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    heartyou_irir

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    ヴァルエン。ヴァルとの初デートの服装を迷うエンジェルの話(執筆中の原稿より一部抜粋)

    「どうしよう……こっち?いや、やっぱこっちの方が良いか?」

    ベッド、扉を全開にしたクローゼット、ドレッシングテーブル、そして床。積み重なるように部屋中を埋めつくしている服の山を見下ろしながら、エンジェルは頭を抱えていた。

    そして一つ掴んでは姿見の前で体に合わせ、渋い顔をしながら首を九十度近く傾け、また次の服を手に取り同じように体に合わせていく。

    「パンツで行く?いやそれじゃあ色気が足りないか……。あっ、これ可愛いかも……いやダメダメダメ。あからさまに短いやつだと、まるで俺が浮かれてるみたいじゃん!!」

    そう言うや否や、エンジェルは持っていた赤いミニスカートを適当に放り投げた。すると、すでに床の上に出来上がっていた小さな服の丘が赤色の小さな山へと姿を変える。

    もはや部屋中に散らばり過ぎて、どの服がどこにあるのかも分からない。
    そしてエンジェルは下着だけを身に着けた格好で姿見の前にしゃがみこんだ。

    「あー!もう何着て行けばいいんだよー!」

    エンジェルが服という服を引っ張り出し、あれやこれやと悩んでいるのにはある理由があった。

    三日後、エンジェルはヴァレンティノと一緒に出掛ける約束をしたのだ。

    先日、ようやくヴァレンティノの連絡先を手に入れたエンジェルは、三日三晩悩み続けた後、ついにヴァレンティノに連絡を入れた。

    内容は、『今度一緒に出掛けないか』と、ただそれだけだ。これがセックスの誘いならばどれだけ気が楽だっただろうか。

    たったそれだけのことなのに、まるで大仕事を終えたような心持ちでベッドに倒れこんだエンジェルは、ホーム画面に戻ったスマホを視界の端に捉えながらぼんやりと放心していた。

    と次の瞬間、ピロンッと可愛らしい音と共に画面上に新着メッセージの通知が届き、スマホは早く取れと言わんばかりにブルブルとエンジェルを急かした。

    シーツ越しに伝わってくるその振動に慌ててスマホを掴み取れば、画面には了承の文言が書かれた通知が表示されていた。もちろん、送り主はヴァレンティノだ。

    『良いよ。いつにしようか?』何度見ても変わらないその文面に、エンジェルはぶわりと毛を膨らませる。

    ヴァレンティノは、俺と、一緒に、出掛けていいんだ。セックスだけじゃなくて、俺と一緒の時間を過ごしたいって言ってくれたのは、嘘じゃなかったんだ。

    エンジェルは逸る気持ちを抑えながらメッセージアプリを起動し、感謝の気持ちと日にちの提案を送る。

    そうしてあれよあれよという間に予定が決まり、二人は初めてセックスをするための夜ではなく、一緒に出掛けるための昼に会うことになったのだ。

    そこからはもう大慌てだ。まだ約束の日まで数日あるというのに、服という服を広げ、ファッションショーよろしく姿見とにらめっこを繰り返している。

    今までは突発的な遭遇だったのが、今回は会うために会うのだ。当然へたな格好なんてできるわけがない。

    だって、これはデートだ。二人であらかじめ予定を合わせて出かけるなんて、これはデートと言っても過言ではない──はずだ。

    これまでの言動の端々から、ヴァレンティノがエンジェルへ好意を寄せてくれているのは分かっている。きっとこれはエンジェルの勘違いではないだろう。

    そしてエンジェルもまた、ヴァレンティノへ同じような気持ちを抱いている。淡く色づく秘めた想いは、ヴァレンティノと会えるだけでどうしようもないほど浮かれてしまう。

    けれど、二人の間には名前がついた繋がりはない。もしあるとするならば、売り子と客。ただそれだけだ。

    だけどもしかしたら、もしかしたら、このデートで二人の関係性に名前がつくかもしれない。そう思うと余計にへたな格好をするわけにはいかなかった。

    「う~~ん」

    エンジェルは手に取った白いパンツを下肢に当てながら唸り声をあげる。スラリと長い脚を強調するようなパンツはスタイリッシュさはあるが、どうにも色気に欠ける。

    「もうせっかくだしなんか買いに行こうかな……」

    結局納得いかなかった白いパンツも床に放り投げ、再び下着一枚の姿になったエンジェルは背後に散らばる服の山を見ながらため息と共にそう呟いた。


    〈続く〉
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