窓の外には下弦の月。
風に乗って広がる琴の音。
江澄は手元の盃を揺らした。
「出てこないな」
ビィン、と弦がはじかれる。
琴を弾くのは白梅という遊妓である。妓楼で三本の指に入るこの遊妓は、その名の通り真白い顔を江澄に向けた。盛り上げた髪を飾る豪奢な金と玉が、明かりを受けてきらきらと輝く。
「一晩ではいけないのかもしれませんね」
「面倒だな」
江澄はこの前に別の遊妓と時間を過ごした。それから、白梅の房室に入ったのだが、どうやらこれでは浮気者の判定にはならないらしい。
邪祟をおびき出すのに他の客は全員帰した。どうにか一晩で片付けようとした結果の策だったが、すでに一時以上何もなく過ごせている。
「御宗主は、何故あの子を抱かれなかったのですか」
2294