Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    shima_toya

    @shima_toya

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍀 🌹 🌟 💖
    POIPOI 10

    shima_toya

    ☆quiet follow

    エラスレ/4号スレ前提
    学園で謎のバイタル異常上昇起こして本社に呼び出されたエランくんと、その理由を聞き出すエラン様くん(全文)

    相談料はカフェラテ一杯 朝起きたらカフェラテの気分だった。
     特にあれがいい、社内のラウンジにあるコーヒーショップのミルク感が強くなくてエスプレッソの苦味がしっかり出ているやつ。ただここで問題がひとつ。あの店舗は一般社員も出入りする場所にあるということだ。
     影武者を学園に送りこんでいる手前、エラン・ケレスは当然だが社内にはいないことになっている。
     普段ならメールひとつで手配させれば大抵のものは手に入るが、出来立てのコーヒーのようなものは、使い走れる人間がそばにいる時でないと難しい。おまけに『俺』についての事情を知っている、機密情報への権限持ちでないとならないという条件付き。
     寝ぼけ眼で携帯端末を操作する。社員の共有スケジュールを見て、ため息をついた。今日に限って出払っているやつの多いこと。ついでにメールボックスをチェックすると、仕事に関する連絡がわんさか溜まっていた。
     ばあさん――CEOどもは学園での勉強の代わりだと言って、会社の業務を俺に手伝わせている。
     だがその割には重要案件はまだ早いからと、大抵は他の社員でも出来ただろうという雑事ばかり寄越してくるので辟易していた。
     ああ、まったく。好きなものでも飲んでなきゃやっていられない。
     未読メールを一番下まで遡ると、俺ご指名の緊急確認案件が一件。アラームが起動するより早く、端末が通知音を鳴り響かせていた原因はこれか。
     無駄に早起きをさせられた苛立ちを込めて、強めに画面を指を叩く。くだらない用だったら担当者に文句を言ってやろう。だが表示された内容を見て、少し気が変わった。
     
    『学園にいる強化人士四号の生体タグにバイタルの異常な数値上昇が認められたため、本社にて検査を行います』
     
    「お、いるじゃん。使えるやつ」
     あつらえ向きに、日付は今日ときた。
     
     ***
     
     注文通り、そいつはラウンジのカフェラテを持ってきた。頼まれたものは渡したからこれで、とさっさと部屋を出ようとするのを引き留める。
     このまま返したんじゃ面白くないし、何より俺が仕事をしたことにならない。
    「それで? 何したらこんな数値出せるんだよ、『俺』。水星のあの女、ホルダー押し倒したりでもしたわけ?」
    「してない」
     事前に研究員のベルメリアに聞いていた通りだ。何故か頑なに理由を喋りたがらない。
     今まで取り澄まして感情らしいものを見せたことがない奴が、生体タグに内蔵された検知器に引っかかるほどの出来事が学園で起きた要因。気にならないわけがない。
     何を聞いてもここだけの話にするし、その代わりに俺から適当に報告書上げといてやるからと宥めすかすと、観念してようやく口を開いた。
    「手に触った」
    「触った……繋いだってこと?」
    「たぶん、そう」
    「は? それだけ?」
     手を繋いだ。それだけでお前会社に呼び出されて俺にまで通知入ってきてんの? 俺の安眠を妨害してまでしたことがたったそれきり。なんだそれ。俺の顔してなにやってんだよ。せめてキスくらいはしておけ。話を振ったこっちが恥ずかしいだろ。
     それだけじゃない、と言い訳のようにそいつは続ける。それだけじゃなければなんなんだ。そのままデートでも行って浮かれてきたとでもいうんじゃないだろうな。
    「手に触れた時、彼女の顔を見たからだと思う」
     そいつは指紋を隠すための手袋に触れ、真っ赤だった。と呟く。
     そりゃ俺の顔で迫られたら顔も赤くなるだろう。
     面倒だな。言いたいことはそうじゃないだろ。口に含んだコーヒーのせっかくの苦味が吹き飛びそうだった。
     どんだけそそられる表情だったか知らないが、確かに手を「触れただけ」で動揺したわけじゃないのは本当なのだろう。なるほどね。キスくらいはしておけとは思ったがなんのことはない。
    「お前は、その先を想像しちゃったわけだ」
     それでもって何もしなかった。
     沈黙は時に何よりも雄弁な肯定だ。
     案外キスくらいは相手からも待たれていたのかもしれないが。こいつは数値に表れるような動揺をするくらいの感情を、目の前の相手にそのままぶつけることに怖気付いたのだろう。
     それとも影武者としての役目を思い出して弁えたってことなのか。
    「まあなんでもいいけど、ホルダーとのコネクションはこれからも必要になってくるんだから。奥手すぎてせっかく稼いだリードを横から奪われないようにしろよな。グラスレーとか、あとジェタークの長男とかさ」
     ジェタークの名前が出た瞬間。空気が重くなったのを肌で感じ、思わず少し身を引いた。
     いつもはどこか遠くを見るように、ぼんやりと捉えどころのない視線が、こちらへはっきりと向けられている。
    「スレッタ・マーキュリーと関わることと、その二人は別に関係ないよ」
     声からさらに感情の色が抜けて、褪せていく。
     会うたび動物や小さい子供でも相手にしてるような気分だったが、今は違う。そういえばこいつも同年代の男だったなと当たり前のことを思った。
     関係あるのは自分と水星の転入生だけで、他のすべてを遠ざけるような言い方。
     氷の君が聞いて呆れる。
     現在のホルダーにまつわる事柄についてだけ、本人も気づいていないような――嫉妬にもなりきれていない不機嫌さが見え隠れするのだから。わかりやすすぎる。
     だがその普段見せないような感情的な素振りは、思春期の甘ったるいエピソードなんかより、よっぽど見ていて悪くない。
     この退屈な会社内での生活や、見飽きた暗い表情に比べれば。面白い、とさえ思う。
     
    「話は終わり?」
    「はいはい、終わりだよ。ちょうど規定勤務時間過ぎたし、俺も今日の業務終了っと」
     飲み終わったコーヒーの容器をテーブルに置く。
     俺からベルメリアに後で報告を上げておけば異常数値の件もこれ以上の追求はないはず。
     まあこいつにとっても、カフェラテのおつかいの駄賃くらいにはなっただろう。
     退屈な業務の間の息抜きにもなった。頻繁にはごめんだが、そうだな、カフェの新しい季節限定メニューが出る頃くらいなら。学園の話を聞いてやってもいい。
     
    「ああ、次また数値ぶっちぎったら、こんな風に俺と面談になると思うから。せいぜい適当に上手くやってくれよ、『氷の君』?」
     
     女のことであれこれ聞かれたのが内心不服だったのか、眉を下げて微妙な顔する俺の影武者。
     だからその感情の振り幅を、少しくらい愛想の方に向けらんないもんかねえ。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖☺💞💖💖💖💯🙏❤💕💘💞😍💙💖💖💖💖💖💖😍💘💴🙏😍💞👏💕💘💚😍💖💘💖❤👏💖😍💘❤💯
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works