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    ytd524

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    ※現パロ
    ※コレ(https://poipiku.com/2336241/4637403.html)のおまけ話
    ※夏視点

    一気に会話文メインに切り替わったため、前回とだいぶ雰囲気が変わっております。ご注意ください。
    引き続きakiyuki様の元ネタツイートより着想を頂いております…重ね重ね感謝です…!

    ジャズパロ ExtraStage さぁ、どうしたものか。
     突然舞台から飛んでいった悪友の背中を眺めながら、私は頭に浮かんだ疑問をそのままに首を傾げた。
     もはや全てが超特急であった。演奏が終わり、頭を下げたかと思いきや、舞台のヘリに立っていたはずのその姿が客席へと消えていく。そうして真っ直ぐ向かっていった先にあった見覚えのある姿に、あぁやっぱりか、と頷いたはいいものの、私が理解したところで現状の収拾などつくわけもない。いっそトムとジェリーでも演奏するべきかと考えたが、肝心のメロディーラインがないのではどうしようもなかった。
     そんなバカみたいなことを考えているうちに、我がバンドのメロディー担当は客席にいた青年の手を取り、出口へと向けて再び歩みを進めていく。あぁ、これは多分楽屋まで引っ張ってくる流れだろう。となれば、あいつが言い出す言葉なんて一つし考えられない。

    「硝子」
    「ん?」
    「とりあえず、楽屋まで戻ろうか」

     未だざわめきを残す客席を置き去りにする私たちに、袖に控えていたスタッフもまた「えっ」という顔でこちらを見てくる。とりあえず笑っておこうと笑顔を向け、手のひらをぱ、と開いた。

    「すみません、五分だけもらいますね」



    「傑! アンコール! 連弾曲っ!」
    「うん、その前に言うべきことが山ほどあるんじゃないかな」

     楽屋に戻って一分と経たないうちに駆け込んできたピアニストは、そのサックスブルーを爛々と輝かせて興奮混じりに声をあげる。ちなみに硝子は喫煙所に引っ込んでいったため、ここにはいない。素晴らしい五分間の有効活用だ。
     そのため今、楽屋にいるのは私を含めて三人だけである。私と、この脳直行動を起こしたバカと、巻き込まれた青年。なるべくややこしくならないようにと言葉を続けようとしたが、それよりも先に青年が私を見、口を開いてしまう。

    「っ、夏油さん、これって一体どういうことです」
    「え、は? 待って、傑知り合いなの?」
    「ごめん恵くん、話はまた後ほど」
    「は? 恵くん」
    「あ、ごめん。今のは私がミスった」

     一気に彼の周りの空気が冷えるのを感じ取り、私はさっと両手を胸の前に立てる。だがさすがに、何も説明をしないままでは青年──恵くんに失礼であろう。上手いこと言葉を選びつつ、私は両手を上げたままにして口を開いた。チラと見えた二人の手は、未だ繋がれたままである。

    「まずは恵くん、今日は来てくれてありがとう。突然の招待だったのに」
    「え? あ、いえ。とんでもないです。すごく良かったです」
    「なぁ、マジでなんなの? 前から知り合いだったってこと? 俺の話聞いてたくせに?」
    「悟、君は口をチャックしていようか。で、突然ここまで連れてきてしまって申し訳ないんだけど、恵くんさえよかったらこの後のアンコール、客演として出てくれないかな」
    「はっ?」
    「傑!」

     告げた言葉に対する反応は正反対であった。片や驚きと困惑に溢れ、片や満面の笑みでさらに表情を輝かせる。

    「ここまで君を連れてきてしまったのは、まぁそこのバカの独断専行なのだけれど。でも、私としても二人の演奏は聞いてみたくてね。一人の演者として、お願いさせてもらえないかな」
    「傑ぅ!」
    「いや……いや、だめでしょう。そんな突然、マージンの出るステージだっていうのに」
    「そこは問題ないだろう。アンコールなんてある意味おまけのお祭りみたいなものだ、そこに一人客演が加わったところでどうってことはない」
    「ですが……俺みたいなのの演奏じゃあ」
    「実はね、そこのがピアノを始めたきっかけが君なんだよ」
    「……は?」

     俯きがちになっていた顔が、私の言葉を聞いた直後、呆然とした表情を纏って上げられる。その様子に思わず笑いそうになるのを堪えながら、視線を横へとずらしてやると、そちらもまた同じような表情を浮かべていた。ここで話題に出されるとは思っていなかったというのか。ならどうやって口説こうとしていたんだ、君は。

    「偶然ジャズフェスで演奏をしている君に出会ったらしくてね。それ以来ずっと初恋を拗らせ続けている子供なんだ、そいつ」
    「はつ……?」
    「ばっ、ちょ、おい!」
    「そこからピアノを始めて、私たちを巻き込んで今日がある……だからきっと、こいつが一番、君の演奏を求めているよ」

     そこまで言えば、私の役目はもう終わりだろう。上げていた両手を下げながら壁掛けの時計を見やると、ここを訪れてからもう四分が経過していた。硝子のピックアップを考えても、猶予はあと三十秒といったところか。
     そんな私の考えを正しく受け取ったのか──悟は若干赤くなりつつある頬をそのままに、青年へと視線を向けて口を開いた。

    「……四年前」
    「……は……」
    「多分、今とおんなじくらいの季節の時。高校バンドだったと思うけど、野外ステージにあるキーボードで演奏してて」
    「……あ」
    「あの時お前が弾いてた時の音とか、指捌きとか、ずっと忘れらんないの。だから今日見つけて、運命だと思った」
    「い、や……」
    「ずっと、お前の演奏ばかり追いかけてきたんだ……弾いてよ」

     悟の言葉に、青年は少しだけ視線を彷徨わせている。つられたのだろうか、彼の頬もまた赤みを帯びているように見えたが、この蛍光灯の下でははっきりとした色は認めることができない。ただ、繋いだまま離されることのない悟の右手が、光に照らされる中、ひどく鮮明に視界へと映った。

    「お願い」
    「……ダメ、だろ。練習も何もないで」
    「そんなのいつものことじゃん。あの時だって、客からのフリにアドリブでアレンジ入れてたでしょ」
    「よくそんな細かいところまで覚えてるな」
    「言っただろ。ずっと忘れらんないって」
    「……」
    「ねぇ。ダメ?」
    「……だめ」
    「じゃあ、嫌?」

     あぁ、その質問はずるいだろう。悟の言葉に私はこの会話の終わりを悟り、机の上に置いていた携帯を手に取る。そうして硝子にワン切りだけして、時間になったことを暗に伝えた。
     そう、だって彼はついさっきまで私たちの、悟の演奏を聞いていたのだ。その記憶も何もかもが新しく根付いた中で、一緒に演奏をしようと誘われて。それが嫌かどうかだって?
     そんなの、答えは決まっている。

    「……嫌なわけ、ないだろ」

     青年の答えに、悟はひどく満足そうな笑みを浮かべると、勢いよく私の方へと顔を向けた。大丈夫、こっちだってアドリブには慣れっこだ。思わずこぼれた苦笑は隠さずに見せたまま、私は時計を指さして「タイムリミット」とだけ告げる。

    「さんきゅ」
    「今日は長い反省会になりそうだね」
    「あ、やっぱり? まぁいっか。うん、いいや」

     そう言いながら悟は掴んだままの青年の手を見下ろし、顔を綻ばせる。その様子はさながらカップル成立の場面のようにも見えた。いや、それは恵くんに失礼か。

    (──まぁ、時間の問題か)

     全く、厄介な初恋に巻き込まれたものだ。
     颯爽と隣を追い越してステージへと向かう二人の背中に、私は隠すことなくため息を浴びせかけた。
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    ytd524

    DONE※ほんのり未来軸
    ※起伏のないほのぼのストーリー

    伏から別れ切り出されて一度別れた五伏が一年後に再結成しかけてるお話。
    akiyuki様が描かれた漫画の世界線をイメージしたトリビュート的な作品です。
    (https://twitter.com/ak1yuk1/status/1411631616271650817)

    改めまして、akiyukiさん、お誕生日おめでとうございます!
    飛ばない風船 僕にとって恵は風船みたいな存在だった。
     僕が空気を吹き込んで、ふわふわと浮き始めたそれの紐を指先に、手首にと巻きつける。
     そうして空に飛んでいこうとするそれを地上へと繋ぎ止めながら、僕は悠々自適にこの世界を歩き回るのだ。
     その紐がどれだけ長くなろうとも、木に引っ掛かろうとも構わない。
     ただ、僕がこの紐の先を手放しさえしなければいいのだと。
     そんなことを考えながら、僕はこうしてずっと、空の青に映える緑色を真っ直ぐ見上げ続けていたのだった。



    「あっ」

     少女の声が耳に届くと同時に、彼の体はぴょん、と地面から浮かび上がっていた。小さな手を離れ飛んでいってしまいそうなそれから伸びる紐を難なく掴むと、そのまま少女の元へと歩み寄っていく。そうして目の前にしゃがみ込み、紐の先を少女の手首へとちょうちょ結びにした。
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