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    綾崎寝台

    @kopa382

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    綾崎寝台

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    神様でもなんでもない、ただの女の子のなっちゃんが泣いちゃうお話。

    一個前の初日の出のやつと対のイメージで書きました。



    実は2倍くらい文字数あったけど、断捨離してどんどん削ってたらだいぶ短くなっちゃった…

    忘れたくない女の子のお話『もっと食え。タンパク質を摂らんと筋肉が増えん』
    『んぐ……っ、わかってますよぅ!組長はっ!急かさないで下さい!』

    比較的狭い室内、白いシーツをスクリーン代わりに映し出された映像の中で、2年前―――もうじき3年前になるあちこち怪我をした昔のナツメと…今はどこにも居ないカブラギが、戦闘訓練の後のなんでもない食事をしている日常を過ごしていた。

    それを見つめるのは、少女と呼ぶには大人に近づいたナツメ。彼女はふるりと身震いしブランケットを膝から肩へと被り直した。
    そして、赤く腫れた目を再びスクリーンへと向ける。

    映像はそこでちょうど切り替わる。

    食事をしていた場面から、明るい空の下へと転換し、在りし日のデカダンス要塞の壁面についたガドルの肉片と格闘するナツメと、おそらく除去の仕方をぶっきらぼうに教えているカブラギ―――を、やや俯瞰で捉えた映像だった。

    それを食い入るように見つめるナツメの瞳は、薄暗い室内でもわかる程に静かに水分を湛えていた。このまま、重力に負けた涙が頬を流れるのも時間の問題だろう。

    この映像は、何かと世話を焼いてくれるミナトがくれた映像記録だ。彼はカブラギの置き土産であるナツメに、なんだかんだで世話を焼いてくれている。たまに過保護にも感じるが、サイボーグであるミナトなりの気遣いなのだろう。

    この記録は、当時のギアの視覚情報から収集したものたそうで、初めて見た時は驚きと懐かしさと…タンカーの人権の無さを痛感したのだった。

    これを受け取った当初は、カブラギとの修行の日々を懐かしんだものだった。
    が、デカダンスの崩壊による復興やサイボーグ達とタンカーの対立など、比較的サイボーグ達に理解と慣れの早かったナツメは引っ張りだことなる事が多く、目の回るような日々であった。つまり、ナツメ個人の時間はあまり取れず満足に映像記録を鑑賞する時間はあまりなかったのだ。
    しかし、ナツメはこの映像を寝る前等に短時間でも見返す事によって、疲れ果て気弱になった自分を鼓舞していた。『組長に扱かれていた頃と比べればなんてことない』と懐かしみながら眠りについたものだった。

    また映像が切り替わる。
    映像の中の自分がべちゃりと脱力したように転ぶ。修行の帰りだろう、怪我まみれで性も根も果てたといった様相だ。
    少し前を行くカブラギは軽く振り返って『そこで寝るな。帰るぞ』と声をかけただけに見える。だが、倒れた自分が起き上がるのを見てから、カブラギが歩き出すのが確認できる。この映像は、彼のほんの少しの優しさを感じられてナツメは気に入っていた。



    それなのに、ツキンと胸に痛みが走る。



    じわりと映像が、視界がぼやけて歪む。頬が冷たいのは気の所為ではないし、胸が苦しいのも病気でもない。

    「……ッ…、…くみ…ちょ……っ」

    ぎゅうと手に握り締めたのは、崩壊したカブラギの家から持ってくることのできた、数少ない彼の持ち物の一つのドライバー。3年前にはよく自分の義手の手入れをしてくれた。

    彼の手の大きさに合ったそれは、今はひどく冷たく重く感じられた。

    弱くて何も出来ない自分を変えたいと無様に足掻いていた。それだけの何もできない自分に、腕を与え、鍛え、支えてくれた人は、もう居ない。

    その大切な人の存在がだんだんと自分の中から薄れていって、存在しないのが当たり前になっていくのが怖くて仕方ない。
    顔すら思い出せない母を想った日と、孤児院で自分の父を想って泣いた夜がもう来ないように、カブラギの思い出を思い返すのも…そうなってしまうのだろう。

    既にこうして彼の姿、声、立ち振る舞いの収められた映像を見返す頻度もだんだんと減ってきていた。
    毎日のように見ていた筈が、2日に一度に、3日に一度、週に、10日に、………今は月に一度くらいかもしれない。
    きっと、これから先はもっと減っていくだろう。


    孤独に慣れていく自分と、逆に孤独の痛みに打ちひしがれる自分が同時に訴えてくるのが、苦しくて、辛くて、悲しくて、

    なのに、どうしようもないのだ。

    「……く、みちょ……………わぁああぁあ……ッ…!」

    ナツメはドライバーを力いっぱい握りしめた。声を上げて涙を滝にして泣くのも、あとどのくらいできるのだろう。

    『お前は大丈夫だ』

    いつかの彼の手紙の末に、乱れた字体で綴られた言葉が脳裏に浮かぶ。

    「…だいっ…じょぶ、なん…っか…じゃ、…ないです…っ……!」

    自分はカブラギが思うような、すごい存在でも強い人間でもない。

    最期の時だって、へしゃげた機体の光消えゆく液晶画面に『ありがとうございました』なんて、別れの言葉を本当は言いたくなかった。

    『行かないで』と叫びたかった。

    ただの子どもみたいに、無理をわかっていながら駄々をこねたかった。

    「うぁぁぁ……ッ……ぁぁぁ……ッ…、…会いたい…会いたい、よぉ…っ……!」

    一度堰を切った涙はなかなか止まらない。
    ならば、ついでに今日までの仕事や人間関係等、諸々の疲れた気弱な感情も全て吐き出してしまおうと思った。

    そうしたら、きっと明日には皆が知っている『元気なナツメ』に戻れる。

    カブラギが望んでいた『決して諦めないナツメ』で居られる。

    「わあぁぁぁ……っ…、…ぅ、…ぁぁぁ………ッ…!」

    だから、今だけは全てを吐き出すように慟哭することを許して欲しい。



    涙の分の湿度を抱えた部屋で、カブラギが望んだ自由な世界を生きてゆく為に、ナツメは許しを請いながら一人で夜を越えていく。

    ナツメがこの夜を繰り返すのは、繰り返す事ができるのは、あと何回だろう。
    その夜が少しでも長くあれば良い、ナツメは痛みを抱えながらそう願った。










    ナツメが泣き疲れて眠った頃、整備部門のとあるサイボーグがデカダンス要塞の瓦礫の山から重要そうなピンクの端末を発見し、紛失物として提出していた。





    『    』が帰ってくるまで、あと―――――



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