勿忘草 1 ——これでいいんだ。問題ない。月島はこの数週間、何度も口の中で繰り返している。
「それはね、マリッジブルーってやつですよ、月島さん。男の人もなるんですよ。僕、業務柄何人も見てますからわかるんです」
総務部の江渡貝は、自分は未婚なのに何もかもを承知しているような物言いだ。入籍を控えて書類のやり取りがちょくちょくあるものだから、月島の顔が日に日にどんよりしてきていることに気がついたらしい。ファミリータイプの社宅に移る書類に不備があって呼び出されてしまったついでの指摘だ。こんな初歩的な記入ミスをするなんてとぷりぷり怒っている。いつもの『鬼の月島係長』だったらあり得ないと。
「マリッジブルーねえ……いや、俺はやっと結婚まで漕ぎ着けたと安堵しているとこなんだが」
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