そもそも、自分の生まれた日のことなど、自分では証明できない。
生まれた瞬間、今日が何月何日だ、とわかる人間はいないだろう。
だから、自分の生まれた日というものは、必ず人伝である。
つまるところ、私が生まれてきたとされる日は、私以外の誰かが「そう」言ったから「そう」なったのだ。「この日が生まれた日だ」と誰かが役場に言って、それを登録した。だから私の生まれた日は、実際は四月一日ではないかもしれない。
まあ、生まれた日と戸籍の生年月日が違うことはままある。そういうのは、大抵他の人間が「お前は本当は○日に生まれたが……」と話すものだが、私の場合、そのように話す大人は周りに誰一人としていなかった。
そもそも自身の生まれた日を知ったのも入営に必要になるからと戸籍を確認した時が初めてである。ずっと数えでしか自身の年齢を把握していなかったので、四月一日が自分が生まれた日付であると言われたところで、それは単なる記号に等しかった。
だから初めてだったのだ。
生まれた日を祝われるということが。
「何を呆けているんだ」
「いえ、少し驚きまして」
確かに七五三や成人や還暦など年齢によって祝い事はあるが、生まれた日を毎年祝うというのは何か不可思議な感じだった。しかも子供や成人ならまだしも、こんな中途半端な年齢で。
「そもそも私が今日生まれなのか定かではないですよ」
「そうなのか?」
「まぁ…………」
親がアレなものでして。という言葉はグッと飲み込んで言葉尻を濁した。
「それでも、今日が生まれた日だということになっているならやはり今日を祝おう」
私の言葉など大したことでもないというように、鯉登少尉は眩しいほどの笑顔を向けてきた。この笑顔に、私は何度救われたことか。
「おめでとう、月島」
そのたった一言が、私の心にストンと落ちた。