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    dreamaya

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    dreamaya

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    ジャックとクロバ。アームゼイル襲撃事件の終わり。

    さよならの本当の理由ひとつの街を襲った、大きな事件だった。
    燃え上がる建物、瓦礫に埋もれる武器庫、どこからともなく漂う血と火薬の匂い。
    耳をつんざく爆発音に混じって、誰かの叫び声と断末魔の声が響き渡る。
    空は灰色の煙に覆われ、どこを見渡しても死と暴力の匂いしかしなかった。
    その混乱の最中、一人の少年が銃を手に取る。
    未熟ながらもその瞳はまっすぐで、折れそうにない強い意志を宿していた。
    「俺も戦える」と口にし、戦場に立とうとするその姿に、ジャックは歯を嚙み締めた。
    (……違う)
    俺は、こんなことをさせるために銃を教えたわけじゃない。
    ただ純粋に、興味を向けてくれたその気持ちに応えたかった。──それだけだった。
    だが、今のあいつには何を言っても無駄だった。駄目だと叫んでも、その手を放すことはないだろう。
    ふと気が付くと、クロバはジャックのそばを離れており、彼の狙っていた敵に向けて銃を構えていた。
    (俺だってやれる。ここでそれを証明してやるんだ)
    物陰に隠れて狙えばいいものを、その位置からでは敵を捉えられなかったのだろう。
    クロバは何のためらいもなく表に身をさらすと、敵に銃口を向けた。
    それと同時、ジャックの銃口がクロバを捉え、引き金を絞った。
    「うあっ!」
    乾いた銃声とともに、急所を外した弾丸がクロバの右脇を撃ち抜く。
    少年は呻き声をあげ、地面に倒れ込んだ。
    敵はその様子を見るなり、「なんだぁ? このガキは」と軽蔑混じりに吐き捨てる。
    しかしジャックはそれに構わず、即座に敵へ照準を合わせ直した。
    これで終わらせる。
    そう決めた、まさにその時。
    倒れていたはずのクロバの体が、僅かに動いた。
    血の気の引いた顔を上げ、再び銃を握りしめる。
    その指が震えながらも引き金にかかり、敵へと銃口を向けた。
    (……いかん)
    少年の瞳には、なおも消えない強情な光が宿っていた。
    クロバは撃った。敵の頭を、寸分違わず狙って。
    ジャックはその弾道に飛び込み、弾丸はジャックの肩口を掠めた。
    瞬時に熱い痛みが走り、血がぽたぽたと地面に落ちる。
    敵はその光景を見るなり、高らかに笑い声を上げた。
    「ははは! いい気味だなぁ!? よくわからねぇガキに撃たれてんじゃ──」
    言い切る前に、ジャックの放った弾丸が敵の脳天を撃ち抜いた。
    男は間抜けな顔のまま崩れ落ち、二度と動くことはなかった。
    ジャックは痛む肩に手を当てると、ゆっくりと振り返る。
    そこには、怯えたように目を見開いたクロバの姿があった。
    ジャックは低い声で告げる。
    「俺の狙いは、最初から一つも間違えていない」
    クロバの唇が震えた。
    「ジャ、ック……」
    それでも、その声に、ジャックの眼差しは揺らがない。
    氷のように冷たい視線が、クロバを深く射抜いた。
    「もう、二度と俺に関わるな」
    そう言うと、ポケットからグロック17を取り出し、銃口をクロバに向けて撃った。
    その銃に実弾は入っていない。ただのゴム弾だ。
    クロバの狙いは正確だった。
    もしジャックが飛び込まなければ、間違いなく敵の頭を撃ち抜いていただろう。
    だからこそ、この引き金の重みを、あいつに背負わせるわけにはいかなかった。
    ゴム弾を撃たれたクロバは意識を失う。
    ジャックはその体を抱き上げ、近くの建物の中へと運び入れると、使いかけのグロック17をクロバの傍にそっと置いた。
    もう振り返ることはなく、彼は静かにその場を去ってゆく。

    ああやって突き放せば、二度と自分を追ってくることはないだろう。
    最初から弟子になどしなければよかった。阿呆が。
    あの時、なぜ俺は──。なぜ、あの時──。
    ジャックには、親と呼べる存在がいなかった。
    生まれて間もなく母親を亡くし、離れて暮らしていた父も成人してすぐに他界。
    誰にも頼らず、孤独の中で才能を開花させ、大人になった。
    仕事ができて当然の環境のなか、褒められることもなければ、温かい言葉を受け取った記憶もない。
    美味い飯さえ食えれば、それでよかった。
    一方で、幼少期に両親を火事で亡くし、孤児院で育ってきたクロバ。
    その少年の姿は、自然と幼い頃の自分の姿と重なっていた。
    俺は──、それで──?
    思わず足を止める。完全に無意識だった。
    自分が親を知らないくせに、なぜそれができると思ったのか。なぜそうしようと思ったのか。
    『ジャック、俺も、お前みたいな凄いヒトになりたい。俺を、弟子にしてくれないか?』
    射撃場で暇を潰していた自分の腕を、目を輝かせて褒めてくれた少年。
    凄いと言い、俺みたいになりたいと言ってくれたクロバ。
    その言葉が、離れた今でも頭の奥にこびりついて離れない。
    「……っ、」
    その声は、もう二度と耳にすることはない。
    ジャックはクロバに、自分の意志で縁を切らせたのだ。
    だが、それでよかった。
    もう二度と、あいつを危険な目に遭わせたくない。
    不器用で、言葉にできない強い気持ちだけが、彼の心を突き動かしていた。

    Fin.
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