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    8639hz

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    8639hz

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    ※なんでも許せる人向け※
    強制××××の話。
    全然カプっぽさない仕上がりになってしまった…。

    #范謝
    fanXie

    豪雨の想いごう、と激流の音がする。ぐん、と体が重くなり地の底までひきずられるような感覚と、ぐ、と首が締まって引き上げられるような感覚がする。体がバラバラになって深淵に放り出されるような。

    『…必安?』

    傘から声がして謝必安ははっとする。
    「あ…、すみません」
    諸行無常だ。手にした傘をもう一度掲げ直して、范無咎と入れ替わる。
    謝必安がぼうっとしていた間にサバイバーには距離をとられてしまった。
    そのゲームはうまくいかず、なんとか通電後にひとり飛ばして終えた。

    今度はやや広いマップで謝必安は少し時間をかけてなんとか一撃をサバイバーに与えた。ここで范無咎に入れ替わり、とどめをさせばダウンさせられる。
    狙いを定めて傘を掲げる。
    そのとき、
    ごう、と暗い川の音がして、思わず謝必安は傘を落としそうになる。
    『謝必安』
    「…すみません、」
    傘を構え直し、離れていくサバイバーを狙う。
    結局そのゲームはようやく捕まえたひとりも隙をつかれて救助され、4逃げされてしまった。

    「無咎…すみません…」
    ぎゅ、と強く傘を抱き締めて居館に戻る。
    「白無常」
    「…ジョゼフさん」
    食堂の入り口に差し掛かったところでジョゼフに声をかけられた。
    「どうした?何かあったか?」
    「…いえ、単に調子が悪いだけです」
    「そうか」
    なんだか、こんなことが前にもあったような気がする。
    「ファントムはもう居ないのに…」
    「え?」
    「あれ…?私なにを言っているんでしょうね」
    はは、と力なく謝必安が笑う。
    「まあ…そういう日もあるさ。黒にも言われるだろうがあまり気に病むなよ」
    「ありがとうございます」

    「無咎…ごめんなさい」
    『必安が謝ることはないだろ。俺だって悪かったし』
    「でも…あんな、初歩的な…諸行無常に手間取るなんて。私のせいです」
    中庭から廊下へゆるやかに風が抜ける。謝必安の髪がふわりと揺れる。静かだった。
    『必安、少し代わろうか?しばらく休んでいると良い』
    「そうですね…お願いします」
    范無咎の提案に謝必安は傘を掲げる。
    その時、
    ごう、と謝必安の耳元で荒れた風の音がする。
    曇天 豪雨 氾濫した川
    「…っ」
    思わず謝必安が傘を取り落とすと、カタリと傘が落ちる音で我に返る。
    『謝必安?どうした?』
    「いえ…」
    今確かに真っ黒い嵐の中に居たはず。幻覚?ハンターの体が幻覚など見るのか?
    丁寧な仕種で傘を拾ってひと撫でする。
    「…疲れているのかもしれません、お願いしますね、無咎」
    もう一度傘を構える。
    「諸行、無常」
    わざわざ声に出してみる。しっかりと相棒の姿を思い描き、傘と入れ替わり、体を明け渡すイメージ。
    するすると傘の中に黒い雨が降る。雨にとけて、傘になる。
    「…お疲れ様、今日はもうゲームは無いし後は俺に任せておけ」
    実体を得た范無咎が手にした傘を撫でる。
    『はい。すみません』
    「謝ることはない」
    『…ありがとうございます』
    実体を得ているときと、傘に宿っている時、どちらの方が良いと言うものでもなかった。実体を得ていてもそれはもはや異形の姿で、生まれ落ちた人の姿では無い。ただ、自分が傘に宿っている時の方が、片割れが実存している実感を得やすいので、謝必安は安心した。
    傘に知覚などないが、范無咎の腕に抱かれている事実に謝必安は少しだけ落ち着いた。
    きっと、たまたま。負けが続いて動揺していただけ。今ならいつも通り戦えそうな気すらしてきた。



    『謝必安!』
    「っ、」
    サバイバーを深追いしすぎて板を当てられる。
    『代わろう』
    「…はい」
    謝必安はあの暗い音を聞きたくなくて、慎重に傘をさす。
    「…諸行無常」
    確かめるように、ひとつずつなぞるように、入れ替わる。この体を范無咎に渡して、傘に替わる。
    「…どこだ、ここ」
    『すみません…』
    入れ替わることに集中した謝必安は的はずれな位置に傘を置き、范無咎に入れ替わった頃にはサバイバーは遥か彼方に走り去っていた。じきに通電する音がした。

    「謝必安?」
    『……』
    范無咎が傘に呼び掛けても返事が無いが、眠っているわけではなく、落ち込んで黙り込んでいるような気がした。
    「必安、何かあったか?誰かに何か言われたか?単に調子が悪いだけならそれで良い。少し前は、俺の方がとにかく攻撃が当たらないことがあったからな。少ししたら調子も戻るだろう。新しいハンターが来たり、新しいサバイバーが来たりして、知らず知らず勝手が違う部分も出てきているだろうさ」
    他のハンターの誰も聞いたことがないような穏やかな声で范無咎は傘に話しかける。
    『…諸行無常が、』
    「うん。諸行無常の調子が悪いか?マップにも左右されるしな。うまくいっている時が続くとかえってうまくいかないことが気に障るよな」
    微かな風向きや湿度にも左右される。意識的にコントロールしようとしても、かえってうまくいかないことがある。謝必安を励ますように優しく傘を撫でる。
    『無咎は、特に気にならないですか?』
    「諸行無常か?今のところは…特に。何も変わりないと思うが」
    『私は…こわくて』
    傘を撫でていた范無咎の手が止まる。
    『時々、諸行無常をしようとすると、息が詰まって、豪雨が見えるんです』
    「………」
    今度は范無咎が黙る番だった。心当たりがあった。半永久的に繰り返されるゲームのなかで、謝必安は忘れてしまったことを范無咎は知っている。
    本来はこうして、白黒無常のふたりは、傘に宿る半身の声を互いだけが聞くことができる。
    それが、一時期互いに傘に宿る相棒の声が聞こえない時期があった。謝必安は不安定になったし、范無咎は酷く荒れていたが、繰り返される荘園でのゲームの中、そのことを謝必安は忘れてしまった。
    謝必安が忘れてしまったと言うよりも、范無咎だけがそのことを覚えていた。
    傘の声が聞こえず、やり取りが出来ない時、何度か范無咎は強引に謝必安を傘に引きずり込むように諸行無常を行ったことがあった。きっと、謝必安にはその時の記憶にない記憶がある。あの時、范無咎には他に手段がなかった。強引に入れ替わる時にいつもやけに謝必安が怯えているとは思ったが、傘から出たがる様子もなかったし、特にそのことについて言及することもなかったのであまり范無咎は気にしていなかった。唐突に入れ替わることに戸惑っているだけだと思っていた。
    きっとあの時。謝必安はそうとは言わなかったが、強引に入れ替わる時、豪雨にさらわれるように傘に引きずり込んでいたんだろう。
    「…必安、それは、俺のせいだ」
    『え?』
    范無咎はあの時の自分の行動を間違っているとは思っていないし、決して、間違っているとは思ってはいけなかった。
    後悔はしない。
    「…お前は、忘れてしまったことがある。荘園のせいで。お前は忘れているけど、俺は覚えていることが、ある」
    『…それは、』
    范無咎はぽつぽつと、言えることだけを不器用に話し続けた。
    「その時、俺は何度か強引に諸行無常をして、必安はいつも酷く怯えていた。同意を得ずに、唐突な諸行無常に戸惑っているんだと思っていた。けれど、きっとその時、必安は豪雨にさらわれるような心地だったんだろう」
    ああ、なんだ、と謝必安は思った。
    あれは、范無咎を失う幻覚ではなくて、范無咎にさらわれる幻覚なのだ。急に全てが明るくなった気がした。
    ああ、なんだ。
    「俺のせいだ。すまない」
    『…私が忘れてしまったと言うのは』
    「荘園のせいだ」
    『話してはくれないんですね』
    「すまない」
    『…私のため?』
    「俺が、必安を守りたいからだ。俺の意地だ」
    ふぅ、と傘がため息をつく。
    『…わかりました。わかりましたよ』
    「…すまん」
    『そうじゃなくて。なんだか、今はもううまく出来る気がするんです。明日のゲームの前に少し練習したいです。誰かサバイバー誘ってカスタムマップ行きましょう』
    「無理をするな」
    『無理なんかしてませんよ。貴方が話してくれたから、もう平気なんです。ありがとう』
    ありがとうなどと言われる覚えは范無咎にはなかったが、傘から聞こえる謝必安の声はやけに晴れやかだし、提案の通り、1on1をしてみることにした。

    「おい」
    「あら黒さんなの!」
    「誰か1on1出来るやついないか」
    「残念。わたしはかくれんぼ行くところなの!」
    「他に居ないのか」
    サバイバーの居館に顔を出すと、エマが愛想良く近付いてきたので声をかけた。
    「私が相手になろうか?」
    エマに断られたところに通りかかったのは。
    「お前はいい」
    顔を覗かせたルカに范無咎の剣呑な声に何かを察したイライが廊下から小走りでやってきた。
    「…黒無常どの!私がお相手するよ!」

    対戦に入るときまずマップに投入されるのは謝必安と決まっていた。
    もう負ける気がしなかった。
    謝必安が知らないことを范無咎は知っている。気にならないわけではなかったが、謝必安は彼の抱えているものを信じるしかなかった。
    射程に入ったイライに傘を振るうと梟で防がれる。存在感が貯まる。
    「無咎、」
    『ああ』
    傘を投げると豪雨の音がした。
    視界が暗くなる。
    息が苦しくなる。
    これは、范無咎の激情なんだと思ったら、謝必安は心地よくすらあった。
    ふふ、と微笑んで黒い雨に消えた。

    傘に消える間際の謝必安が高笑いしたように見えて、イライは思わず足を止めたところを范無咎に殴られた。
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