いつもの続き目覚めは最悪だった。頭が痛い。気分が悪い。刺されたりとか、切られたりした方がまだマシだ。あれは痛いし熱いがすぐにアドレナリンが出て痛みが分からなくなる。だが吐き気や気持ち悪さはどうしようもない。気を紛らわせられない。
二日酔いだ。久々に深酒をした。後悔先に立たずとはよく言ったもので、本当に後悔しかない。知らない間にベッドの上にいることだけが救いだった。何かを胃に入れたら吐いてしまいそうだったが、吐いた方がスッキリするのならそれもいいと思った。気持ちの悪さを押して、布団から身体を起こすと、ベッド脇に見慣れない物があった。物というかそれは月島だった。リビングからイスを持ってきたのか、そこで座って目を瞑っている。椅子の上で寝れる人間は器用だな、と、頓珍漢なことが頭の端に浮かんだが、気持ち悪さの方が勝ってすぐに思考が消えた。月島と同時にサイドテーブルにコップがあるのには気づいたが、冷たいものが飲みたくて、なんとかベッドから降りてキッチンへ向かった。
冷蔵庫を開けて、中にあったペットボトルの水を出した。面倒くさくてそのまま口をつけて一気に飲む。胃に冷たいものが落ちるのがわかった。気持ち悪さは相変わらずで、頭も響くように痛んでいたが、横になっていた時よりマシだった。五百ミリペットボトルの半分ほど飲み干して、リビングのイスに向かった。重い身体を背もたれに預けて座ったが、すぐに吐き気が来て机に突っ伏した。ヒロポンを持ってこさせようか、と思って、ふと、ここが過去ではないことを思い出した。自分はまだ二十歳そこそこの人間で、ここが現代だということを。思い出すのと同時に、どうして月島がいるのかということに疑問がわいた。寝ぼけた私の視界の中にあまりに自然に溶け込んでいたから完全に失念していたが、今の月島と私の関係は過去のようなものではない。
そこまで考えて私はイスから立ち上がった。身体の状態は最悪だったが、足は寝室に向かっていた。
寝室のドアを開けると、ベッドの隣に月島がいた。先ほどリビングのイスが一つ足りなかったが、やはりリビングから持ってきた椅子に座って眠っているようだった。時計を見ると短針は十を過ぎたころだ。外の明かりの具合を見るに夜の十時ということらしい。こんな時間にこんなところで何をしているんだという気持ちになりながら、月島の目の前に座ってみた。ベッドのスプリングが軽く鳴ったが月島は起きない。何か今日約束をしていただろうか。と、考え直してみるが。頭痛が酷くて思考が回らなかった。
目の前の男の顔をじっと見つめる。相も変わらず髭を生やして、なんで坊主にしてるんだか。髪を伸ばして髭もなかったら多少は割り切れるものなのに、どうしてそっくりな姿になるのだろうか。聞きたいことは山ほどあった。しばらくその顔を見つめていたが、ふと手を伸ばしてしまった。指で髭をなぞる。ざらざらとした感触に懐かしさを覚えて目を細めた。私もお前も、一体「何」なのだろう。数奇な運命であることは確かだ。
あまり考え込むと余計に気分が悪くなるのでそれ以上は考えなかかった。
どうせこの世は悪い夢だ。夢なら、少しくらい好きにさせてもらってもいいだろう?
自分にそう言い訳をして、目を閉じたままの月島に近づき、そっと唇を重ねる。
そうしてすぐに後悔した。
泣きそうだ。滲んでくる涙を堪えて、再び布団へ潜り込んだ。