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    azumino_no

    @azumino_no

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    azumino_no

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    佐々木が海老名に惚れた時のお話です。

    恋のキューピッド 小話3 人に優しくしたら、その分自分に帰ってくる。

     先生やら親やら道徳の授業でよく聞く話。

     俺はこの言葉が好き。だって、そう考えたら、誰にでも優しくできる気がするから。


    「へい!パスパス!!」
    「はいっ!」

     中1の時の体育祭。俺はバスケ部だったこともあって、1、2、3年全学年が混じって試合をするバスケの選手に選ばれた。他学年とも仲良く協力しようというコンセプトの体育祭だったから、確実にどのチームも1人は他学年を入れないといけないという決まりがあった。
     俺のチームの1年生は俺だけだった。そりゃあ、1年と3年だと、体格も全然違うから勝つためには3年が多くいた方が良い。

    「佐々木!パス!」
    「はいっ!」

     俺は3年のバスケ部の部長と同じチームで、部長の推薦で選ばれた。チームにはバスケ部も何人かいたけど、バスケ部ばっかりだと意味がないということで、半数以上はバスケ部以外という規定が実行委員から言われていた。

    「……てかさ、1年なんて居ても邪魔なだけじゃね?」

     試合が始まる前に同じチームの人がそう言ってた。確かにね。俺もそう思った。でも、先輩から頼まれたし、委員がそう決めたんだから、仕方なくない?
     なのに、俺に聞えるように陰口言わなくてもいいじゃん。試合中にさっきの言葉を思い出して、モヤモヤしていると、横から強い衝撃を受けた。

    「あ、ごめんね?」

     ……あ、俺の陰口を言ってた人だ。確かに近くにボールはあったけど、俺の位置にわざわざ突っ込んでくる必要はない。わざとだ。俺は少しよろけたものの、転ぶことはなかった。それでも、急な衝撃で足首が変な方に曲がって、結構痛かった。

    「……いえいえ、大丈夫ですよ」

     俺はいつもの笑顔を貼り付けた。ここで怒っちゃダメ。優しく接しないと……。実際、俺が足を引っ張ってる。この人がわざとぶつかってきても不満そうな顔しちゃダメ。

    「っしゃあ!」

     俺がぶつかってきた先輩に笑いかけ、足の痛みに耐えていると、向こうのチームにポイントが入っていた。先輩は軽く舌打ちをして、定位置に戻って行った。今のゴールで、向こうの方が勝っていることになってしまった。もっと頑張らないと。
     俺はその後も痛みに耐え、なんとか試合が終わった。結果は俺たちのチームの負けだったけど、俺が怪我をしたからという些細な理由じゃなくて、向こうにバスケ部のエースがいたっていう理由だ。仕方ない。それでも、少し悔しかった。

    「はぁ……」

     とりあえず、俺の出番は終わったから、体育館と校舎の間にある階段に座った。みんな、試合に夢中でこんなとこには来ない。俺は下を向いて、一人で足の痛みに耐えていた。

    「……大丈夫か?」

     誰かから声をかけられ、顔を上げると、制服を着て、手に包帯を巻いた子が目の前にいた。三角巾も付けていてたから、多分骨折でもしたんだと思う。にしても、俺はこの子と話したことない。そんなに俺、落ち込んでるように見えたのかな……。

    「……え、と」
    「足。大丈夫か?」

     俺が下を見て座っていても足が痛いなんてことは分からないはず。なのに、目の前の子は俺が怪我をしたことに気付いてるみたいだった。

    「え、あ、大丈夫だよ。お気遣いありがとう……」
    「ん、これ、湿布な」
    「あっ、そんな大したことないよ」
    「いや、試合中足引きずってたじゃん」

     ……あ、思い出した。この子、さっき俺たちの試合の審判やってた子だ。手を怪我して、試合に出れないから、審判にまわされたんだろーなって思って、印象に残っていた。審判をしてたから、俺のケガに気づいたのかな……。

    「……にしても、あの先輩、ひでーな。わざとだろ」
    「え?」
    「そんなに体育祭ガチでやる?って感じだよな。しかも、3年だろ?あの先輩。大人げないよな」

     初めて話した子だったのに、あからさまに不機嫌そうな顔で俺に話しかけてきて、俺は少し驚いていた。

    「大体こっちだって先輩たちと合同のチームでやりたくないわって感じだしな。委員会もなんで合同でやらせようと思ったんだろうな。体格違うんだからやめとちゃいいのに」
    「……でも、俺が足引っ張ってたのは本当だし、先輩は悪くないよ」
    「え、それはないだろ。だって、わざとケガさせてんだよ?」
    「たまたまだよ。俺がぼけーと立ってたから、先輩の進路を邪魔しちゃったんだよ」
    「……え?ムカつかないの?」

     ムカつく……。確かに陰口を言われてイライラはしたけど、そんな取り立てて言うことじゃないかなって思ってた。自分が我慢すれば丸く収まるし、被害者ぶるのも嫌だ。感情を表に出して、喧嘩みたいにしたくない。

    「うん、もう大丈夫だから。湿布、ありがとね」
    「えー……、俺は絶対やだ……。見てるだけで嫌だったもん。お前、もっと怒ってもいいと思うぞ」

     怒る?……というか、この子、俺以上に怒ってるよね。なんで、自分がされたわけじゃないのに、こんなに感情を表に出すんだろう?

    「足、見せろって」
    「え、あ、いや……」
    「ほら早く。俺、審判に戻んないといけないから」

     感覚的に結構腫れてる気がしたから、心配させないためにもできれば人に見せたくなかった。でも、この子は俺が見せるまでここから離れない気がしたから、仕方なく、俺は靴と靴下を脱いだ。

    「あー……?腫れてるのかな……?あんまり足首なんて見ないから分かんないな……」

     いい子なんだって分かってるけど、困った顔で足を見つめて、分からないのに必死に腫れてるか判断しようとする姿に少し笑ってしまいそうだった。

    「ふふ」
    「え、何笑ってんの?」
    「いや、優しいなぁと思って」
    「……馬鹿にしてる?」
    「してない、してない」
    「えー、本当かよ……、はは、まぁいいや。とりあえず、湿布貼っときなよ」

     さっきまで不機嫌な顔だったり、困った顔をしてたのに、今は笑顔で俺の方を見てくれた。表情がコロコロ変わるのが印象的だった。

    「うん、そうするよ。本当にありがとう。ほら、審判に戻りなよ」
    「おー、そーする。ちゃんと貼れよ。んじゃ」
    「ありがとね」
    「こちらこそ」

     最初はちょっとひねくれてる子かと思ったけど、いい子だったなぁ。あ、名前聞くの忘れちゃった。


     それから、校内で湿布をくれた子を見かけるようになった。
     なんとなく優しくしてもらったから、目で追ってたけど、本当によく表情が変わる子だった。友達に話しかけられた時は嬉しそうな顔をするけど、いじられキャラなのか話し始めてすぐ不機嫌な顔になって、その後、友達がヘラヘラ謝って、結局最後は笑顔で会話をしている。

    「海老名っ!」
    「あ、北川、うわ、抱きついてくんなって!」
    「へへ、海老名ー、今日はお菓子くれないんすか?」
    「もう部活やめたわ!その話、二度とすんな。黒歴史だよ」
    「黒歴史作るの早くね?てかさ、今日の帰り、俺一緒に帰れなくなったー」
    「え?なんで?」
    「委員会ーー」
    「あー……、そっか……、おっけー」
    「そんな悲しそうな顔するなよー」
    「ちょ!やめろって!」

     ふふ、なんか楽しそう。廊下で大きな声で話してるから、勝手に会話が耳に入ってきたけど、声のトーンでも感情の変化が読み取れやすい。一緒に帰れないって分かった時、本当にしゅんってしてた。

     結局中1の時は体育祭の時しか話さなかった。クラスが違ったし、接点もなかった。それに、なんとなく仲良くなれる気がしなかった。俺は人目を気にして、マイナスな感情の時は顔に出さないようにしてた。でも、あの子は俺と違って、全部を顔に出すから隔たりなく友達と楽しそうにしていて、俺にとっては眩しいくらいの存在だった。だから、遠くから見てることしかできなかった。


    「……えーと、佐々木?」
    「え?」

     中2の夏、まさか声をかけられると思ってなかった。

    「合ってるよね?佐々木で」
    「え、あ、うん……。どうしたの?」
    「これ、辞書。高橋に貸してただろ?高橋、今バタバタしてて、代わりに返してきてって頼まれて」
    「あー、なるほどね。わざわざありがと……」
    「……?何?」
    「え?」
    「いや、なんか見つめてきたから」
    「……え?」

     あれ……?俺、もしかして無意識に見つめてた?

    「えっ、あ、俺の勘違いか。はずっ……、ごめん、なんでもない……」

     あ、かわいい。照れてる。……なんだろう、めちゃくちゃ可愛い……。

    「……じゃあ、まぁ、そーゆことで……」
    「え、あ、うん、ありがとね……」

     これまでは遠くからしか見てなかったけど、面と向かって話すと、あの表情すべてが可愛い。え、なんだろう……、ソワソワする。

     それから、この気持ちが恋だと気づくのはそう遅くなかった。

    「さ、佐々木君、好きです……。付き合ってくれませんか?」
    「……ごめんね、気持ちは嬉しいけど、俺、他に好きな人がいるんだ」

     スッとこの言葉が出てきた。これまで告白されても、まず謝って、その後、理由を述べずに断ってた。どんな理由でもきっと告白してきた子を傷つけちゃうから、理由は言わなかった。でも、海老名と話してから、明確な理由ができた気がした。
     
     俺、海老名のこと、めちゃくちゃ好きかも……。


    ****

    「佐々木ってなんで俺のこと好きなの?」
    「え、……可愛いから?」
    「そうじゃなくて、惚れた理由、いい加減教えろって」

     最近、海老名がよく俺が惚れた理由を聞いてくる。でも、2回話しただけで惚れたって言ったら、「えー……」って言われそうだから、これまでははぐらかして理由を教えてこなかった。

    「佐々木、教えてよ」
    「えーー、どーしよっかなー」
    「佐々木……、お願い」
    「ちょ!ずるいって!可愛く言ってもダメ!」
    「ちぇ……」

     うぅー、可愛い……。最近、おねだり覚えてきて厄介だなぁ……。
     まぁ、でも、死ぬまでには海老名に惚れた理由話したいかもなぁ……。俺の気持ち、全部理解して欲しいもん。

    「じゃあ、海老名が俺の最初の告白オッケーしてくれた理由教えてくれるなら、話してあげる」
    「……無理。絶対無理。絶対教えない。墓場まで持ってく」
    「えぇ……」

     海老名は異様に俺の告白をオッケーした理由を教えてくれない。俺と海老名は1回別れてる。マジであの期間辛かった……。死ぬかと思った……。まぁ、それは置いといて、2回目の告白は海老名の方から前日に「俺もお前のこと幸せにしたい」って言ってきたから、オッケーしてくれた理由は分かるんだけど、最初の告白をオッケーしてくれた理由はよく分からない。

    「……でも、栗林には教えたらしいじゃん」
    「それは、だって……、その場のノリというか……」
    「栗林は知ってるのに俺は知らないなんて、嫉妬しちゃうよ」
    「勝手にしてろよ」

     そう、栗林は知ってるんだよなぁ。ずるい。無理矢理栗林から聞き出そうともしたけど、やっぱり本人の口から聞きたい。栗林も「おもしろいから、本人の口から聞きなよ」ってすげー笑いながら言ってた。……というか、おもしろいって何?

    「……じゃあ、当ててもいい?」
    「あー……、まぁ、いいよ」
    「罰ゲームで告白したと思ったとか?」
    「違います」
    「じゃあ、嘘だと思った?」
    「嘘……、うーん……」
    「本気だとは思わなかった?」
    「まぁ……、俺に本気だとは思わなかった」
    「……あんなにアプローチしたのに……」
    「定期的にその話すんのやめろよ。自分でも鈍感なの分かってるし、お前だってアプローチ下手くそだからな!」

     そんなにアプローチ下手だった?本気だったんだけど……。まぁ、それも置いといて、「俺に本気だとは思わなかった」ってどういう意味だろう?「俺に」ってことは他の人だと思ったってこと?なのに、オッケーするのはなんでだろう……?んー、むずいなぁ……。

    「あ、じゃあ、実は海老名、他に好きな人がいて……、…………」
    「……いねーよ。自分で言って勝手に傷つくなよ」

     無理だ。海老名が俺以外好きとか本当に無理。でも、その可能性はないみたいだから良かった。

    「えー……、じゃあ、やっぱり俺が他の人好きだと思ったの?」

     絶対それはないけど。俺、海老名一筋だもん。
     下手くそながらも必死にアプローチしたから、海老名もさすがに俺が他の人を好きだとは思わないはずだから、他の可能性を考えてると、海老名からのいつまでも返事がなかった。海老名の方を見ると、嘘を吐けない海老名は気まずそうな顔をしていた。

    「え、図星?」
    「うるさい!知らない!」

     海老名は恥ずかしいのか勢い良く抱きついてきた。俺は冷静なフリをして、優しく頭を撫でてあげたけど、内心すっごくドキドキしてる。

    「えぇー……、可愛い。図星だったんでしょ?」
    「……早く惚れた理由教えろよ……」
    「ふふ、話逸らさないの」
    「いじわる……」

     あ~~!可愛い!本当に可愛い!いじわるしちゃってごめんね!?うわー、可愛い……。

    「海老名、またいつか話してね」
    「絶対話さない」

     うーん、強情だなぁ。にしても、俺が他の人を好きだと思ってたのに、なんで俺と付き合ったんだろう……。というか、俺、他の人好きなのに海老名に告白するってそういう状況?あ、もしかして、俺のこと本当に好きだったとか!?嘘でもいいから、付き合いたいとか?でも、付き合って振られてるしな……、あ、俺に好きになって欲しいから一回距離置いたとか!?

    「海老名、もしかして、俺のことめちゃくちゃ好き?」
    「は?」
    「もしかして、」
    「ちげーよ。何考えてるか知らんけど、絶対違う。お前がそんな嬉しそうな顔する理由じゃない」

     あ、うん、ですよね。俺の完全な片思いでしたもんね。

    「じゃあ、次は佐々木が俺に惚れた理由、当てたい」
    「いいよ」
    「佐々木って俺に惚れたの中2の終わりとか?」
    「んー、自覚したのは中2の7月かな」
    「え、夏?……そんな前から好きなの……?」
    「うん、そんな前から好きだよ。ずっと好き」
    「……だって、ほぼ話したことなくない?」
    「ちなみに海老名、俺と初めて話した時のこと覚えてる?」

     覚えてくれてるかな……、体育祭の時のこと。正直、あの会話の時点で俺、海老名に惚れかけてたと思う。

    「……あ、あれだ、あの時、中1の最初の頃」

     え、もしかして、覚えてる……?

    「佐々木、入学した時、イケメンって騒がれてて、何人かの女子がお前に手紙渡しててー、んで、お前、その手紙落としたから俺が拾ってあげた」
    「……え?」

     え、なにそのエピソード……。初めて聞いたけど……。というか、俺、本当に覚えてない……。

    「だから、俺、中学の最初の頃、お前のこと、手紙王子で覚えてた。あ!そうそう、だから、北川と佐々木の話する時、レタープリンスって呼んでたわ。んで、略してレタス。うわ、懐かしー」

     ……レタス。え、俺と海老名の出会いってそんな感じだっけ……?

    「さすがに覚えてない?」
    「ご、ごめん。覚えてない……」
    「じゃあ、佐々木はいつ俺と初めて話したと思ってるの?」
    「……た、……いや、やっぱり秘密にする……」
    「え、なんで?話してよ。あ、……もしかしてレタスのこと怒ってる?」
    「怒ってないけど、……レタス……、レタスか……」
    「ごめんって。モテるお前に嫉妬してただけだから、許してくれ。あ、間違えた。……佐々木、許して?」
    「……っ!海老名、ずるいって……。可愛さ安売りしちゃダメだよ……」
    「だって、全然話してくんないんだもん。でも、あと、話したのなんて中3くらいしか……。中2で話したことあったっけ?」

     やっぱ、覚えてないかー。海老名、優しいから湿布くれたのだって別に俺だったからっていう理由じゃないし……。

    「うーん……、でもお前のことだし、惚れた理由は単純な気がする……。んー」
    「ふふ、悩んでる顔も可愛いね」
    「あー……、もう分かんない。教えろよー」
    「えーー」
    「あ、そーいや、体育祭の時、話したか」

     え、えぇ……!?そんなあっさり言っちゃう感じ?いや、覚えててくれて嬉しいけど、嬉しいけど!?

    「え、あの」
    「あれ?2年の時、ハイタッチしたよね?」
    「……した!」

     俺が好きだと自覚した後の2年の体育祭の時。俺と海老名は同じチームじゃなかったけど、俺は海老名と仲良い友達と同じチームで、その友達がノリで海老名にハイタッチしてたから、隣にいた俺も便乗でハイタッチした。すっげードキドキしたから覚えてる!

    「だよね。だって、俺、佐々木とハイタッチ後、手握られたもん」
    「……誰に?」
    「佐々木のファン」
    「……は」
    「あ、男だけどな?」
    「いやいや、普通に男でも嫉妬す……、いえ、なんでもないです」
    「なんでもないって言えないくらい、ほぼ言い終わってたけどな」

     うぅ、悔しい……。俺は軽くタッチしただけなのに、手握られたって……、うー、俺だってあの時、本当はハグくらいしたかったのに……。

    「というか、お前、一定数の男のファンもいたよね。その手握ってきたやつ、すげー佐々木ガチ勢だったわ」
    「……嬉しくない……。俺は海老名に愛されればそれでいいのに……。うー、手握られたのかぁ……」
    「いや、何年前の話だよ。ほら、手握っていいよ」

     えぇーーー、好き!
     俺はすぐ差し出された海老名の右手を撫でまわした後、恋人繋ぎをした。最近、俺の機嫌の直し方までマスターしてきてる。さすが俺の恋人。年々愛おしさが増してく。あー、すげー好き。

    「なぁ、本当に教えてくれないの?」
    「……俺、初めてこんなに人のこと好きになったから、その……、自分の思い出を大切にしたくて、いつかは海老名に話したいとは思うけど、今話したら、海老名はそんなことで?って思うかもしれないし」
    「別に思わないけどな。今はこうして恋人になれたわけだし。むしろ、俺が告白オッケーした理由の方が余程アホらしいし……」

     今はこうして恋人になれたわけだし……だって。あぁー、好き。俺、めちゃくちゃ海老名と恋人になりたくて、必死でその地位を獲得したけど、海老名も俺と恋人になれて嬉しかったのかな?えー、ずるくない?こうして恋人になれたわけだしって、可愛すぎじゃない?……あー、やっぱり好きになった理由話して、もっともっと俺のこと分かって欲しい。

    「……いいよ、話すよ。海老名には俺の気持ちもっと理解して欲しいから」
    「えー……、じゃあ、俺の話さないといけない?」
    「ふふ、どっちでもいいよ。できれば話して欲しいけど、まだ話したくないならいいよ」
    「……絶対笑うなよ」
    「もちろん」

     海老名は話しづらそうな顔をしながらも話してくれた。普段なら、気まずそうな顔も可愛いなぁと思いながら、話を聞いてたと思うけど、予想以上にすごい勘違いで俺の告白をオッケーしていて、脳が追い付いていなかった。

    「え、……つまり、俺が栗林のこと好きだと思ってたの……?」
    「……うん」
    「海老名で恋人の練習を……?」
    「……そうだって言ってるじゃん……」
    「え、あ、え、えーと」

     やばい、笑っちゃダメ。え、こんなに鈍感なことある?海老名すごい気まずそうだから、慰めてあげないといけないのに、かける言葉がなんも出てこない。え、そんな勘違いする?というか、俺の性格すごい捻くれてない?待って、海老名から見た俺ってどんなんだったの……?俺、海老名のこと大好きアピールしてたし、すっごく優しく接してたのに……。

    「……佐々木」
    「えっ、あ!笑ってないよ!?ただ、その……鈍感さんだなぁって思っただけで……」
    「~~っ、次!お前が俺に惚れた理由話せよ!」
    「待って、待って。なんでそんな勘違いしたのかもう少し詳しく聞かせてよ」
    「いじわるすんな!笑ってるじゃん!!」

     えー、めちゃくちゃ可愛いーー……。これ以上いじったら不貞腐れそうだから、今日はここまでにしとくけど、めちゃくちゃ鈍感すぎて可愛い。

    「ふふ、ごめんね。じゃあ、次は俺が話すから。笑っちゃダメだよ」
    「……おう」

     俺は体育祭の話とその後ずっと海老名のことを目で追ってた話、そして恋に落ちた時の話を丁寧に話した。海老名はずっと黙って聞いてくれた。

    「まぁ、そんな感じです」
    「……え?……分かんない。なんでそれで惚れたの?」
    「えぇ?」
    「だって、別に俺、お前と違って顔がいいわけじゃないし、表情だって……確かに顔に出やすい方だと思うけど、そんな普通だし……」
    「そんなことないんだって。俺から見たらすっごく可愛いの。本当に全部がドストライクなの」
    「えー……、分かんない……」
    「ほら、今の少し照れてる顔も可愛い」
    「て、れてない」
    「へへ、可愛い」
    「悪趣味」

     理解はしてくれたみたいだけど、照れてるのか認めようとしてくれなかった。でも、思ったより海老名も嬉しそうだったから良かった。

    「でも、体育祭の時のこと、思い出したわ」
    「えっ、本当に?」
    「というか、佐々木、覚えてるか分かんないけど、お前足挫いた後、メンツチェンジさせた方がいいのかなぁとか思ってたけど、俺、先輩に口出せないし、お前顔色変えずにやってたから、無視しようと思ってたんだけどさ、俺の方にボールが来た時に俺、利き手骨折してたから、やばって思ったら、お前がそのボール全力で止めに来てくれた」
    「……え?」
    「足挫いてるのに、走って、俺の方に来てくれたから、後で湿布渡すかーと思った」

     ……あ、だからか。俺が「ありがとね」って言った後、「こちらこそ」って言ったのは審判やるのめんどくさくて、俺を口実に抜けてこられたから感謝したのかと思ってたけど、そうじゃなかったのか……。

    「あー、なんか思い出してきたわ。あん時……、え?」

     俺は思いっきり海老名を抱きしめた。
     海老名は優しいよ。だから、俺が海老名を守ったから、海老名は俺に湿布をくれたんだ。「人に優しくしたら、その分自分に帰ってくる」。よく言われる言葉で俺の好きな言葉だけど、実際にこれを感じたことはなかった。俺は人一倍みんなに優しく接してきたけど、俺の優しさ以上のものが帰ってくることはなかった。でも、海老名は違う。ちゃんと、俺に俺以上の優しさを返してくれた。

    「海老名、大好きだよ」
    「……お、おう?」
    「絶対に幸せにするから」
    「……どうも?」

     惚れた理由は海老名の表情だったかもしれないけど、今は全部好き。すべてが大好き。

    「……どーした?」
    「俺、本当に海老名のこと大好きすぎて……」
    「良かったな、恋人になれて」
    「本当に良かった。海老名が勘違いしてくれて良かった」
    「ちょっ!馬鹿にしてるだろ」
    「ふふ、好きだよ。栗林じゃなくて海老名のこと」
    「今はもう分かってる!」

     俺たちは大分遠回りをして互いに愛し合う恋人になれた。俺たちには障害が多すぎて、近道は出来なかったけど、俺は海老名と恋人になれるなら、遠回りも悪くなかったって今は思えてる。ただ、遠回りしてる間はすっごく辛かったこともあったけどね。

    「海老名、大好きだよ」
    「…………俺も」

     珍しく俺の顔を見て、目を閉じてくれた海老名にドキドキしながら、俺はゆっくり唇を重ねた。
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