今と向き合う 三雲は一人になると怖くなることがある。それはレプリカを失ってから余計に酷くなったような気がするし、なっただけで変わりないのかもしれない。ただ、恐怖の原因は変わらない。――死。自分を引き付けてやまない、小さく、かと言って弱くない、むしろ力強い存在の命。眠ることを必要としない身体は多くの事を見てきただろう。そんな彼――相棒の命はどのくらい持つのか。そんな疑問が、ふと心を支配する時がある。
まぁ、三雲はそれを見ないふりする事を選ぶのだけれど。
「オサムは難儀な奴だ」
一月の終わり、松葉杖をついて学校に登校した三雲。帰りは支部に寄るからと、親の迎を断り空閑と川沿いを――雨取は本部に用事があると言い、別行動をしている――歩いていた。
「なんだ、藪から棒に」
「面倒見の鬼だな、と心底思っているってことだな」
空閑が笑いながら三雲の足取りに合わせて歩く。
「答えになって無くないか?」
三雲は眉をひそめて、文句を言う。
「はは、そうだな」
空閑は笑ったまま三雲の問いに答えようとはしない。そんな空閑に三雲は立ち止まり「空閑」と声をかける。
「ぼくは……」
「オサム」
空閑も立ち止まり、三雲が何と言おうとしたのかわからないまま、それを遮る。
「オレはオサムのお陰で、オヤジが死んだ時、笑ってた意味が分かった気がするんだ」
乾いた冷たい風が二人の距離を教えている。
「こっちにきて、オレは多くのモノを手に入れた」
だから大丈夫だ。その言葉に三雲は眼を見開き、空閑を見つめ、寂しそうに微笑んだ。そんな三雲を見て空閑は思う。最後の時はこんなに思ってくれる仲間を、三雲を思い出して死にたい、と。
この命の先が、明日ではないにしろ、いずれ終わる事を空閑は知っている。それでも、こんなに三雲に想われている自分は幸せ者だと思う。
ただ自分の気持ちは持っていく、三雲がいつまでも笑っていられるように。
だから今は。
冷たい風と共に、冷たい何かが三雲の頬に当たる。
「っ、雪?」
三雲と空閑は空を見上げて雪が降り始めるのを眺め、互いに顔を見合わせ笑った。そして二人は手をつなぎ、玉狛支部へと足を歩み出した。