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    heartyou_irir

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    記憶喪失ジャクレオ。仮2話ー4(タイトル未定)。ジャックが目を覚ましたことを聞き、レオナが卒業を迎えるところまで。

    立ち合いから明けた次の日昼過ぎ、クルーウェルからジャックが無事に目を覚ましたと連絡が入った。ベッドに横になったまま、その簡素な報告を聞く。
    二言、三言でやりとりを済ませ、レオナは電話を切った。携帯の画面には初期のままから変わらない壁紙が映し出されている。表示された分数を表す数字が変わったところでレオナは携帯を持った手をそのままベッドに投げ出した。

    静かだ。なにもかもが静かで穏やかだ。

    本来ならばこんなはずではなかった。いつものように温かな眼差しを向けるジャックに迎えられ、時間が許す限りレオナの部屋で共に過ごし、二人だけの時間を共有する。そのはずだった。

    それが、今はレオナただ一人だ。いや、これからも。

    ジャックとのやりとりは、レオナからの『これから帰る』というメッセージで終わっている。これから先、この先が綴られることはない。これは仕方のないことだ。

    そう自分から望んだことのはずなのに、どうしようもない虚無感がレオナを蝕む。ベッドから起き上がることすら億劫だ。体が重い。転がった携帯にチラリと視線を向けても、そこから音が鳴ることもない。深い息が勝手に口から吐き出された。

    レオナは一人目を閉じる。自身が空っぽになるような感覚に襲われようとも、不思議と後悔はなかった。

    ジャックの記憶に蓋をした。これは記憶を失ったのと同じことだ。けれどレオナの中で優先されるべきは二人の記憶ではなく、ジャック自身だった。たとえ何度選択を問われようと、レオナはジャックの記憶を消すことを選んだだろう。それは紛れもないレオナの意志だ。だから、後悔はない。

    今はまだ未練がましく想いを引きずっているが、それもいつかは消えて無くなってしまうはずだ。早く、そうなるといい。
    一人きりの部屋はいつもの自分の部屋と変わらないはずなのに、何故か広く感じて居心地が悪かった。



    季節は夏を迎え、やがて秋に変わった。
    学園内の木の葉は枯れ落ち、ところどころに裸の枝が見え始める。秋が終わり、冬になるこの季節、ナイトレイヴンカレッジは別れの季節になる。

    卒業を明日に控えたレオナは自室の窓辺で月を見上げていた。雲一つない夜空には多くの星々がまたたいている。
    何年も過ごしたこの学園で、この一年が一番早く過ぎていった。外部研修でほとんどを学園外で過ごした一年。課題に追われ、レポートに追われ、実習に追われる日々。それも明日でおしまいだ。明日、ここを卒業すればレオナは夕焼けの草原に帰ることになる。

    レオナは月明かりに照らされた勉強机の一番上の引き出しを開けた。そしてそこにあった手のひらに収まってしまうほどに小さな木箱を取り出した。蓋を開けると、丸い銀色が月の光を反射してキラリと光る。
    なんの装飾もない銀色の輪っか。目を閉じるとあの時のことが昨日ことのように思い出される。

    まだこんなものしか買えないが、と照れながら差し出してきたジャック。着けてくれないのかとからかえば、首まで赤くしながらそっと手を取り、震える指ではめてくれた。
    買ったばかりで汚れ一つなくレオナの指を彩るそれは、まるでジャックそのもののように美しかった。

    目を開く。箱から抜き取った指輪を手のひらに転がすと、あの時と同じように曇りひとつない光がレオナの瞳に映る。

    ふ、と自然と笑みがこぼれた。そして自分の指につけていた指輪を抜き取り、隣に並べる。銀の輪っかが二つ、仲睦まじく重なった。
    レオナはそれを一緒に握りこんだ。

    「───ロア……」

    小さく呟かれた言葉に反応し、手のひらにあったツルリとした感触は消え去り、そこにはただザリザリとした小さな粒だけが残った。レオナはそれがこぼれ落ちないように、強く握りしめる。

    形あるものは、いつか崩れる運命にある。レオナは握った手を持ち上げ月明かりに照らし、目を細めた。あっけないものだ。

    一人佇み、砂を握った手へ口づけを落とすレオナを、月だけが見つめていた。



    そして次の日、レオナ・キングスカラーはナイトレイヴンカレッジを卒業し、この学園を去った。
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