【曦澄】クリスマスまであと9日【腐向け】高校時代の友人とデパートを巡る江晩吟、
一応一般家庭よりも裕福層の生まれではあり親の仕送りで生活をしている。
義兄には高校に入ってからすぐにバイトの許可を出したにもかかわらず、江晩吟にはバイトをしていいという許可が出ていない。
藍家に家賃として渡そうとも思ったけれど、すでに月々の家賃と生活費は渡されていた。
よって、仕送りは勉強に必要なモノと自分の衣服などの雑貨に使うくらいでほとんど使っていない。
仕送りの金額は、高くはないが少なくもない。実家でバイトをすれば確実に月給で手に入るくらいの金額を渡されている。
とりあえず余った分は貯めてはいるため、そこそこの値段のするモノが買える。
まず友人と並んで見たのは、財布だった。
しかし、藍家の当主に見合った財布なんて展示されているような財布はない。
むしろ彼が使っている財布を見たが、使い込まれたブランド品であり気取らずにいて彼の手にしっくりと似合うモノだった。
「……財布は、ないな」
「藍さんには、別なモノ贈りましょう」
「うん……」
まだ一つ目だ。と、次に向かったのは腕時計の所だった。
自分の時計も壊れているし、逆に自分のが欲しいくらいだった。
「時計をプレゼントって」
「うん?」
「貴方の時間をくださいとか、私の時間をあげますって感じがしますよね。まるでプロポーズみたい」
友人の言葉に、手に取ろうとしていた時計から手をそっと引いた。
付き合っても居ない男からいきなり腕時計を渡されても、困るだろう。
それに彼の腕にはすでに、シルバーの腕時計が時を刻んでいる。
藍啓仁やほかの藍家の人達もしている時計の為、あれは藍家の者の証なのかもしれない。
「……はぁ」と、江晩吟がため息をついていると、にこにことした綺麗な女性の店員が近づいてきた。
「どうなされました?」
「……あ、えっと」
「年上の男性に送るクリスマスプレゼントって、どんな物がいいと思います?
間柄は普段お世話になってるお兄さんなんですけど」
友人が代わりに応えると店員は「どのようなお仕事をしておられますか?」と尋ねてきた。
どのような…と考えてみる。
家での仕事をよくしているようにも見えるが、かなり外出もしていてあちらこちらの人と会食だとか会議だとかをしているみたいだ。
江晩吟の父親とも会議をしている所を、見たことがある。
「えーっと…営業?接客?」
「あら、でしたらネクタイをお使いになられますね?」
「そうですね。白いネクタイを使ってます」
いつも出掛ける時は、白いスーツにネクタイをしている。藍色の糸が編み込まれているのか光の加減によっては白藍に見えた。
ネクタイのコーナーを案内されるが、ネクタイは決まっているのだ。
それを伝えれば、ネクタイピンはどうかと勧められた。
しかし腕時計と同じような理由が、頭をよぎってしまう。
江晩吟が迷っていると、店員も真剣に考えてくれた。
「まだクリスマスまで時間もありますので、ゆっくりお考えになってみては?
あ、もしくは手作りのプレゼントというのもお勧めしますよ」
店員は、楽し気に手芸コーナーを示した。
「手作り……」
「貴方は、手先は器用だから出来そうですよね」
「お前も一緒にやるなら考えなくもない」
「合コンのプレゼント交換に、手作りって……」
店員と友人と三人で、ははっと笑い合ってから何も買わずにデパートを後にした。
家に帰るころには、夕飯の時間より少しだけ前だった。
「もう勝手にせぇ!」と家政夫の声が、藍曦臣の部屋から聞こえる。
「ああ、江の坊ちゃんおかえりなさい」
「ただ今帰りました」
玄関で驚いて固まっているところを、何事もなかったように家政夫に出迎えられる。
「食事できとるから、手を洗ってきてくださいね」
「はい」
洗面所に促されて、手を洗ったりうがいをする。
ついでにはねていた髪を整えると、すぐにリビングに向かった。
そこには、食事が藍啓仁と江晩吟の食事しか並べられておらず首をかしげる。
「帰ったか」
「あ、先生、ただ今帰りました」
ぺこっと頭を下げると、難しい顔をしている藍啓仁が「うむ、お帰り」と言ってくれる。
決まった席に座ると、温かいご飯が横から差し出された。
「あの、曦臣さんは」
「曦臣なら、食欲がないっちゅーて部屋から出てこんのですわ」
「心配ですね」
「せやろ?だから、江の坊ちゃん後で見に行ったげてな」
そう言って、キッチンへと戻っていく。
食事をする時は、会話を禁止している藍家は静かな食事が行われる。
しかし春のように微笑む藍曦臣が居ない食卓は、どこか緊張してしまうのだ。
相変わらず食事は美味しくて、箸が進んだ。
レンコンの料理があると江晩吟は嬉しそうに食事をするために、色んなレパートリーで出してくれるようにもなった。
精進料理かよ!というくらいに、薬膳が多かった食卓であったためかレンコンも藍啓仁にすんなりと受け入れられた。
どうしても肉料理が食べたくなれば、江晩吟が作る時もある。江晩吟が聶家のバラ肉に、歓喜するのはその所為でもある。
食事を終えると、珍しく藍啓仁が食卓から立たなかった。
「……どこかに出かけていたのか?」
「はい、デパートでクリスマスプレゼントを物色してたんです。でも、これと言って見つからなくて……」
「そうか」
「それで店員が、手作りはどうかと勧めてくれて」
でも、どうすればいいのか解らないのだと告げれば、藍啓仁は自慢の髭を撫でた。
「悠瞬」
「はいはい、どないしました」
呼ばれた家政夫が、キッチンから顔を出す。
「たしかお前は、今年も編み物をするとか言っていたな」
「ええ、彼女さんにストールを上げようかと」
藍啓仁の言葉に、にこにこしながら楽しそうにうなづく。
「晩吟に教えてやってくれないか」
「へぇ、ええですけど……ぼっちゃん誰に上げるんです?今からだと、マフラー一枚くらいしか出来んと思いますけど」
「あ、えっと……その」
家政夫は、江晩吟が誰とクリスマスを過ごすのかは知っている。
けれど、はっきりと聞いてみたいのだ。
「……曦臣さんに…」
恥ずかしそうに小さな声でそう伝えると、弟でも見るかのような目で家政夫は頷いた。
「ええですよ。簡単なのを教えて差し上げます。でも、学業はおろそかにしたらあきませんよ」
「は、はい!」
「お前もだぞ、悠瞬。お前が大学の単位を落としたら、私が叔父になんといえばいいのか」
「ええですやん。ちゃんと、教師になれるように頑張っとりますから」
「え、悠瞬さんは教師になられるんですか?」
「せやよ。そしたら、先生とずーっと一緒に居られるもん」
幸せそうに告げる家政夫に、藍啓仁は大きく溜め息を吐いた。
藍啓仁としては、自分の様な教師になるのではなくて藍曦臣の秘書になって欲しいらしいのだが、
それは弟の藍忘機がすればいいと主張して、頑なに譲らないのだ。
「ぼっちゃんは?どうするん?」
「え……」
「親の後継ぐんも私みたいに自由にするんも、江のぼっちゃんの自由ですよ?」
家政夫としては、藍曦臣の傍にいてもらえると嬉しいのだが……それは藍啓仁の手前口に出さないで置いた。
「ぼっちゃんが選んだことなら、江社長も夫人も応援してくれますて」
「……」
そうだろうか?期待外れだと、かすかな興味すら消えてしまうのではないだろうか……。
口元を引くつかせて視線が下に落ちると、ふぅ…と藍啓仁が溜め息を吐いた。
「曦臣に、自分は同性愛者だと告げられた時」
「……」
「私はひどく落胆したし、何処で育て方を間違えたのだろうと悩みもした」
「……」
「けれど、その事以外は私の期待に応えてくれていた」
「……俺は、私は両親の期待に応えられていません。いつだって、父の期待は無羨で母からの期待は応えられない」
ぎゅっと膝の上でこぶしを作って話せば「晩吟」と声を掛けられた。
「曦臣がな、言ったのだ。
言わなければいいと思ってはいたけれど、自分の心に嘘はつけないし隠したままでは私を騙すから…と。
自分の心に寄り添ってみたらどうだ?」
「自分の心に?」
「我慢せず言葉にすれば、伝わる事もあるだろう」
藍啓仁は「お前たち家族は、本当に言葉が足らないからな」と、呆れたようにつぶやく。
親同士が同級生である為か、性質までも理解されてしまっている。
「親の期待なんてものは、私たちの身勝手な願いでもある」
「……」
「それに応えようとしてくれるのは嬉しいけれど、苦しませる事は望んでいないのだ。
だから、曦臣と忘機が生きやすいようにと受け入れる……努力は、まぁ…している」
受け止めきれてないんだな。と、思いながらも藍啓仁を見つめれば、そこには教師ではなくて親の顔をしている人がいた。
藍忘機と魏無羨が同棲すると行った時に吐血して救急車に運ばれた事もある為、
自慢の藍曦臣の事でもずっと考えていたのだろう。
「まずは、晩吟が何をしたいのかを考えて見なさい。それから、両親の言葉に耳を傾けるといい」
「はい」
こくりと頷けば、藍啓仁は椅子から立ち上がり書斎へと向かった。
「とりあえず、ぼっちゃんはお風呂に行っておいで、その後にマフラーを教えます」
「解りました」
元気なく立ちあがると、荷物を持って自分の部屋へと向かう。
途中で、藍曦臣の部屋の前を通る為に扉を軽く叩く。
「あの曦臣さん、食欲がないって聞いたんだが大丈夫か?」
声をかけると中から布がずれる音が聞こえてきて、もしや寝込むくらい辛いのか?と心配になる。
扉が開かれたが、驚いた。
そこにいるのが一瞬だけ藍忘機かと思うくらいに、笑顔も表情もない。
「曦臣さん?」
「……少し、疲れが出たみたいでね。寝れば治るから」
「……本当に?」
「うん、本当本当」
不安になり見上げれば、強張ったような笑顔を浮かべて頷く。
無理をしているのだな…と、思ってすぐに部屋に戻ろうとした。
しかし―――ぽとり。
二人の視線が、そちらを向いた。
四角い袋が三枚そこに落ちており、男ならばそれを見覚えがあるだろう。
突き返したはずのそれは、コートにいつの間にかしのばされていたらしい。
「……晩吟」
「ひっ!こ、これはその!!!違うんだ!!友人が無理やり」
「無理やり?」
「押し付けてきただけなんだ!!!」
そそくさとそれを拾い集めて、自分の部屋に逃げ込むように藍曦臣の部屋から離れた。
部屋に入ると押し付けられたコンドームを、ベットに叩きつけた。
「あ、あの野郎!!!」
メールで抗議文を送ったが、暖簾に腕押しのようにひらひらとかわされてしまった。
▽▲▽▲▽
取り残された藍曦臣は、気力で立っていた足から力が抜けてその場に倒れこんでしまう。
「え、あれ、コンドームだよね?え、友人ってコンドームを渡したりするような事するのか?」
自分が俗世に疎い事は十分に承知しているし、聶懐桑が男友達にエロ本を貸し借りしているのも知っている。
けれど、コンドームを渡したりするのだろうか?
少なくとも藍曦臣と金光瑶と聶明玦はしたことが無い。
「いや、でも、晩吟はヘテロのはずだし……」
幼い頃から江晩吟を知っているが、彼が男を好きになったと言うのを聞いたことがない。いや、普通聞かないけれど……。
それでも大学に入ってから三人の彼女ができたとも聞いたし、大学で女性と腕を組んで歩いているのを藍曦臣も見たことがある。
それで諦めていたならよかったのに、すぐに振られたとしると嬉しくなった。
部屋の入口でうずくまっていると「あっぶない」と声が降りかかる。
「……なんや、閉関は終わりですん」
「悠瞬」
「なんで、祖内に泣きそうな顔しとりますのん。まるで、忘機やわぁ」
助けを求めるように家政夫を見上げると、苦笑される。
手に持っていた軽食を手渡されて、部屋に二人で入った。
「食べれるようになったら、食べたらええ」
「……ありがとう」
「それよりも、なんぞあったん?」
藍曦臣をベットに座らせて、家政夫は椅子を持ってきて座った。
どうやら話すまで部屋から、出てくれないらしい。
さっきは勝手にしろと言って、出て行ったのに……。
「……実は、帰り道で―――…」
藍曦臣は、先ほどの帰り道で江晩吟と男と喫茶店に居たのを見た事を話した。
そのじゃれ合い方や笑い方が、自分が知っているモノと違うために嫉妬したのだと。
すると、腕を組んで聞いていた家政夫は、すっと指を前に出してきたかと思うと思いっきり人差し指をはじいて藍曦臣の額に衝撃を与える。
「あっほか!!!」
「なにするんだ」
「男友達とじゃれ合う度に嫉妬しとったら、私なんぞあんさんに殺されるわ!」
そこそこの痛みだった為に額を押さえて、彼を見る。
「何かあるの?」
「風呂あがったら、マフラーの編み方を教えるって約束があります」
「……そう」
そのマフラーは、きっと彼の友人に渡されるんだろうな……。視線が泳いでから、下に向かう。
その為か、家政夫の顔に思いっきり『面倒くさい』と書かれている事に気づけないでいた。
「ともかく、男同士の友達ならふざけてコンドームを押し付け合う事なんてあることやわ」
「私はした事ないよ」
「そないな状態になったら、私か先生があの二人の所に乗り込むわ」
うちのに何してくれてる…と、乗り込んで正座をさせて説教だ。
「魏のぼっちゃん見てたら、そういうおふざけをする事があるのも解る事やろ?」
「……」
「そこまで頭が回らんの?」
「……」
過保護に育て過ぎたか?と、一緒に育ったはずの男に対して思う。
しかし、嫉妬して頭に血がのぼってなにも考えられなくなったのだろう。
そもそもコンドームを渡されるって事は、なにかしら江晩吟は友人に話をしているわけだ。
「……もしかして、曦臣兄ちゃんの知り合いかもしれんよ?」
「え」
それなら、江晩吟が相談する相手に心当たりがないわけではない。
「詳しい事は解らんけど、多分…幼馴染やろな」
「なんで知ってるの?」
「ぼっちゃん預かる身としては、いろいろとあるんですわ」
話し込んでいたらしく、江晩吟が風呂から出てきて廊下を歩いている足音が聞こえた。
「それじゃあ、私はこれで」
「あ、うん……」
「食べれるようなら、食べてくださいね」
念を押されて出ていく彼を見送り、藍曦臣はベットに仰向けになるように倒れこむ。
「……このまま眠ってしまおうか」
でも食べなければ、心配をかけるだろう。
はぁ……とため息を吐いて、再び起き上がる。簡単に食べられるようなサンドイッチだ。
「どうしようか……」