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    ka_be0320

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    匋依の書きかけ

    すべてが解決したあとにようやく付き合う匋依(仮)「善兄からも兄貴になんとか言ってよ!」
    小腹が空いて、甘いものでも持ってこようと台所に足を踏み入れようとした瞬間、声が聞こえた。どうやら自分のことが話題にあがっているみたいで、中に入るのが躊躇われた。
    こっそり台所を覗くと、晩飯の支度をしている善と、プリン(俺が食べようとしていたものだ)を片手に椅子に座って足をぶらぶらさせている玲央がいた。
    「でもねえ、玲央くん……」
    「だって!どっからどう見ても兄貴は神林さんのこと好きだし、神林さんも兄貴のこと好きじゃん!なんで付き合わないの!?」
    「なんでって言われても……」
    「正直さ〜、見ててもどかしいんだよね。好きなら好きって言えばいいのに」
    「なにか大人の事情とか……色々あるんじゃないのかな」
    「オトナって何?僕だってもうハタチだけどさ、好きなことには好きって言うよ?好きにオトナとか子供とか関係あるの?」
    「そ、それは……」
    完全に言いよどんでいる善が少しかわいそうに思える。諸々のいたたまれなさに耐えられず、俺はその場を離れた。

    パラドックスライブに関する一連の騒動が収束した。アルタートリガー社、ならびにその後ろに隠れていたきな臭い連中は、悪事が露呈したことにより散り散りとなった。公権力も介入することとなり、もう表にも裏にも出てくることはなくなった。翠石組の襲撃事件に関しても、家族の力を借りつつケリをつけた。
    ここまでで三年。それほどの時間を要した。そしてようやく、穏やかな時間が流れるようになった。シノギも上々、ときどき悪漢奴等として音楽をやる……そういう生活を送っている。家族もなんの危険にも晒されない、この上なく幸せな日々だ。
    だが、ひとつ引っ掛かることがあるとするならば……それは旦那のことだった。
    俺はずっと、旦那の想いから逃げ続けている。
    始まりは十六のときだった。オヤジによってバディを組まされてから喧嘩ばかりしていた俺たちが、ちょうど互いのことを理解し始めた頃。俺が寝ているときに、頭を撫でられた。撫でたというか、ちょこっと触れた程度なのだが、その触り方は相棒とか友達とかにするものとは違っていた。俺が目を開くと旦那は何事もなかったかのように、いつもの仏頂面をしていた。手が触れた瞬間、旦那は俺のことが好きなんだって……一瞬だったけど、そこで分かった。悪い気はしなかった。
    しかし旦那は俺に手を伸ばすべきではなかったし、逆も然りだった。少しずつ、旦那の意識が、思いが。傾いていったのが翠石組の外だったからだ。いつ消えるかも分からない激情に惑わされてはいけなかった。
    旦那を外へと連れ出した音楽に、俺も触れるようになった。そして皮肉なことに、その音楽を通じて俺たちは再会した。二八だった。初めて旦那が営むBar4/7の扉を開けたときの彼の目。金色の瞳が一瞬輝いて、三日月みたいに細くなった。久しぶりじゃねえかと屈託なく微笑む顔を見て、この男はまだ俺のことが好きなんだと分かった。どうしようもない男だと思った。どうしようもなく、誠実だ。
    このときはお互いパラドックスライブがあったし、俺は並行して組の襲撃事件の真相を追っていた。だから俺たちの間には何もなかったし、何も起こらなかった。
    そして三一の現在。面倒事はすべてなくなった。それは同時に、旦那から逃げる言い訳がなくなったということだった。
    一緒に酒を飲んでいるとき、くだらない話をしているとき、ただ横並びで歩いているとき。旦那はいつだって俺のことを愛おしそうに見つめ、優しくしてくれる。それが嬉しくて……苦しい。
    静かにスマートフォンが震える。画面にはメッセージを知らせるアイコンがぽつりと表示されている。
    ――店来ねぇか?
    何の装飾もない一言。旦那からだ。「おう」とだけ返した。
    会わないほうがラクなんだと思う。頭では分かっていても、この三年で俺の心は嘘をつくのが下手になった。
    俺だって、十六のときからずっと旦那が好きなんだ。
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    😭😭😭👏👏👏👏🙏🙏🙏👏👏👏🍌
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