かわいいもの「師匠? 師匠、聞こえますか? ……どうなってるの」
「どうもこうも……」
ぼんやりとした意識の中に声が聞こえる。眠っていたのか、何やら妙に思考が鈍くて働かない。
「憑かれちまったみたいなんだがなあ……。何するでもなくこの通りだんまりでよ」
「いったい何でまた」
「わからん。依頼人は水子かもしれんと言ってたんだが……、それにしちゃあガキの気配じゃないんだよ」
「依頼の方はどうしたの」
「こいつに憑いちまったからか、あっちは霊障も治まったみたいでな。な〜んも感じなかったぞ」
「そう……。どうしよっか……」
お手上げ状態といった調子の声ともう一つの声が何か話しているのだが、いまいち内容が頭に入ってこない。状況が掴めないと言わんばかりの声の方は少し苛立った気配を見せていて、厄介事になる前にどうにかしようと顔を上げる。寝ていたからか、ずっと下を向いてたが、見慣れた床から慣れ親しんだ事務所にいるんだと分かった。
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