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    nameko135

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    ご飯を食べる納占の続き。過去の話。毎日納占5日目。

    #納占
    nana

    ごはんを食べよう⑤「イライ……!」
    逃げなければ。心音は近付いている。
    自分たちを探しているのだろうか。
    イソップはイライの手を引いて立ち上がった。
    「イソップくん……?」
    「こっちへ」
    ここで隠密していてもすぐに見つかるだろう。
    ならば少しでも可能性の高い生存方法を選ぶべきだ。
    「イソップくん、私のことはいい、君だけでも……」
    「黙って」
    イソップはイライの治療を完了させて言った。
    分かっている、暗号機の解読をしない以上、二人で出ることは不可能だ。少しでも生存の可能性を増やすなら、イライの言うとおり、イライを囮にして自分だけハッチで出るのが一番いい。
    それをしないのは、昨日、イライに身を挺して庇われて、自分だけ逃がされたせいかもしれない。
    イソップはどうしてもイライを逃したかった。
    さく、の雪を踏み締める音が響く。
    心音は相変わらず近い。おそらく、足跡で追われているのだ。
    その時、不意にイライの足がふらついた。
    立ててある板にぶつかって、大きな音を立てた。──居場所がバレた!
    イソップはイライの手を引いて走り出した。目指すのは月側にあるハッチだ。空に大きな月が浮かんでいる。あれを目指して走る。
    ああでも、イソップの治療は終わっていない。
    上手く息ができなくて苦しい。
    「イソップくん……!」
    イライが泣きそうな声で言う。わかっている。これはゲームだ。死んだらまた蘇る。
    でも──でも──このイライは、今ここにしかいないのだ。
    イソップは、もう二度と、イライを失いたくないのだ。
    足に力が入らなくてよろけたイソップを、イライが支える。けれど支えきれず、二人して雪の中に転んだ。
    ハンターの凶刃が迫る──イソップはイライを抱きしめた。背中合から溢れたのは、鉄錆にも似た臭いの赤い色のもので、イソップはイライを腕の中に抱きしめたまま、その場に倒れ込んだ。
    「だめ、だめだ、イソップくん、離して、逃げて」
    「イライ、大丈夫、だから、あなただけでも、にげ……」
    意識が薄くなる。景色が遠ざかる。
    朧げな意識の中、イライを抱きしめた感触だけが鮮明だった。
    『あなただけでも逃げてほしい。僕の命を対価にして』
    それは、きっとイソップによる呪いだった。
    どうしてかわからないけれど、本当にこれは呪いだったとわかる。
    イライの泣き叫ぶ声が聞こえる。
    目が、見えなくなる……。
    その時だった。かたん、という音、風の音。
    だった数秒に満たない間隔のあとで、ハッチが空いた。
    息を呑む音がする。ああ、自分は死んだのかな、なんて思って──次の瞬間、視界が暗転した。
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