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    しいげ

    @shiige6

    二次創作オンリー※BLを含む/過去ログは過去に置いてきた。

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    しいげ

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    GoSストーリー完結記念ラルアル、記憶の限り設定ゲーム準拠での完結後超捏造話です。ラルフが好きすぎるアルカードとアルカードが好きすぎるラルフの気軽に重い恋愛。

    ##悪魔城ドラキュラ
    #ラルアル
    ralu

    全ての終わりに見る月は朝日が眩しく三人を照らしていた。
    風にゆるく靡く髪は、安堵の弧を描く口元をいたわるように撫でる。ルーシーは長い髪を手で抑えながら、ヘルミーナと有角は気に留めることもなく遊ぶに任せている。

    「行かれるのですね…有角さん」
    感謝してもし足りない、という口調でルーシーは名残惜しげに有角を見やる。元から別の組織に属する者に「戻る」ではなく「行く」という表現を使うあたり、彼女の仲間意識はすっかり有角に移っているようだ。
    有角ももはやわざわざ訂正はしない。人間の善性を彼女に見出す瞳には好ましさが宿っている。
    「ああ。お前たちのお陰で全ては収まるべきところへ収まった──感謝する」
    「それは私達こそ言わねばならぬ言葉だ、有角幻也。…見送りが少ないことも詫びなければならないな」
    「気にする必要はない。俺も、彼らと同じようにあるべき所へ戻るだけだ」

    魔導書を媒介としたドラキュラ復活の企てを共に打ち砕いた仲間達──過去の人物の再現である召喚英雄たちは、時にして少し前にその役目を終えた。
    いや終えたというより、新たな役目に赴いたと言うべきだろう。
    グリモア・オブ・ソウルを巡る事件は、魔導書内の魔力が膨れ、溢れ、魔物として現実に具現化するというものだった。ドラキュラの魔力である朱き月のソウルは日食に再封印され、魔導書内で魔物として燻る残存魔力もあらかた取り除いたものの、これから長い時間の中、再び魔力の蓄積が起こることも十分あり得る。
    だから英雄達は、己の時代に帰ったのだ。
    書の中で己の時代を歴史のまま守るために。これからの未来はこれからの人間に託し、自らのできることをするため。時代を超えて集った仲間達をそれぞれの場所で守っていくために。
    魔導書を内と外から保っていくことができれば、記述の改変によるドラキュラの復活は二度と起こるまい。
    全員が納得ずくで、再びの集結がないことを祈りながら召喚解除の準備は進んでいった。

    「ラルフ…一つ聞きたい」
    見送りに際し、別れを惜しむではなく、有角は既知の戦友に尋ねた。
    「俺は変わったか?外見以外でもだ」
    「何かと思えば…変わったさ。本質は変わらずとも、他はいい意味でな」
    みなまで言わせるな、という態度でラルフは有角に笑いかけ、有角も頬を緩める。
    初めて、そして再び出会えた友に、それだけは聞いておきたかった。どうしてかは自分でもわからないままラルフの答えに満足感を覚える。ただ嬉しい、という感覚が胸をあたたかく満たす。
    「…アルカード」
    笑えば柔らかい表情もすぐにいつもの鋭さを取り戻し、ラルフが反問する。
    「なんだ」
    「俺もお前に……その、なんだ、言っておきたいことがあって」
    言いながらもその先は口に出せず、ラルフはがりがりと頭を掻く。
    「どうした、遠慮などお前らしくもない」
    「……いや。我ながら往生際が悪いと思ってな…お前ほど潔くなれない」
    そう言って、昼の海を映した空のような瞳でラルフは有角を見つめる。その揺らぎを有角は初めて覗く心地がする。
    (名残惜しい)
    それが伝わってくる……もちろん有角とて同じ気持ちがないではない。ただ慣れていたに過ぎない。限りある出会いと別れを。
    だから有角は自ら口を開く。
    「…お前と生きて別れるのは二度目だな。だが、あの時とは違う」
    最初のトランシルヴァニアでは、共に身も心も傷付きながらの別れだった。今はもうこれでよいと、決意は穏やかで揺らがない。
    「お前と出会えたことは、昔も今もかけがえのない経験だった。俺が人を信じ戦うことができたのも全てお前のお陰だ。それがこれからも俺の支えになる……感謝する、ラルフ」
    「………ふ。そう言われちゃな…もう何も言えん」
    参ったな、というように再び自分の髪を掻き混ぜて苦笑するラルフに有角は首を傾げる。言いたいことがあるなら何でも言えばいい、これで最後なのだから。
    言葉を待つ有角へ、ラルフは万感を込めて告げた。

    「そうだな…ひとつだけ。
     ──俺を忘れるなよ、アルカード」

    「…忘れられるものか」

    最後まで笑って言葉を交わし、尽きぬ名残を穏やかに飲み込み、大切な者たちを見送った。



    ※  ※  ※



    ──月の満ち欠けを数えることができたら、それは途方もない数だろう。
    有角は組織に戻った。
    とはいえ彼の求める情報は唯一ドラキュラ伯爵に関するもののみ。来栖蒼真のような魂の転生、グリモア・オブ・ソウルのような復活の画策…組織を通じて、または有角の存在を知る者から、それらがもたらされることは今のところない。世界は英雄らが守りたかったとおり、穏やかに夜明けを繰り返している。
    闇に連なる血を持った自分が関わらぬことが人の世の平和の証だと、月を眺め朝を待って仮初の眠りにつく。人に似て人にあらざる日々を繰り返し、有角は生きる。

    獣の訪いがあったのは、そんな時だ。

    気配と物音を察し、常は閉ざされた扉を有角自身の手で開く。
    そこには一頭の青白い毛をした狼がいた。
    狼は魔力を帯びた光を纏って行儀よくこちらを見つめている。有角は黙って扉を開け放ち、招き入れた狼の毛を撫でやる。許されたことを理解しているように狼はその場に伏せると──その姿は、ひとつの包みに変わった。
    (この魔力体は……覚えがある)
    真っ先に目を引いたのは、赤い蝋が施された古風な封書だ。
    包みとともに拾い上げると、中身より先に署名を改める。

    差出人は──《ルーシー・ウェステンラ》


    ─────────

    『有角 幻也 様
    あなたに便りを差し上げるのも久方ぶりです。
    この手紙を記した日はあえてお知らせいたしません。いつあなたの元に届くのかわからないから。
    変わらずお元気でいらっしゃることと思います。
    エルゴス──組織は紆余曲折ありましたが、歴史の保全と魔導書の保持という目的は変わることなく、私は研究を続けることができました。それも全てヘルミーナさんのお陰です。デスの手による成り立ちと、鏡面呪法を可能にする魔導書の存在を考えると、組織は解体、魔導書も歴史書もまとめて破棄とされてもおかしくなかったところを。歴史から学ぶという目的は過ちではないと、組織の存続に手を尽くしてくださいました。また、私に研究を続けるようにと、続けられるようにと奔走してくださいました。
    私の研究は、ヘルミーナさんの研究を引き継いで一度実を結んでおります。そう…過去の英雄の再現です。あれは私の人生で最も素晴らしいことであったと今でも誇りに思います。
    ですが研究とは、達成してそれで終わりとはならないものです。次に成し遂げたい目標はいくつもありました。
    英雄目録の完成、
    アウローラの簡便化と平易化、
    魔導書の安全な管理方法の確立、
    歴史書であるグリモア・オブ・ソウルの公用化、などなど…
    全てを手掛けられるほど私は器用ではありませんし、有角さんが仰ったように、人の時間は有限です。成したいことを選ばなければなりません。
    だから私はひとつを選びました。
    それが私の最も成したいことであったからです。

    ─────────

    有角さんは、マリアさんの言葉を覚えていらっしゃるでしょうか?(大人のマリアさんの方です)
    1796年の当時、マリアさんに仰ったことがあるそうですね。もう二度と会うことはないだろうと。
    それなのに二度目があるなんて思わなかったと、マリアさんは有角さんに笑っていらっしゃいました。
    立ち聞きして申し訳ありません。
    それを聞いた私は、途方もなく嬉しかったんです。
    ジョナサンさんを待っていたシャーロットさんも、シャノアさんとアルバスさんも、リヒターさんとマリアちゃんも…シモンさんも蒼真さんも、私が憧れた皆さんに会えたことだけではありませんでした。

    おこがましい言い方になりますが、会いたい人を会わせてあげられたのだと。
    私にそれができたことが何よりも嬉しかった。
    世界を救うより前に、私は誰かの願いに応えたかったのだと気付きました。それがシモンさんの教えてくれた、私の勇気だったのです。

    だから、私はこれをあなたに託します。

    私の生涯を捧げた研究をどうか受け取ってください。
    あなたと、それを望んでくれた方のために。』

    ─────────


    「───……」
    有角は、数枚に渡る手紙から目を離し、壊れ物に触れるように包みを開いた。
    年月の経過を感じさせる包装が解け、現れたのは、一冊の本だ。


    ──英雄ラルフ・C・ベルモンドの目録。


    知らず息が詰まる。
    心臓が煩いなどと意識したのはいつ以来だろう。ふぅ、と深呼吸をして鼓動を落ち着け、ゆっくりと表紙を開く。
    ラルフについて、有角も知ることがそこには記されていた。
    努めて客観的に、できうる限り限定せず、人々の希望を担うべき存在であったラルフという男の生き様と誇りを綴った一冊の書物。
    (ああ………)
    溜息とともに感嘆が漏れる。
    懐かしいという表現では足りない、喪失感ともおそらく違う、胸の中の棘が古傷を突いたような郷愁に近い想い。自分を形作り、支えるものを思い起こすときの切なくもあたたかい感情。
    ルーシーの記したそれと自らの記憶が入り混じり、目を閉じれば姿形まで再現できる。今だけはと有角は伏せていた感傷にひたる。

    何という贈り物だろう。
    ラルフは確かに自分にとってかけがえのない、唯一の──大切な存在だった。
    彼の歴史がここにある。
    自分の側にいてくれる、これから先も。

    「ルーシー……感謝する」
    恐らくはもう会うことのできないであろう旧き仲間への感謝を口にし、本を閉じようとした時に。
    有角はそれに気付いた。
    ラルフの目録の最後のページに挟まれた、もう一枚の手紙だ。
    改めるまでもなく手紙と同じ筆跡で綴られている。

    ─────────

    かの方の伝言です。

    『俺を忘れるな』

    そう言えば伝わるだろうと。
    …そのとおりであれば、表紙の印に有角さんの魔力を注いでください。鍵はそれだけです。

    私自身のために、そしてあなたのために、あなたの幸福を願っています。

    ─────────



    ──手が震える。
    本と手紙を取り落とさないようにするので精一杯だった。
    優秀な魔術師の手で綴られた本はそれ自体が優れた魔道具だ。それが引き起こした奇跡を、有角はすでに経験している。

    色のない指が表紙を撫で、吸い寄せられるように手のひらで覆う。
    彼女の能力に疑いはなく、行動の結果は十分に理解できている。だからこそ、愚かかもしれないと思いながら抗うことなどできない。
    有角の魔力が流れ込むと、目録は目映いまでの光を発する。
    ドラキュラを封じたアウローラは闇を分解する光だった。それに似ていながら違う。これは再構築するための光だ。
    「──………」
    声も出せず立ち尽くす有角の目の前に、あの時の姿が再現された。


    「………アルカード?」


    具現化されたラルフの姿が口を開く。
    空の色をした瞳が有角を捉えてそう言い、そして、間髪入れず抱きすくめられた。
    「やっと俺を呼んだな」
    「…………、っ」
    疑いようなく、耳元にラルフの声が、髪が、肌が触れる。
    有角はまだ震えていた。
    幻ではない意思を持った存在である、ただひとりの大切な者が、三たび目の前にいる。

    「……………ラルフ………」

    やっと発した声まで震えていたのは、自分が泣いているからだとようやく気付いた。
    有角は泣きながら幾度も感嘆する。
    別れに慣れても、辛くない筈がない。
    孤独に慣れても、打ちのめされない訳ではない。
    ああ、本当に稀代の才女は何という贈り物をしてくれたのだろう。
    ルーシーは生涯をかけて、有角の魔力のみでの英雄召喚を可能にしたのだ。
    求め合う英雄たちの望みを叶えるために。

    魔導書本体ではなく有角に紐付けられた目録には、ルーシーが知る全てのラルフの記載がされている。
    つまり、再現されたのは15世紀のトランシルヴァニアだけではなく、グリモア・オブ・ソウルの事件を共に戦い抜いた記憶を持つラルフだ。これまでの知りうる全てを共有した、有角だけの。
    「……お前がここにいたら、魔導書の保持はどうなる?」
    「本の中の俺がいるんだろ?それにお前も。そのあたりの理屈は分からんが…それより事実はもっと単純だ。
    俺がここにいる理由は、お前が喚んだから。それを俺が望んだからだ」

    一度目はアルカードから、二度目は他の英雄らと共にラルフ自身が眠ることを選んだ。
    自らが世で果たす役割は済んだのだから。
    けれど本当は、たったひとりに必要とされたかった。たったひとりと己のために在りたかった。
    だから互いのために在ることを役割にした。
    三度目は、もう消える必要がないように。

    「──ただ、お前に会いたかった」

    それはどちらの台詞だったろうか。
    質量を持った腕が緩むことなく有角を抱き締め、細腕が痛いほどラルフの背を引き寄せる。

    「…永遠に近い時間だぞ…これからお前が歩まねばならないのは」
    「お前とふたりでだろう?そのために俺はここにいる」

    涙の跡が残る黒の瞳と白い頬をラルフの唇がなぞり、それは程なく同じものが重ねられた。
    黒曜に隠された白金の瞳をラルフは知っている。強く、美しく、永遠に変わることのできない孤独の象徴。
    自分が守りたいものはそれだ。
    夜空の月のような…いや、触れられもしないそんなものより、ここに確かにある大切な存在。


    「アルカード………俺は、どれだけ共にいても足りないほど、お前を愛している」


    独立した目録を元にアルカードの魔力で構築された体は、召喚主が滅びれば共に消える運命だ。目録がその手にある限りもはや離れることもない。

    ──世界の終わりまで共にあり、最期に眺めるのは、変わることのないこの腕の中の月なのだ。
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