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    8639hz

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    8639hz

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    ※なんでも許せる人向け※
    タイトル通り范謝が夢を見た話。
    本当は憑依とか転生みたいな話にしたかったです…うまく書けなくて夢オチになりました。

    #范謝
    fanXie

    白昼夢「謝必安?」
    稽古場のすみでぼんやりと床に座っている男を役名で呼んでみた。
    「…なんですか無咎」
    そう呼ばれた彼は顔をあげて役名で呼び返して、次の切り返しを待ってみた。
    どこかのシーンをおさらいするのか、悪ふざけが始まるのか。どちらでも構わない。目の前の『范無咎』が何を言い出しても、期待された通りに返してやる。
    范無咎役の彼が、時折本当に范無咎に見えることがある。役作りの賜物だろう。范無咎は、こうやって笑っただろう、こうやって汗を拭うだろう。こうやって食事するだろう。
    すべての仕種が懐かしい。
    「…必安、お前」
    すぐ隣まで近付いて顔を覗き込んだ。
    「無咎、貴方に、会いたかったんです」
    自分を謝必安と呼ぶ男に范無咎と声をかけ、手に触れてみた。稽古中の体はいつもより少し熱い。
    ハンターの体とは違う。
    「俺も、お前に会いたかった。もう何も心配いらないんだ」
    「…何言ってるんですか」
    なんだか、嫌なことを言われる気がする。このエチュードを、自分のペースに持っていきたい。余計なことは言わせない。聞きたくない。
    「今日は、雨ですね。こんな日に貴方と二人で居られるなんて」
    熱くて大きな手をぎゅっと握る。なんとなく自分の手がふわふわとおぼつかない気がする。気圧のせいなのか?
    「…もう、絶対に離しませんよ」
    何故か手を握っている実感が薄くて、焦燥感を覚える。彼は目の前に居るのに、なんだか遠いような気がする。
    「わかってる」
    「何を、」
    彼は掴まれた手をぐっと引いて、その勢いのまま『謝必安』を抱き寄せた。
    ああ、彼は、范無咎は、こうやって謝必安を抱き締める。
    彼は。…彼?
    「…何処にも、行かせないですよ」
    彼が、此処に。
    何故か、声が震えて、涙が出ていた。ええっと、これは。
    「…わ、え?あれ、俺…ちょっと待って…」
    懐かしくて苦しくて。
    懐かしい?何が?
    離れたくない。
    「大丈夫だから」
    何故か苦しそうな范無咎の声がする。
    そんな顔をしないで。
    此処に居るのに。なんで?
    熱くて大きな手が濡れた頬を拭う。
    「無咎…」
    范無咎の唇に、触れたい。無性にそう感じた。
    「…」
    范無咎が、謝必安をいっそう強く抱き締める。

    「ねーねー!ランクマ行かない!?」

    その時、稽古場のドアを開けて飛び込んできたのはロビー役の彼だった。
    「あっ、ごめん、稽古してた?」
    「あぁ…いや、行けるよ」
    そうだ、ここは都内のスタジオで、今は稽古の昼休憩だった。
    彼の声で目が醒めたような心地だった。ふたりはぱちりと目を見合わせる。
    あれ、今何をしていたっけ。なんで頬が濡れているんだっけ。
    「…あー、と。俺たち組めるっけ?ランクマ全然行けてないからめちゃくちゃ低いよ」
    「俺も今シーズンあんまり行けてないから大丈夫だと思うけど、ダメだったらサブアカあるよ!」
    「ちょっと待ってスマホ」
    范無咎役の男が先に立ち上がる。謝必安役の彼はまだどこかぼんやりしている。
    「大丈夫?立てる?」
    「ええ、…あぁ、いや、うん」
    軽く頭を振ってみる。
    「どした、寝てない?」
    「いや、そんなことは…ねぇ俺マジで最近サバイバーやってないけど良い?」
    ゆっくりと立ち上がりながら誘ってきた彼に声をかける。ごしごしと乱暴に目元を拭っていると、その手を掴まれて顔にタオルが押し付けられる。
    「あとひとり誰かハンター捕まえてハンター4パサバラン行こうぜ」
    「おっ、じゃあ元ヘラクレスのガラテア探しに行くか。ちょっと見てくる!」
    飛び込んできたときと同じように元気よくロビー役の彼が出ていく。
    急に静まり返った稽古場に遠くからサアサアと雨の音がする。
    「…なんか、さっきさぁ、」
    「うん」
    「…いや、なんでもない」
    「うん…」
    もう今は彼の顔は范無咎には見えない。




    目が醒めた。
    そこはいつもの荘園のいつもの部屋。
    謝必安が目を醒ますと、傍には傘。
    「…おはようございます。無咎」
    『おはよう、必安』
    傘から本当に声がするわけではない。謝必安にだけは、この傘に宿る范無咎の声が聞こえる。
    「なんだか不思議な夢をみたんです」
    傘はいつでも手の届くところにある。手を伸ばして傘を引き寄せて、抱き締めるように抱える。
    『俺も不思議な夢を見たような気がする』
    「………」
    夢の中では、目の前に范無咎がいて、優しくて、笑っていて。
    見つめ合って触れ合うことが出来て。手のひらが熱くて。
    抱き締め合うことが出来た。
    『…必安』
    今、范無咎は、謝必安の頬の涙を拭うことすら出来ない。
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