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    フスキ

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    フスキ

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    すいくんが背が高い身長差水麿、お題箱にいただいていたお題から!本当にありがとうございました!!
    全年齢、肥前くんと南海先生出てきます。師弟が書けてたのしかったです…!

    #水麿
    mizumaro

    (身長差水麿)せのたかいぼくはちがうからこそ「僕の水心子も同じくらいの背丈だったら、同じ視界だったのかな」
     演練場の柱の影、胸がぎゅうっと締まった。己の番の清麿が、他本丸の源清麿に話す声。
     知らない声音だった。どこか遠くを見るような。まるでその声の通りに手の届かないところへ行ってしまいそうで、水心子は胸を押さえた。
     もしどこかへ行きたいと言っても、自分には止める権利なんてない。

     まるで今初めて見つけたような演技をして、二人の清麿の前に歩み出た。
    「清麿、探した」
    「ああ、ごめん、水心子」
     お手洗いの場所を見失って案内してもらっていて、と駆け寄ってくる清麿は、いつも通りだ。見上げてくる大きな瞳が愛しいのに切なくて、ついその頬に触れてしまう。
    「……水心子、なのかい? 彼も」
     番が今まで話していた源清麿が目を丸くしてこちらを見る。どうやら初対面の個体だったらしい。バグ由来で背の高い自分は、一般的な水心子正秀とは明らかに違うだろう。この源清麿が不思議がるのも当たり前だった。
    「そう、僕の水心子正秀」
     清麿が、上腕に腕を絡め抱きついてくる。見下ろせば、彼の同位体に向けて得意げに笑う表情。
    「格好いいだろう? 僕の自慢なんだよ」
     胸が疼くのはどうしたって避けられないことだ。清麿の口癖のようなこの言い回しはいつも面映ゆくて、けれど先程の会話を聞いていた今は嬉しいばかりでいられなくて。
     自慢、という言葉に嘘はないと知っているのに、本当にそれでいいの、と聞きたくなってしまう。

     欲深さが過ぎるのかもしれない。愛されている自覚はあるのに、足りない足りないと喚いてしまう。こんなのはただの子供だ。新々刀の祖として、どころか、この美しい彼の番としてふさわしいものですらない。
     階段を上る清麿の背を追いかける。華奢な背中だ。伸びている脚も、外套から覗く手もどこもかしこも細く小さく映って、妙な焦燥に駆られてしまう。
     ――抱き締めて放したくない、なんて。
     ふいに、清麿が立ち止まりくるりとこちらを向いた。驚いてこちらも上る足を止めると、彼の手に制帽を奪われた。
    「きよまろ、?」
     疑問符に語尾を跳ね上げる前に、彼に唇を触れ合わせられる。
     見開いた視界、一段高い位置にいる清麿が笑った。
    「あはは。……このくらいで、同じ背丈だね」
     言われて気づく。見下ろさずとも同じ高さにある彼の顔。あ、と声を漏らすと、清麿は笑みを深くした。
    「聞いていただろう、水心子」
     さっきの。
     いつのことを言われているのかは明白で、水心子は息を飲んだ。本当は会話を立ち聞きしていたこと、ばれていたらしい。
    「……僕、本当に演技が下手なんだな」
    「ううん、違うよ。僕が分かってしまっていただけ。水心子が近くにいるなって」
     そう言って彼が、奪った水心子の制帽を抱える。大事そうに、手袋越しに撫でながら。
     堪らない気持ちになって、彼の腰に片腕を回した。その視線が持ち上がる。
    「……同じ景色が見たかった」
     呟くのは水心子のほうだった。同じくらいの背丈になりたかった。よその同位体は好ましいもののように言ってくれるけれど、この体格でマイナスだったこともたくさんある。水心子からしたら平均的な同位体たちのほうが羨ましかった。覗き込まなくとも清麿の顔が見えて、近い位置で笑えて。
    「そう思ってたから、清麿が話してたの聞いて……そうだよな、って。同じ世界が見られたら、僕ら、もっと」
     言葉を遮るように、唇に啄み。声を止めれば清麿が微笑んだ。
     階段に人の気配はない。
    「同じ世界なら、見ているよ。僕らが違う世界を見ていたことなんてない。見えている景色の在り方が、少し違うだけ」
    「……で、も」
    「ごめんね、あんな話していたから、不安にさせてしまったんだよね。……でも僕は、この見え方の違いが好きなんだ、とてもね」
     彼の右手が肩に添えられる。
    「僕が下から見て、君が上から見る。そうしたらより広く多くのものが見えるだろう? 同じ視点からだけでは見えないものが絶対に見えているよ。同じ視界だって素敵だけれど、なにせ僕は君が大好きだから」
     ――だから、違う視界だって愛おしい他に何もないんだ。
    「……清麿」
    「ねえ、きっととても特別なことだよ。普通と違っていても僕ら親友のまま変わらなくて、そこから恋人にもなれた。もっと仲が深まったんだよ、すごいんだよ、僕ら!」
     話す笑顔に一分の曇りもない。まるで無邪気に君は笑う。
     涙さえ浮かびそうになる水心子を、彼は抱き締めてくれた。肩口に額が当たる。
    「それでも同じ視点がいいなと思ったら、簡単なことさ。僕が一段高いところに上るよ。たったそれだけだよ」
     何も難しいことなんてないのだと、清麿は髪を梳いてくれる。
    「……どこにも行かない?」
     問いかけると彼は、行くよ、と返した。
    「水心子と一緒にね」

     君は僕の救い方を知っている。どうしたら僕が生きられるかを知っている。
     本当だ、特別にもほどがある。僕ら、がすごいんじゃなくて、すごいのは、君が――。

     階段を一段上がる。同じ段に立った清麿の背が低くなる。微笑んで、抱き締めた。彼の制帽が落ちる。
    「……うん、……僕も、この高さが好きだな」
     ふふっと彼が笑って、抱き返してくれる。触れ合う外套も防具も邪魔だけれど、なんだかそれすら今は愛しいというかどうでもいいというか。
    「水心子、大好きだよ」
    「うん、」
     僕も、という言葉を、舌を直接触れ合わせて伝える。

     遅れて仲間たちの元に戻ると、肥前が激高していた。
    「おっせえ! どうせ乳繰り合ってたんだろうがな、先生が自分もどっか行きてえって騒いで大変だったんだぞ!」
    「肥前くん、僕そんなに騒いでいないよ」
    「駄々こねてただろうが……! お前師匠だろ、無駄に体格いいんだからちゃんと言って聞かせろよ」
     おれの言うことは聞きゃしねえんだよ、と疲れ切った声が漏らされて、さすがに申し訳なくなる。朝尊に向き合うと、彼はびくっと肩を跳ねさせた。
    「朝尊」
    「なんだい」
    「目を合わせなさい。どうして貴方は仲間に迷惑をかけるんだ」
    「お師匠様だって清麿くんとお楽しみで遅れたじゃないか、僕だって演練システムの解析を」
    「朝尊!」
     見下ろし目を覗き込むと、その弟子はふてくされた顔になった。
    「……すみません」
     背後で清麿が吹き出す。肥前も口元を押さえて顔を背けていて、水心子もつられて笑ってしまった。
    「笑ったということは許してくれたということかね? では早速」
    「待てどこへ行く」
    「演練システムの」
    「馬鹿か貴方は!」
     どこまでもマイペースに事を進めようとする弟子の首根っこを引っ掴んで止めると、清麿が笑いながら寄ってきた。朝尊の前に歩み出て、ねえ、と彼に声をかける。
    「南海先生、僕も君みたいに水心子に構われたいんだよ……ご教授願えないかな」
    「ん? きよまろ?」
    「ああ、それなら一緒にあちらで作戦を練ろうか」
    「演練だっつーんだよ!」
     肥前が爆発する。粗暴な振りをするけれど、まったく真面目な刀だ。
     水心子は清麿の腕を引いた。
    「清麿。不満があるなら僕に直接言って、そんな相手に教わろうとしないでいいから。君が特別なのが当たり前なんだから」
    「ふふ、うん、そうだね」
     こちらを向いた清麿が、胴にぎゅうっとしがみついてくる。他本丸の部隊からの視線を感じながら、しかし知らんぷりしてこちらからも腕を回した。
     彼が腕の中、嬉しそうに破顔して、胸に耳を預けて。
    「……心臓の音がする。やっぱり僕、背の高い君が好きだな」
     ――きっと低くたって好きになってしまうけれど、この君が、僕の水心子だから。

    「……そうだな」
     場内に呼び出しがかかる。本丸の番号が呼ばれ、肥前に背を叩かれた。
    「いちゃついてねえで行くぞ! 最近負け続きなんだからな、働けよ、新々刀!」
    「はーい」
     軽やかに歩み出す清麿が、微笑んで手を引いてくれる。華奢な手を握り返した。
    「ああ!」
     進むそばから聞こえてくる、『あれ水心子正秀?』『バグ個体?』という囁きと視線たち。以前はずっと気になっていた。けれど今は胸を張って、そうだよバグ個体の水心子正秀だ、と名乗りたい気持ちでいられる。
     そこに自信をくれたのは、確かにこの手を繋ぐ番。
     違う視界を愛してくれた。だったら僕は全力でそれに応えよう。この高い視界で君を助けよう。
     始まった演練、清麿の死角の高所から降ってきた刃を刀で弾くと、清麿が血の気の多い声で笑った。
    「ありがとう水心子、愛してるよ!」
     そうしてすぐに駆け出し、水心子が攻撃を弾いた相手の懐に飛び込んで斬りつけ、一撃で戦闘不能に追い込んだ清麿がこちらを振り返る。
     まるで戦場の天使だな。笑顔のうつくしさはまるで場違いで、しかしそれが嬉しくて誇らしくて堪らない。
     端のほうで苦戦している朝尊のところへ二人駆けて行く。一瞬ふと視線が合って、それだけで心にも身体にも力がみなぎるのだ。

     ――そう、この背の高い身こそが、彼に愛された僕という僥倖の『水心子正秀』。
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    フスキ

    DONEまろくんが天使だったパロの水麿、すいくん風邪っぴき編です。
    ひとは弱くそして強い(水麿天使パロ) 僕の天使。嘘でも誇張でもない、僕のために人間になった、僕だけの天使。
     水心子は、ほとんど使っていなかった二階の部屋に籠もり、布団をかぶって丸まっている。鼻の詰まった呼吸音がピスー、ピスーと響くことが、いやに間抜けで、布団を喉元まで引き上げた。
    「……水心子」
     僕だけの天使、が、ドアの向こうから悲しげに呼びかける。
    「入らせて。ね、顔が見たいよ」
     清麿は、心細くて堪らないような声でそう言った。ぐっと息を詰める。顔が見たい、のは、こちらだってそうだ。心細くて堪らないのだって。けれど、ドアを開けるわけにはいかない。
     水心子は風邪を引いてしまった。もとより人である水心子は、きちんと病院に行き診察を受け、薬を飲んで今ここで寝ていられる。けれど、一緒に暮らす清麿は、元が天使だ。医療を受ける枠組みの中にいない。もし彼に移してしまって、悪化してしまっても、水心子には術がない。天使だったのが人になった身なのだ。病院で診られて、もしどこかに普通の人とは違う部分があって、それが発端となり彼を失うことにでもなったら。
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