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    sgm

    @sgm_md
    相模。思いついたネタ書き散らかし。
    ネタバレに配慮はしてません。
    シブ:https://www.pixiv.net/users/3264629
    マシュマロ:https://marshmallow-qa.com/sgm_md

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    sgm

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    曦澄ワンドロお題「看病」
    Twitterにあげていた微修正版。
    内容に変わりません。

    #曦澄
    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation

     手足が泥に埋まってしまったかのように身体が重く、意識が朦朧としている中、ひやりとした感覚が額に当てられる。藍曦臣はゆっくりと重い瞼を開いた。目の奥は熱く、視界が酷くぼやけ、思考が停滞する。体調を崩し、熱を出すなどいつぶりだろうか。金丹を錬成してからは体調を崩すことなどなかった。それ故にか十数年ぶりに出た熱に酷く体力と気力を奪われ、立つこともできずに床について早三日になる。
    「起こしたか?」
     いるはずのない相手の声が耳に届き、藍曦臣は身体を起こそうとした。だが、身体を起こすことが出来ず、顔だけを小さく動かした。藍曦臣の横たわる牀榻に江澄が腰掛け、藍曦臣の額に手を当てている。
    「阿、澄……?」
     なぜここにいるのだろうか。藍家宗主が体調を崩しているなど、吹聴する門弟はいないはずで、他家の宗主が雲深不知処に来る約束などもなかったはずだ。仮にあったとしても不在として叔父や弟が対応するはずだ。当然江澄が訪れる約束もない。
    「たまたま昨夜この近くで夜狩があってな。せっかくだから寄ったんだ。そしたら貴方が熱を出しているというから」
     目を細め、伸びて来た江澄の指が額に置かれた布に触れる。藍曦臣の汗を拭いている。冷たい手が額に触れてきて、心地が良い。ほう、と吐息をこぼした。
    「珍しいな。あなたが熱を出すなど。起きて茶を飲めるか? 水分は取ったほうがいい」
     藍曦臣の前髪を横に分けながら、江澄が問いかけてくる。普段の何十倍も声音が優しい。藍曦臣は小さく頭を振った。身体を自力では起こせそうにない。江澄に支えてもらうのも悪い気がした。
    「そうか。ちょっと待っていろ」
     江澄の姿が視界から消え、カチャカチャと何か音が聞こえる。耳がふさがれているかのようで、はっきりと音を聞き取り何の音か判別できなかった。
    「少しずつでいい。ゆっくり」
     視界に戻って来た江澄の手には、茶杯と小さなレンゲが握られていた。そのレンゲがそっと口元に運ばれる。中には数滴ほどの茶しか入っていなかったのか、零れることはなく藍曦臣の唇を濡らした。レンゲで茶を運ばれる既視感に、藍曦臣はぼんやりと己を覗き込む江澄の顔を眺めた。まったく似ていないのに、亡き母親の面影と重なる。
     藍曦臣の記憶の中には熱を出した時のことが二度ある。そのうち一度目は、看病してくれたのは生前の母だった。二度目はすでに母はいなかった。
     熱を出し、月に一度しか会えぬ母と会えたことが嬉しかった。数時間しかそばに一緒にいることができない母がずっとそばにいてくれることが嬉しかった。藍忘機が生まれる前は自分が母を独占していたのだから、と母との語らいは藍忘機に譲っていた。だって、自分は兄なのだから。けれど、その日は母を独占することが出来て嬉しかった。目の奥が酷く熱くなりジワリと涙が浮かぶ。瞼を閉じるとはらはらと目尻から涙がこぼれた。そっとその涙を掬われる。
    「大丈夫だ。すぐに良くなる。もうひと眠りして、起きたら少し粥を食って、薬湯を飲もう」
     慣れた手つきで頭を撫でられる。幼い時の金凌を看病していたのは江澄だと聞くから、看病には慣れているのかもしれない。
     言わなければいけない。
     あなたに病が移ると困るから、寒室から出ていてください、と。
     忙しい身なのだから、雲夢に帰って身体を休めてください、と。
     それなのに、口から出た言葉は逆だった。
    「そばに、いて……」
     母がそうしてくれたように。
     目が覚めた時、誰もいないのは寂しいのだ。
     熱に気力も体力も全てを奪われた身体を無理やり起こし、自分の力で薬湯に手を伸ばし、震えながら飲むのは悲しいのだ。
     心配はない大丈夫だと虚勢を張るのは苦しいのだ。
     寒い寒いと震える身体を抱きしめ、掛け布の中で一人小さく丸まって自分の思い通りにいかぬ身体に涙するのはとても怖いのだ。
     はらはらと瞬きをしなくても涙がこぼれる。平常時であれば、誰かの前で涙を見せることなどない。江澄の前では年上の矜持のようなものが働いて、決して泣くことなどなかった。それが、高々熱のせいで簡単に涙がこぼれてくる。そう思うと、情けなさでさらに涙がこぼれそうになった。
    「あぁ、あなたのそばにいる。あなたが寝ている間はあちらで書などを読んでいる。だから、安心して寝ていろ」
     涙をぬぐわれ頬を撫でられ、頭を撫でられる。そして眠るようにと、瞼をそっと手のひらで降ろされた。それに藍曦臣は素直に従う。
     「そばにいる」
     その一言だけで、寂しさも悲しさも怖さも霧散した気がした。泣いたせいか熱のせいか、すぐに眠気に襲われる。
    「いい子だな。阿渙」
     うとうとと意識を手放す寸前で聞こえた江澄の言葉に、母が亡くなって以降初めて聞く「阿渙」の響きに、目尻からまた一筋涙が零れた。
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    sgm

    DONE去年の交流会でP4P予定してるよーなんて言ってて全然終わってなかったなれそめ曦澄。
    Pixivにも上げてる前半部分です。
    後半は此方:https://poipiku.com/1863633/6085288.html
    読みにくければシブでもどうぞ。
    https://www.pixiv.net/novel/series/7892519
    追憶相相 前編

    「何をぼんやりしていたんだ!」
     じくじくと痛む左腕を抑えながら藍曦臣はまるで他人事かのように自分の胸倉を掴む男の顔を見つめた。
     眉間に深く皺を刻み、元来杏仁型をしているはずの瞳が鋭く尖り藍曦臣をきつく睨みつけてくる。毛を逆立てて怒る様がまるで猫のようだと思ってしまった。
     怒気を隠しもせずあからさまに自分を睨みつけてくる人間は今までにいただろうかと頭の片隅で考える。あの日、あの時、あの場所で、自らの手で命を奪った金光瑶でさえこんなにも怒りをぶつけてくることはなかった。
     胸倉を掴んでいる右手の人差し指にはめられた紫色の指輪が持ち主の怒気に呼応するかのようにパチパチと小さな閃光を走らせる。美しい光に思わず目を奪われていると、舌打ちの音とともに胸倉を乱暴に解放された。勢いに従い二歩ほど下がり、よろよろとそのまま後ろにあった牀榻に腰掛ける。今にも崩れそうな古びた牀榻はギシリと大きな悲鳴を上げた。
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    sgm

    DONE江澄誕としてTwitterに上げていた江澄誕生日おめでとう話
    江澄誕 2021 藍曦臣が蓮花塢の岬に降り立つと蓮花塢周辺は祭りかのように賑わっていた。
     常日頃から活気に溢れ賑やかな場所ではあるのだが、至るところに店が出され山査子飴に飴細工。湯気を出す饅頭に甘豆羹。藍曦臣が食べたことのない物を売っている店もある。一体何の祝い事なのだろうか。今日訪ねると連絡を入れた時、江澄からは特に何も言われていない。忙しくないと良いのだけれどと思いながら周囲の景色を楽しみつつゆっくりと蓮花塢へと歩みを進めた。
     商人の一団が江氏への売り込みのためにか荷台に荷を積んだ馬車を曳いて大門を通っていくのが目に見えた。商人以外にも住民たちだろうか。何やら荷物を手に抱えて大門を通っていく。さらに藍曦臣の横を両手に花や果物を抱えた子どもたちと野菜が入った籠を口に銜えた犬が通りすぎて、やはり大門へと吸い込まれていった。きゃっきゃと随分楽しげな様子だ。駆けていく子どもたちの背を見送りながら彼らに続いてゆっくりと藍曦臣も大門を通った。大門の先、修練場には長蛇の列が出来ていた。先ほどの子どもたちもその列の最後尾に並んでいる。皆が皆、手に何かを抱えていた。列の先には江澄の姿が見える。江澄に手にしていたものを渡し一言二言会話をしてその場を立ち去るようだった。江澄は受け取った物を後ろに控えた門弟に渡し、門弟の隣に立っている主管は何やら帳簿を付けていた。
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