ここから「ありがとうございました!」
自分達より幾分か若い青年が笑顔で会釈して去っていくのに、日向と侑はそれぞれの言葉で感謝の言葉を口にした。エレベーターの階数表示が、今所在している階を通り過ぎたのを見て取った青年が迷わず横の非常階段から下っていくのを見送って、二人は自分たちの横にある扉を開いた。
まだ何も置かれていない玄関に揃えて脱いだ靴が擽ったい。侑も同じような気持ちなのか、見上げると目が合ってふっと笑った。
「なんや、俺ら大したことしてないのに疲れたなあ」
大きく伸びをしながらリビングに入っていく侑の背を追いながら、日向は苦笑した。なんとなく気持ちは分かる。
「まだ終わってないですよ」
足を踏み入れたリビングには、数箱の段ボールが置いてあった。むしろ、それしか置いていない。まとめた荷物を運びこんだだけの、二人の新しい住処だ。
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