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    45実くんと20児、70児と39.14それと

    #狂聡
    madGenius

    おわりにぜんぶ真夏の夕方。
    「うち来る?」
    迷子の子猫に話しかけるような声で聡実は問いかけた。
    「おっさ…お兄さん、いくつ?」
    「45」
    「えぇ、見えへん…」
    狂児は素直に驚きの声をあげた。
    「年下扱いされ続けた結果かな、いつも実年齢より若くみられんねん。結構気にしてんねんけど、一向に追い付かんな年齢に…」
    「ええことやん、若いの」
    「そうとも言えへん。ほんで、うちくるか?」
    「あぁ、えっと…残念やけど俺男無理やねん。ごめんね」
    「行くとこあんの?」
    「ないねんけど、まぁどっか当たってみるわ」
    「見つかるまででもええよ」
    「あぁ、うん。」
    「いやなら無理強いは出来へんけど」
    「ちゃうねん、あんな、男のお兄さんにお礼したくても俺上手に出来へんねん。ていうか無理やねん、さっきも言うたけど。何もせん奴が家におるだけやったら邪魔やろ」
    「ええよ、別に家におってくれれば」
    数秒の沈黙、一呼吸してから狂児が身を乗り出した。
    「オレが女抱きたくなったら?」
    「他所で抱いて帰ってきたらええよ」
    「お兄さんが女抱くときは?外に出される?混ざらなあかん?」
    「ぼく、女抱くこと無いからなぁ」
    「…男をだくん?」
    「男に、抱かれるんよ」
    聡実は血液型を答えるような気軽さでサラリと言った。狂児は少し驚いた顔をしたあと、少し低い相手の顔を覗き込んだ。
    「抱いて欲しいの?」
    「君に?あっはは、まさか。勘弁して」
    聡実は目尻の皺をぎゅっと寄せて楽しそうに笑った。トロリと垂れた目元が優しく見上げる。
    「心配なだけ。あと君と話するの楽しいかなって思って」
    台風の近付いた空が、ゴロゴロと鳴り始めた。肌にまとわりつく湿気が、雨の予感を感じさせる。
    「俺おしゃべり苦手やねんけど」
    「話がおもろいかどうかやなくて、君の変に真面目なとことか価値観ずれてるところが好きやねん」
    「お兄さん、俺の何を知ってんねん」
    「今はよう知らんなぁ、教えてくれたら詳しくなれるんやけど」
    「…なぁ、俺が遊びに行ったとして、襲われたりせぇへん?」
    「君やったら僕に力で勝てるやろ」
    「いや、そうかも知れへんけど…実は筋肉ムキムキとか、空手の達人やったとか…」
    「それは無いけど、刺青なら入ってるで。背中に綺麗なツル」
    「うそぉ…え、せな、っうそやろ…⁈」
    「太ももから腕のここまで。鶴だけやなくて背中は一面にバッチリ色々入ってるからきれいやと思うけど」
    「え、ほんまに!?やっば絶対その筋の人やんか、絶対家行かへん!!」
    「ははは、うそやって」
    「なんやねん!」
    「襲ったり怖い思いさせたらせぇへんよ、うちおいで」
    「あ、でもあれや。お兄さんの恋人に後で色々言われるんちゃうの。美人局ちがう?」
    「それは無いって。大丈夫」
    「お兄さんの恋人に聞いてみて。それから決める」
    聡実は右上に視線をやって少し考えた後、狂児の背後に向かって大きな声で叫んだ。
    「きょうじー!!ちゃう、39歳の方やなくてボクのきょうじの方!」
    狂児は驚いて後ろを振り返った。
    中学生の男の子と話していたロマンスグレーの男性が1人、その声に反応してこちらに向かって歩いてきた。その顔を見て狂児は驚いた。
    「じいちゃん…?」
    そう声に出してから、そんなわけは無いと自分で気がついたが見れば見るほど爺ちゃんにそっくりだ。
    「聡実くん、何」
    「この狂児を家に連れて帰ろ思ってんねんけど、美人局ちゃうかて警戒して付いてきてくれへんねん。ちゃうでって言うたげて」
    2人は親しげだ。
    「はぁ、あなたも狂児言うんですか」
    「ああ?お前よう分かってへんのか。オレは将来のお前や。お前、20そこそこやろ。だいたい半世紀後の自分やで」
    爺ちゃんみたいな顔でそんな事を言われると妙な説得力がある。
    「えぇ…」
    「聡実くん、こんなの連れて帰るん?」
    「可愛いやん。行くとこ無さそうやし」
    「家に帰したらええやんか」
    「ちょっとだけ」
    「えぇ…」
    「狂児だって14歳の僕にご執心やったやん。また連れていこ思ってたんちゃうの」
    「御執心て…ちゃうやん、久しぶりやったから顔みてただけやん」
    「やっぱりあの頃のぼくが一番ですか」
    「何言うてんねん、そんなこと…君が一番やって」
    「そんなこと言うて、ここ着いた瞬間アッチに一直線やったやん」
    「それは、…そんなことはないと思うけど、えー、そうやったか…?いや、こんなとこに中学生がいたらさ、心配やろ」
    「アイツには39歳の狂児がついてたやんか。何も心配ないけど」
    「せやねん!アイツ!!アイツほんまあかんねん!!生意気にも俺に聡実くんを見せへんようにすんねん!!俺が自分自身やってわかってるのにやで!」
    「当たり前や、自分の本性をよう理解してるんやろ。それに妙に迫力あって怖いねん自分…あっちのぼく怖がってるやん」
    「本性て…でも聡実くんもここで若いの口説いてたんやろ?おあいこやん…」
    しどろもどろで背中を丸め、聡実に許しを乞うように視線を送っている。そんな自分の姿を見て若い狂児は驚いて言った。
    「俺、この人と付き合ってんの?」
    聡実は振り返って優しく微笑んだ。
    「驚いた?でも君に手ェ出さへんのはほんとやから安心して。ほんまに少し話してみたいだけ。行くとこないならうち来てよ」
    狂児は目の前の2人の顔を見比べた。
    冷め切った視線を送る爺ちゃんそっくりな自分、それから優しい顔を向ける聡実。
    「オレが…そっちのじいちゃんそっくりなオレが全然納得してへんみたいやけど…?」
    「オレ?あぁ、この狂児のことなら気にしなくてええから」
    「なんでやねん、いややこんなん連れて帰るの」
    「なんやねんもー、ぼくが面倒見るし狂児に迷惑かけへんから。ちゃんと色々教えるし。あっちでの生活とか。」
    「いや、捨て犬か」
    「捨て犬みたいなもんやろ」
    「聡実くん、変わったなぁ…」
    「狂児と一緒にいすぎておかしなってんねん僕」
    「あのぉ…」
    その時、弱々しい子供の声が聞こえてきた。女の子の声かと聞き間違えるようなキレイに澄んだ声だ。
    気がつくと中学生の男の子が立っていた。
    「あの、そこの人ぼくなんでしょうか…」
    中学生がまんまるのメガネの奥からじっと男たちを見上げた。
    「せやで。未来の自分。そこにいる君の狂児より年上」
    聡実はにこやかにそう言いながら中学生の隣に立つ男を指差した。
    その男はパッとみてもカタギの人間には見えず、隙のない身のこなしは少し恐怖すら感じさせた。
    「え、そこの人も将来のオレ…?」
    「せやで。はは、我ながらアホヅラやな」
    「いや、ていうか…怖すぎやろ。何してんの…」
    「あぁ…?何してんのって急にこんなとこに連れてこられて」
    「いやそういうことちゃうくて、仕事は…?」
    「あ?何や知らへんのかい」
    「オレカラオケやでアルバイト始めたばっかりやから」
    「その頃か、一番しょうもない頃やな」
    「お兄さんも狂児さんなんですか?」
    中学生が問いかけてきた。垂れ目の大きな瞳がじっと見つめてくると、女にも感じたことのない妙な焦りを感じた。
    「おれ、狂児です。20歳。ほんでそこの爺さんも狂児、それで君の狂児が…」
    チラリと視線を送った。上等なスーツにオールバック。張り付いたような薄ら笑いが能面のようで恐ろしい。普段から感情の振れ幅も小さくポーカーフェイスには自信があったが、将来の自分はずっと本心を隠すのが上手いようだ。
    「オレはこの子の狂児。なぁ、聡実くん」
    「僕のって…」
    「だってそいつがそう言うたし、君のやって」
    「いや意味わからんし」
    「ふ、もしかして照れてる?」
    「引いてます。何で照れなあかんねん」
    「えー💦ひどいー」
    「僕の所有物ちゃうでしょ。連れ回されてんの僕の方やし」
    「聡実くんにはお世話になってるし、お迎えとお見送りしてるだけやんか。それに怖いこと一個もしてへんやろー?」
    「いや、存在が怖いです」
    「ひっどー!」
    怖い狂児は、中学生の前だとまるで幼児返りしたようにはしゃいでいる。背後でじいちゃんみたいな狂児が大人の聡実に囁いた。
    「聡実くん、オレあんなやった…?」
    「うん」
    「え、ほんまに?」
    「何やったら、今もやで」
    「え⁈⁈うそ、あいつきしょいなって思ってしもた…今も⁈」
    「今も」
    「うそん」
    「ほら、そういうとこ」
    「ええ!これはちゃうやんか…」
    ジジイが猫撫で声で若い恋人に嗜められているのと、可愛い声の中学生と怖いおっさんの言い合いに挟まれ、狂児は座り込んだ。頭がぐるぐる混乱して立っていられない。
    「大丈夫…ですか?」
    中学生が声をかけてくれた。肩に置かれた手が小さくて優しい。見上げると、眉を八の字にしながら心配そうに覗き込んでくれていた。
    「うん、いや…ちょっとようわからなくて」
    「あの、座るならあっちにベンチありましたよ」
    「聡実くん、優しいなぁ」
    怖い狂児が茶化すように行った。
    「だって顔色悪いし。案内しましょうか」
    「ほなオレが連れてったるわ。そいつもオレやし」
    「あ、いえ、座ってれば何とかなると思うので」
    「あ、僕飴ちゃん持ってるで。食べる?」
    大人の聡実が飴玉の小さな包みを差し出した。
    「あ、ありがとう…」
    「おい、それオレのやぞ」
    じいちゃんが何か言っているが、気にせず受け取って口に入れた。
    「ええやんか、かわいそうに。一人でこんなことになって不安なんやろ。なあ、やっぱりうち連れて帰ろ」
    「…聡実くんが面倒見るんやろな…」
    「僕の部屋に布団敷いて、ご飯も風呂も僕の部屋で済ませるようにするから。外出す時は行き先も確認するし」
    犬飼うみたいに話すなよ、と思いつつも飴を差し出したあとで頭を優しく撫でてくれる手はなかなか悪いものでもなかった。
    その触れ方を感じながら、この人は自分を喜ばせる術を知っているんやなぁと思った。それならばしばらく身を預けても良いかもしれない。
    ふと気がつくと、中学生がしゃがみ込んで狂児を見上げていた。本当に小さい。160センチないくらいの身長に細身の体型。幼さの残る綺麗な顔立ちだ。思わず見つめあってしまった。
    「…なに?」
    「ほんまに狂児さん…?全然怖くない…」
    「?そら、どうも」
    ドンっと二人の間に黒いく長いものが落ちてきた。スーツを纏った脚だと気づいて顔を上げると、怖い方が座る二人の間に右足を差し入れて仁王立ちで見下ろしていた。
    「あかんでー、聡実くん。こんな男と会話したら次の瞬間には赤ちゃんできてまうよ?まともで優しそうに見えて、しょうもない奴やから。ええのなんて顔だけなんやからね」
    あまりの言われように思わずじっと睨みつけたがそれ以上の迫力で睨まれていた。
    「自分のことですよね、それ」
    「うん、せやから誰よりもわかってるよ!」
    座り込んだ二人の間に、ずいっと割り込むように腰を下ろした。尻でどつかれたので勢いよく後ろに倒れ込てしまった。
    「あ、だ…大丈夫ですか?」
    「平気。なぁ!」
    怖い方が勝手に返事をして恫喝にも似た同意を求めてきた。
    「いや、はい。まぁ」
    本当は尻もちをついたので尻がすごく痛かったけれど返事は曖昧に濁しておいた。関わるとめんどくさいタイプだ。顔がいいだけなのはどっちやねんと心の中で悪態をついて腰を上げた。
    「大丈夫?」
    聡実が手を差し伸べてくれた。その手を掴んで立ち上がる。
    「すいません」
    「あっちはもう二人の世界やから、あんまり関わらん方がええよ」
    そう言いながら尻についた砂を手で払ってくれた。
    「おいおい、こっちも別にその若いの入れた世界感ちゃうけど」
    じいちゃんみたいなのが聡実の後ろから凄みを効かせてきた。怖い方とは違う、直接的ではないけれど目の奥にじわりと感じる嫌悪感のような黒い陰に肝が冷えるような気がした。
    「狂児、若い子怖がらせたらあかんよ」
    そう告げる聡実の声も、同様の凄みを感じる。長い間一緒にいるからだろうか。聡実の外見や口調からは想像できない雰囲気を醸していた。じいちゃんがスッと目元に力を入れて狂児を一瞥してから、短く息を吐いた。
    「若い子って、オレやんか結局は」
    「ほんなら僕がそこの中学生の僕をいじめてたら、止めへんの?」
    「あんな可愛い子いじめたらあかんやろ」
    「せやろ、それと同じやって。こんな可愛いのいじめたらあかんで」
    「可愛いないわ、こいつめちゃくちゃやってんで」
    「それ含めて可愛いやんか」
    「あぁ?!何いうてんねん、こんなん可愛いと思てんの?ほんま…はぁ、聡実くん趣味悪いなぁ」
    「おかげさまで」
    「あのぉ…」
    狂児が口を挟んだ。二人が会話をやめて顔を向ける。どことなくその表情が似ているようだ。
    「すいません、その、聡実?さんが俺のこと連れて行ってくれるいうてましたけど…俺どうやってここにきたのかも覚えてなくて。ここってどこなんでしょうか」
    ぽつりと大きな雨粒が狂児の頬に落ちてきた。じいちゃんみたいなのが「ははは」と笑った。
    「お前、本当に何も分かってないんやなぁ」
    背後で怖い方が立ち上がる気配を感じる。と、どかっと肩に手を置かれた。低い声が耳元で囁く。
    「まぁ、仕方ないことやな。俺たちはなんとなく気がついてるけどお前はちんぷんかんぷんやろ」
    「え?…まぁ、はい」
    「そろそろ目ぇ覚した方がええんちゃう」
    「そうやなぁ。いつまでもこんなところにおるわけにいかへんから。お互い」
    じいちゃんみたいなのが正面から頬に触れてきた。指先がすごく冷たくて心臓まで冷たくなるようだ。
    「そうやな。お前のこと連れてきてしまったのは、ある種の逃避やな。また初めからやり直したいんやろね」
    「その頃の俺に会ったとしても結果が違ってしまうから出来れば会わん方がええと思うんやけど、でもそれが聡実くんのお願いなら聞くしかないわ」
    「そうやなぁ、この頃の俺がここにいることが意外やけどまぁ、俺も似たようなこと考えたことあるしな。全部欲しい言うか、もっと欲しいなぁって」
    「せやなぁ。ほんましょうもないなお互いに」
    「こんだけ長いこと一緒におるのに、まだ欲しいんやね」
    ポツポツと雨粒が頬におちる。二人が何を言っているのか分からないまま頬にあたる雨粒を拭った。

    温かい。

    頬にあたる雨粒は温かくて、頬を伝っては顎の先から垂れて行った。

    背後の狂児が囁いた。

    「ほら、そろそろ先生が来るから目ぇ覚ましなさい」

    瞼を開けると、そこは病室だった。頬を流れる雨粒は瞼から止めどなく溢れ続けている。
    「気がつきましたか。外、降り出しましたよー。この後台風来るみたいで。カーテン閉めますね」
    声をかけてきた方を向いた拍子に、手元のアルバムがバサリと床に落ちてしまった。看護師が拾ってくれたそのアルバムを受け取りながら「ありがとう」と呟いた。
    「大丈夫ですか…?」
    心配そうに顔を覗き込まれる。頬を拭って、
    「えぇ、すみません。いや、うたた寝してしまって、変な夢を見ていました」
    「何かお持ちしましょうか」
    「いえ、大丈夫です。悲しい夢ではなかったんですよ。ただ、アルバムを見てたからか懐かしい顔を思い出して」
    「あぁ、この」
    看護師がアルバムを指差して言った。
    「この、俳優さんみたいにカッコいい方。岡さんの恋人だったんですよね。羨ましいなぁ」
    聡実は微笑んで、アルバムの写真をなぞった。
    「いや、恥ずかしい…こんな古いものをいつまでも眺めていたせいか、妙な夢を見てしまいました。もうとうの昔に彼の年齢を超えているのに。あぁ、もう、無理やってわかってるのに会いたくなってしまったみたいで。それどころか彼になりきって…ふふ、すみません。みっともないところをお見せして…」
    そう、言いながらゆっくりとまぶたを閉じた。
    点滴の機械音、空調の音、隣のベッドから聞こえるいびき、それから…

    「聡実くんお待たせ、ほないこか」
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