「キスが、できないの」
姉 禰󠄀豆子の神妙な面持ちは茶化せない深刻さがあった。妹としては「やっぱりな」という気持ちでいっぱいになる。
コップに注いだソーダの気泡がぷちぷちと弾けている。夕方のリビングには私たち姉妹だけ。
「手も繋げないんでしょ?」
なんでわかるのとも言いたげなお姉ちゃんの顔を思わずじっとりした目で見てしまう。
断りきれなくて付き合い出した彼氏だ。シュッとしていて爽やかな見た目とは裏腹に、お姉ちゃんが「うん」と言うまで引かなかったしつこいヤツ。
こうなることは初めからわかっていた。お姉ちゃんの好きなタイプとは違う。そもそもお姉ちゃんにはずっと好きな相手がいるのだ。なのに本人がそれに気づかないままだからこんなことになる。その人の話題になるたびにソワソワフワフワしているのに、気づいていないのは本人だけ。
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