カドに妖精夕飯後のコーヒータイム
それを目にした瞬間グエルは口に含んだコーヒーを吹き出しそうになった
(小さなスレッタ・マーキュリーがいる)
ただこの小さいは子供のスレッタ・マーキュリーがいるという意味ではない
ここは寮を追い出されたグエルが暮らすキャンプ
そこでグエルがテーブル替わりに使っているコンテナ、その端っこのカドの部分に小人サイズの小さなスレッタ・マーキュリーがぶら下がるように上半身を覗かせている
(…慣れないキャンプ生活で疲れたせいか?)
グエルは自分の眉間を指で揉み再度コンテナのカドの方に目を向ける
(いる)
小さなスレッタはうんしょうんしょと言うふうにカドにしがみつき一生懸命コンテナに登ろうとしている
(幻を見るほど俺はスレッタ・マーキュリーを求めているのか?…手を伸ばしたら驚かせてしまうだろうか?)
グエルはしばらく考えてから気付いていない体を装ってテントに入るそしてココアなどに入れる小さなマシュマロをとってくる
コンテナの方に戻ろうとした時コンテナのカドにしがみついていたスレッタが落ちそうになっていた
「…おいっ⁉︎」
グエルが咄嗟に手を伸ばした瞬間小さなスレッタの手はコンテナを離れて真っ逆さまに落ちて行く
そしてコロンとグエルの掌に尻餅をつく様に着地した
ぽよんとした小さなお尻の感覚がグエルの掌に伝わったがグエルはあえて気付かぬふりをする
勢いあまってそのままグエルの掌の上で仰向け状態に転がった小さなスレッタは不思議そうにグエルを見つめる
2人はしばらく見つめ合ったあと小さなスレッタがハッとしたようにグエルの掌の上で立ち上がりお辞儀をする
まるで『ありがとう』と言うように
(喋れない、のか?)
グエルもそんな小さなスレッタの姿を見て、驚かさないよう落ち着いた声で話しかける
「大丈夫か?」
すると小さなスレッタはうんうんと首を縦に振る
グエルはコンテナの上にハンカチを敷きその上に小さなスレッタを下ろしてやった
小さなスレッタは不思議そうにハンカチを撫でたりコテンと寝転がってハンカチに頬擦りたり端をめくって包まったりしていた
(楽しそうだな)
グエルはマシュマロの袋を開けて一粒取り出し小さなスレッタの前に出す
「ほら」
小さなスレッタはマシュマロを見つめて不思議な顔をした後グエルの手からマシュマロを受け取る
そしてマシュマロを小さな両手でもにもにと揉んだり、顔を近づけて匂いを嗅いたりしていた
「それは食べ物だ、玩具じゃない」
そう言ってグエルは一粒マシュマロを取り出して手本を見せるように自分の口に入れる
それを見ていた小さなスレッタも小さな口を開けてパクリとマシュマロに齧り付く
するとパァと効果音がつきそうなほど小さなスレッタの表情は明るくなる
パクパクとマシュマロを食べ進め、あっという間に一粒食べ終えてしまう
そしてグエルの方を向いてちょうだいとねだるように小さな両手をグエルに伸ばす
そんな小さなスレッタの姿に心臓のあたりがギュンっとなってグエル少し固まってしまう
だが固まってるグエルに早く早くとねだるように小さなスレッタはぴょんぴょんと小さく飛び跳ねて両手をグエルの方にさらに伸ばす
ハッとしたグエルは小さなスレッタにまた一粒マシュマロを渡す
「あぁわるい、ほら」
マシュマロを受け取った小さなスレッタは顔を輝かせてからグエルの方を向いてお辞儀をしてからマシュマロを食べ始める
とても幸せそうにマシュマロを頬張る小さなスレッタを眺めながらグエルはコーヒーを啜る
「お前は一体なんなんだろうな」
グエルは考える自分に怯えない辺り本物のスレッタでない事は明らかだ…判断材料に少し虚しさを感じたが間違いないだろ
なら幻の類いかとも思ったが受け止めた時に確かに感覚があった、現に今もマシュマロを口いっぱいに頬張っている
なら一体この小さなスレッタ・マーキュリーはなんなのかとグエルは思った
そんなふうに物思いに耽っているとまた小さなスレッタが両手をグエルに伸ばしている
「なんだ、もう食べたのか?ほら」
そう言ってまた一粒マシュマロを小さなスレッタに渡す
(そういえば)
グエルは子供の頃に見た児童用アニメに出てくる妖精を思い出した
(確かその妖精は甘い物が好きで誰かに化けてイタズラをする妖精だったなぁ)
グエルは正直幽霊などの怪異の類いを信じる人間ではないが今だけはもしかして
「お前妖精なのか?なんでスレッタ・マーキュリーの姿に…」
などと小さなスレッタに問いかける
だが小さなスレッタは首をコテンと傾げて不思議そうな顔をしただけだった
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何度か小さなスレッタからのマシュマロのおねだりに応えたあと後
コーヒーを飲み終えたグエルが小さなスレッタに目を向けると
ハンカチの上ですうすう寝ている小さなスレッタに気付く
グエルは少し考えた後小さな箱にタオルを敷いて簡易ベッドを作ってやった
小さなスレッタを起こさない様ハンカチごとそっと持ち上げ小さな箱のベッドに入れてやる
眠っている小さなスレッタを少し観察した後
(本物のスレッタ・マーキュリーの寝顔もこんなふうなんだろうか)
と思ったグエル
しばらく観察した後
「寝るか…」
なんとも言えない擽ったい様な感覚がグエルの中に芽生え、それを紛らすようにグエルも就寝の準備をする
シュラフを敷き小物などを入れているテント内のコンテナの上に小さなスレッタの入った箱をおく
「……おやすみ」
そう小さなスレッタに告げてグエルも眠りにつく
次の朝グエルは小さなスレッタが寝ていた箱を確認するとそこには何もいなかった
(やはりただの幻だったか?…ん?)
箱をよく確認すると一輪のピンク花が置いてあった
調べるとガーベラという花のようだ
(花言葉…なるほどな)
ピンクのガーベラの花言葉は【感謝】
ほんのわずかな不思議な時間
だけどグエルの心は暖かな何かで満ち溢れていた