波打つ水に素足を浸して、ぴちゃりぴちゃりと音を立てる。
夏真っ盛りだというのに人が疎らなこの海は、地元民しか知らないとっておきの穴場だ。
ついさっきまで爺ちゃんの墓を磨いていた両手を、透き通る水の中に突っ込む。
「えいっ」
そうして、勢いに任せて夏油先輩に向けて水飛沫を飛ばした。
ぶしゃあ、と派手に濡れてしまった夏油先輩は、珍しく呆気に取られたような顔して。
「やってくれたね」
と悪戯っぽく笑った。
俺がへへんと得意げに笑ってみせると、夏油先輩も意地悪な笑顔のまま海水をぶっかけてきた。
びしゃ、と服が濡れて、肌に湿った布が纏わりつく。
「つべたっ!」
「お返しだよ」
「じゃあ俺もお返し!」
「じゃあ倍にしてお返し」
そのまま大人げない水合戦が始まって、気付いた頃には俺の服も夏油先輩の服もぐしょ濡れだった。
我に返ったのも、そのことに気付いたのも同時だった俺たちは、お互いに顔を見合わせて「ふはっ」と笑ってしまった。
「びっしょびしょだね」
「そうだね。でも暑いから動いていればすぐ乾くよ」
「じゃあさ、このまま電車に乗らずに歩いて帰ろ!」
「いいね」
ざぶ、と海から上がって、夏油先輩と並んで帰り道を歩く。
(また来年も二人でびしょ濡れになりたいな)なんて、青臭いことを考えたのは墓まで持っていく秘密だ。