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    hecoloveChris

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    OLLIE TO SATISFAKTI∞N SK∞ 非公式オンリーイベント
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    初夜失敗も、二人なら。***

    虎次郎と付き合い出して、大体三ヶ月。

    学生時代から、女をとっかえひっかえしているような男だから、てっきり手が早いのだろうと告白を受け入れたときには覚悟を決めていたのだけれど。

    「…男の身体には興味が無いんだと思っていた。」
    「本命だから大事にしてんの。」

    それこそ、学生時代から肩を組んだりノリでハグしたりなんてボディータッチは当たり前にあったから、互いの身体に触ることも、同性であれば虎次郎の部屋で下着姿で居ることだって抵抗も無く。
    それに、一向に口付けよりも先に進もうとしないものだから、そう言うものだと思っていれば。
    書院の私室に座椅子を並べ、互いに仕事が忙しくて上映期間の過ぎていた映画を、ネットレンタルして観ていた、その時。
    時間は夜で、虎次郎の持参したお手製の美味いつまみで、桜屋敷先生のイメージなら日本酒だろうが気に入りのそこそこ良いワインを半分も空けているなんて、それなりのシチュエーション。
    エンドロールながら「中々面白かったな」と虎次郎へ振り返りながら言えば「嗚呼」と短い返事で振り返って、顔が近かった、それだけでキスをするには充分な理由になったから唇を重ねた。
    虎次郎以外を知らないから、比較対象は無いのだけれど、おそらく虎次郎のキスは上手いのだろう。
    ワインの香りと共に、ぬるりと入り込む舌に口の中を弄ばれていれば、自然と息は上がるし、段々と思考に霞が掛かってくる。
    脱力し掛かる身体を気力で押し留めようとすれば、抗わなくて良いとばかりに逞しい腕が腰を抱いて引き寄せてくれるから、虎次郎の身体に凭れながら、キスを続けて。
    ひくり、と肩を震わせたのは、虎次郎の厚い舌が上顎のざらりとした感触を舐めたからでは無く、腰を支えていない方の手が、崩れた脚の着物の裾の隙間に、触れたからだ。

    「…ほん、めい。」
    「お前のことだよ…他に居ないだろ。」

    誑しゴリラ、なんて揶揄ってやる男から、本命だとか殊勝な言葉が、それも自分に向けて出てくるとは夢にも思わなかったが、それも「恋人」故と思えば面映ゆい。

    「…嫌、か?」

    脚に在った手は、ぴたりと止まって、男にしては大きく愛嬌のある垂れ目が伺うように見てくる。
    同性同士の行為に置いて、男役と女役、どちらがその役割を担うかについての話し合いをしたことは無かったが、おそらくと言うか、そのつもりで居るだろう虎次郎に、今更野暮な問答をする必要も無いだろう。

    「嫌だったら、触れた時点で蹴り飛ばしてやる。」
    「ふはっ、お前そういうヤツだよな。」

    ふにゃりと破顔する虎次郎の、この顔は、昔から知っていて、変わらなくて。
    嗚呼きっと、これから二人で向かえる時間が二人の関係をどう変えてしまうのか、柄でも無く及び腰だったらしい緊張しきった心を解してくれるのには、充分過ぎた。
    はずだったのに。

    「…こじ、ろ?」

    目が覚めてみれば、布団の中で一人きり。
    応接室はあれど仕事用で、仮眠用の一組しかない布団は同世代の平均を優に超えた二人で横になるには酷く狭かったが「くっついて寝る口実になるじゃねぇか」なんて、畳にはみ出ながら笑ってくれる男は、どこにもいなかった。

    「そうか…。」

    思いの他、耳で拾った自分の声は落胆しきって寝起きの頭を冷えさせたけれど、虎次郎の方がもっと落胆しただろう。
    本命だからと大事にして、いざと挑んで了承もされて、その上で失敗したのだ。
    しかも一方的に「やっぱり無理」だと拒否されれば、女相手には困ったことの無いだろうセックスを、男同士の面倒さに嫌気がさすのも仕方が無い。
    相性云々の話ならまだ良かったのかもしれないが、単純に此方の経験不足が原因だ。
    カーラの履歴に残すわけにもいかないからと、カーラとの接続を切った端末で散々調べて、思い出すだけでも顔から火が出そうに恥ずかし準備だって一人で済ませて、その上で布団で待つ虎次郎の元へと自分の足で行ったというのに。

    「悪かったな、虎次郎。」

    直接素肌に触れられるのも、虎次郎に触れるのも、緊張はしたけれど欠片も嫌悪など無く、むしろもっとと強請るほどだったのに、身体の内側で虎次郎の指を感じながら早鐘を打つ心臓は、虎次郎の性器を受け入れる段階まで来て、正直に、その大きさに怯んでしまった。
    最後の矜持で涙は浮かべなかったと思うが「怖い」と一言零してしまった瞬間に、虎次郎は全てを諦めて寝間着を着せ直し、後はただ眠りに落ちるまでの間をあやすように頭や背を撫で続けてくれたことを覚えている。
    そんな優しい手の平はしっかりと記憶にあるのに、目が覚めてみれば虎次郎はどこにも居なかった。
    帰ったのだろう。がっかり、させたんだろうな。

    「…カーラ。…嗚呼。」

    いつもなら枕元にあるカーラは、少し離れた机の上に置いたままの気がする。
    布団の上で身体を起こして、ぺたりと脚を崩して座り込んで探した先、期待通りの場所にカーラは居てくれなかったから、もう少し声を張らないと、呼び掛けも聞こえないはずだ。

    「カーラ…。」

    緊張しきって、殆ど喋らず、どころか虎次郎が名前を呼んでくれる声には息を呑む音でしか返せなかったから、酷使したはずも無い喉で、声を出すことに何ら問題は無いのに。

    「カーラ。」

    酷く、みっともない音だ。

    「か、カーラ。」

    喉から出てくる声は、弱々しく震えきって。

    「かぁ、らぁ…。」

    駄目だ、と思ったときには鼻を啜る音と、ぐずっと完全に涙声に。

    「か、っ…ぅ。」

    嗚咽が混じると、呼び掛けることも出来ず。

    「かぁ…っ、こじ…ろ。」

    自分のせいで居なくなった男を呼ぶ声というのは、こんなにも情けない音になるのか。
    布団に、ぱたぱたと目から落ちた滴が濡れた跡を作って、広がる染みは惨めさに拍車を掛ける。

    「…こじ、っ…虎次郎。」
    「おぅ、はよ。…何泣いてんだ、夢見でも悪かったか?」

    襖の開く音から、続く大きな足音。
    躊躇いも無く近付いて布団に座り込むと、虎次郎の両腕は、腹の辺りでぐしゃぐしゃと起きた形のままになっている掛布団ごと抱き寄せてくれた。

    「…なん、で…こじろぅ?」
    「朝飯、作ってやろうとしたら此処の冷蔵庫何も入ってねぇし。…まだスーパーも開いてねぇから、ウチ行って軽く作って、仕上げはこっちでって、持ってきたとこ。」

    少し、ではなく急いで戻ってきてくれたのかも知れない。
    虎次郎の胸元に抱き込まれて感じる、虎次郎の汗のにおいは、じわりと沁みる体温と共に、心を落ち着けてくれた。

    「…勝手に帰って、戻ってこないと思ったか?」
    「だって…。」
    「帰る時は、ちゃんと声掛けてたろ。仕事に集中して話聞こえてない時は、カーラに伝言残して。」

    言われてみれば、その通りだ。
    虎次郎の部屋に行っての自分は、勝手に帰る時はふらりと出て行くのに、虎次郎は必ず一言、言葉をくれた。
    カーラへの伝言もなかったから、昨晩と同じ所に置いたままにしたのだろう。

    「昨日のことで、帰ったと思ったんなら…薫も傷付いただろうけど、俺も傷付くぞ。」
    「…虎次郎?」

    瞳に残った涙を吸わせてくれるように、虎次郎のシャツに顔を押し付けられ、背中にあった手が頭までを撫で上げたと思えば、ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられる。
    少し乱暴にも思える手付きすら、どこか優しくて。

    「別にさぁ、最初っから上手くいくなんて思ってねぇし。…出来なかったからって理由で、恋人置いて勝手に帰るような男だって思われてたんなら、心外。」
    「…ごめん、悪かった。」
    「まぁ俺の普段…ってか、今までの行い、ってヤツだな。ちゃんと好きだって伝えてたつもりだったけど、足りなかったんだろ。」

    足りないはずがない。今だってこんなにも柔らかな声が、こんなにも傍にあるのに。

    「上手くいかなきゃ、やり方もっと調べて、反復練習だろ?」
    「…スケートのトリックみたいに言うんじゃねぇよ。」

    虎次郎の言葉に、小さく吹き出して笑う余裕まで出来てしまった。
    ついでに、優しく触れてくるキスに応えるなんてことまで。

    「…顔洗って、朝飯…その前に、シャワー浴びるか?」
    「あー…、昨晩はそのまま…虎次郎?」

    シャワールームに向かうのだからと、離してくれるはずの腕は未だに抱き締めてくれるまま。
    どうしたのだと首を傾げれば、首筋に顔を伏せるようにする虎次郎が耳元に吐息事言葉をくれて。

    「一緒に入る、ってのは?」

    甘ったるさの最上級みたいなおねだりの声。
    また、気恥ずかしさに胸板を押し退けてしまいそうになる気持ちをぐっと堪えて、精一杯の返事で小さく頷けば。
    嬉しくて堪らないってキスが、楽しげに降ってきた。

    ***

    ハッピージョーチェリ!
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