのさ〜。あの子たち若い子たちだから、結構SNSを面白おかしく使っててね〜参考になるし、あの子たちが何してるかも知れるから見てただけよ。」
「そしたらエスプリのファンの人達が拡散してた酷く伸びてる発言があったのね……
それが吾の事だっただけさ〜」
「書かれてることは自体はそんなに大した事じゃ無かったね。たぶん…客観的に見たただの事実」
「けどそれがずっと残ってて」
「どんどんダメな方に考えてしまったというかね?」
維吹の声がどんどん小さくなっていく。
「何を書かれていたんだ?」
「それは………」
維吹は答えない。
答えないまま俯く維吹。
「お前が何も言えないという事は余っ程だろう……」
「蓮巳くん。多分これじゃないかな」
薫からiPadを渡されそうになるのを維吹は止めようとしたが、抱きついていた颯馬が維吹を動けなくしていた。
見ちゃダメね!と鼻声で言う維吹を他所に、敬人と紅郎は薫から受け取ったiPadを2人で見る。
中身を見る敬人と紅郎は最初は何かを言いながら見ていたがどんどんと無口になっていく。
"滝維吹は要らない"
"滝維吹が入ってから紅月のレベル落ちてる"
"今までの紅月はどこに行っちゃったの?"
"紅月は永遠に3人"
"3人でいいのに"
"3人の紅月を私たちに返してよ"
「なん…だ、これは」
「蓮巳よう…これ…」
HN-3人が良かった-@xxx_xxxxx_xx
ずっと紅月が好きだった。
3人の家族のような温かさも、そんな3人から作られる音楽も全部が好きだった。
滝が入ってからそれが壊れた。大好きだったのに聞けなくなった。返してよ。私の大好きな3人を返して。要らない、滝維吹は要らない。
返して。
3人を返して。
6.502RP。10.207♡
「これは……」
「お前はこれを…一人で見てたのか?こんなものを……??」
「………吾はたまたま見ただけね…この人たちは悪くないよ…」
「しかし……」
「本当の事ね!吾が入ってから崩れてるのは本当の事さ!吾の実力も努力も全然足りてないから、だから、だから言われて。吾が悪い…から…」
滝は身を捩って蓮巳の手からiPadを奪おうとした。でも取れない。
「もう調べない方がいいっ!!
気持ちのいいものでもないよ。吾がもっと頑張って認められればいい話で……」
敬人の腕の中で維吹は小さくそう言う。
「見なければ、お前だけが頑張れば済む……?
そんなことで済む話じゃない!!これは立派な……っ……!!」
維吹は敬人の声に重ねて叫ぶ。
「それでも!!言われてる事は本当の事ね?!吾が至らないからよ!!それはほんと…」
「ならなぜお前は今泣いている?
悲しいからじゃないのか?!嫌だからじゃないのか?!」
敬人は維吹の顔を自分の方に無理やり向けた。
「いた…痛いね!蓮巳サン!やめてほ…」
「辞めるのはお前だ!意地を張るな!嫌なら嫌と言え!苦しいなら苦しいと叫べ!お前がそう言うなら俺は…俺達だけは受け止める。
どんな言葉でも受け止める。お前を見出した日から、俺はその覚悟なんだ」
「お願いだ滝。1人で悲しむな。抱えこむな。辛いなら辛いと…言ってくれ……」
1人で涙を流すぐらいなら俺たちを頼ってくれ。
敬人は維吹の手を優しく握りながらそう言う。
「なんで……?」
「滝…俺たちはそんなに…頼りないか?お前の兄様達は。お前にとって頼りないか?」
「違う!!そんな事ない!!そんな事ないよ…」
「頼ってもおこら…ない…?」
「怒る?何故」
「だって吾は……鬼の子ね……みんなに忌み嫌われる鬼の子……」
「だからなんだ?お前は鬼なんかじゃない。滝維吹という一人の人間だろう」
「一人の人間だからこそ、他人からの強い言葉に傷つき、心が痛み苦しいんだ。お前のその涙はその痛みの証だ」
「なんでぇ…蓮巳さんは……吾を助けてくれるのね………」
「お前はもう、俺たち-紅月-の家族だからだ」
「かぞく…」
家族と、維吹が小さい声で言ったあと、大きな目からポロポロとまた涙が溢れだす。
それは止まらなくて、少しずつ嗚咽に変わっていく。
「嫌だ。ぐすっ…やだ……」
「ああ…」
「痛い、痛いね。痛い。ずっと胸が痛くてくるしくて。ここに居ちゃダメなんだってずっと思って。ライブやテレビに出演する度に気がついたら調べてたさ。でも吾がどれだけ頑張っても認めなんて貰えなくて。吾はどうしたらいいのか分からんかったね…」
維吹はゆっくりと言葉を吐いていく。
話してる間も涙は止まらなかった。それどころかどんどん増えていく。
「でも兄様達にだけは迷惑かけたくなかったね。かけたくなかったけど…痛い…苦しい。」
維吹は敬人の方を見る。幼さの残る顔に涙をいっぱい溜めて。
敬人にとって維吹のそんな顔は初めてみる表情だった。
「助けて…」
蓮巳はぎゅうっと今後は正面から滝を抱きしめる
「ああ…もちろんだ。その為にここに居る」
「よく頑張った。もう、もう頑張らなくていい」
「にいにい…………うっ………うううう、うあ………ふっぐすっ……うぁあっあああああつっ!!!にい…にぃ……いたい……もうやだ……やだ……っ!!うう…………」
「うあああああっっ………!!!!」
「滝……直ぐに気がついてやれなくて済まなかった……」
「もう、大丈夫だ」
「滝寝ちまったのか?」
「ああ」
「んっ……クマもあるな……
化粧で隠してたのか……。いつから寝れてないのかやら…」
「わからん…それも後で問い詰める」
「で、どうするのじゃ蓮巳くん。」
「うむ……」
「鬼龍、神崎。これは滝一人で対応も対処も出来るものでは無い」
「って言ってもよ。これSNSだろ?俺らに何か出来るものなのか?」
「我も…滝から話を聞くぐらいしか出来ぬ気がするが……」
「うむ…とりあえず暫定的な処置としては、滝から携帯を没収する。あとはしばらく近くに誰かに居てもらうようにしよう。この状態だ1人にはしない方がいい。血迷われるのは困る」
敬人は滝をソファの上に寝かし、上からひざ掛けをかける。そしてその後後ろで見守っていた零と紅郎に声をかける。
「朔間、七種に連絡できるか?」
「鬼龍は青葉に連絡を」
「俺は英智に」
「うむ。構わぬよ。事の顛末を伝えればい良いかえ?」
「ああ。あと時間があるなら今からここに来るように頼んでくれないか?」
「なにかする気かえ?」
「ああ……リズリンはあまりこういったことに得意では無い」
「上の人間は頭の硬い人間ばかりな上に、若手の俺たちもその手のことに苦手な奴が多い。俺も朔間もSNSは苦手だ。だからこそ後手に回ってしまったのもあるのだが…。いやそれは言い訳に過ぎないな。
だが、苦手なら苦手でやりようはある。」
「英智も青葉も七種も。そこら辺には圧倒的に強い。
俺なんかよりも頼りになるだろう。だから…」
「すまない。貴様らには迷惑をかける」
「腹を括るぞ、鬼龍、神崎。我が新月と共に」
「大事な家族を傷つけられて黙っていられるほど、俺は大人では無い」
とりあえずここまで