夢の栞 頬に触れる冷たい空気が夢と現実を混ぜるようにして、晶の意識が浮上する。重みのある布団に籠る熱に、微かな落胆と未練が晶の胸に落ちた。それを飲み込むように、晶はぱちり、ぱちりと緩慢に瞬く。部屋の温度だけが夢の続きのようで、けれどそれ以外の何もかも、景色も匂いも夢のそれとはまったく異なっていた。
これでもかと掛けられた毛布の隙間から這い出るようにベッドから降りる。熱を溜め込んだ身体をひやりと空気が撫でて、晶はぶるりと背を震わせた。布団の上で丸まっていたサクリフィキウムが、に、と小さく鳴く。返事の代わりにその頭を撫でてやれば、猫をかたどった使い魔はふわりと浮かんで晶の肩に乗った。
部屋の隅、小さなクローゼットを開いて薄手のカーディガンとストールを寝間着の上に巻きつける。晶は開かれたクローゼットの取っ手に手をかけたまま少し考えて、サクリフィキウムにも短いストールを一枚巻いてやった。……姿かたちが猫に似ているだけ。寒さを感じるような生き物ではないとわかってはいるものの、晶はそのようにしたかった。
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