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    フスキ

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    フスキ

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    水麿、薬研くんとまろくんの小説です。とあるきっかけから手入れ部屋のお手伝いをするようになったまろくんと見守るすいくんのお話。※重傷描写あります

    #水麿
    mizumaro

    (水麿と薬研)白衣の天使 己の親友は優しい。審神者の命により手入れ部屋で手伝いをするようになってから、彼は本丸内で白衣の天使なんて呼ばれるようになった。
     その呼称を親友、清麿はただの大袈裟なからかいだと一笑するけれど、なにも大袈裟なこともからかいもないと水心子は思う。清潔で慈愛に満ちた存在だ。

    「へえ、薬研殿が出陣」
     座卓の斜め横に座った清麿が、うん、と微笑んだ。
    「最近ずっと手入れ部屋にこもりきりだったけれど、戦育ちの刀だからね。やっと戦場に出られるって、それはもう喜んでいて」
    「それじゃ明日、手入れ部屋はどうするんだ?」
    「うん……それなんだけれど」
     どこか面映ゆそうに、彼が頬を掻く。
    「明日は、僕が管理者代理をするんだ」
     水心子は目を見開いた。手入れ部屋の管理者といえば、この本丸では薬研がずっと一人で勤め続けてきた重要な役職だ。そこに清麿が、代理とはいえ立つことになるなんて。
    「……すごいじゃないか! さすが清麿だ、もうそこまで信頼を得たってことだよね! 我が主も安心したから任せられるって思ったんだよ!」
    「あはは、そうなのかな……まあ薬研の元で学ばせてもらって、もう自ら破壊を選ぼうなんて思わなくはなったけれど」
     嬉しそうな声音、嬉しい話。なのに水心子の心は彼が想起した過去にぞっとしてしまう。
     自ら破壊を選ぼうとした。それが審神者が清麿に手入れ部屋の手伝いを命じた理由だった。

     練度が半ばを過ぎた頃だった。戦で、部隊長だった清麿は劣勢を立て直すための策として、自身が囮になる戦法を取った。
     あの時の部隊には同程度の練度の者しかおらず、誰も部隊長の方針に逆らえなかった。編成されていた水心子はそれでも反対したけれど、清麿の決意のこもった瞳に飲み込まれた。
    『全滅よりはましだ。……刀一振りの存在より、歴史の流れのほうがずっと大事なのだから』
     止めきれなかったことを今でも後悔している。彼は単騎で敵の中心に躍り出て、水心子たちに敵の隙を作るために引きつけ、結果胴を切り裂かれた。
     終わってみれば重傷まで負ったのは清麿ただ一人だった。戦果としては決して悪いものではなかった。それは清麿からしてみれば満足のいく結果だったようだが、薬研がそんな清麿の手入れの終わった頬を殴り飛ばした。
     あんなに怒った薬研を初めて見た。いつも堂々余裕を持って背筋を伸ばしている男が、心底の怒りとやるせなさで息を荒らげていた。
     呆然とする清麿の胸倉を掴み上げて、馬鹿野郎、と彼は吐き捨てた。
    『俺たちは治すのが役割だ。大将が何故資材も霊力も惜しまず手入れをするか分かるか? 治したいからだ。仲間の命が大事だからだ。失いたくないからだ。……それでも治せる傷には限度がある。今回は運よく帰りつけたからいい、だが、肉体がもたなかったら、戦地で折れたら……俺たちには何もできないんだ。生きようと思っててくれなきゃ生かせねえんだ。それがどれだけ虚しいか分かるか? お前が、どれだけ治す側のことを冒涜したか、分かってるのか!』
     空気がびりびりと振動するような声だった。清麿はひどくショックを受けた顔をして、黙り込んだ。
     その時に審神者が命じた。清麿に、手入れ部屋を手伝えと。それを内番とすると。今まで交代で手伝いをすることはあったが、専属での助手は本丸史上初めてだった。それでも命じられた。
    『命の大切さを学びなさい。薬研くん自身では手入れはできない。それでもあそこで関わることが、どういうことか……どれだけの重みのあることなのか。……それを学んだら、まろくんはきっともっと強くなれるよ』

    「今の清麿なら、大丈夫だよ」
     勇気づけたい気持ちはもちろんある。けれど本心からの言葉だった。彼の手を握ってそう伝えた。
    「いろんなことを考えてきただろう。勉強もした、たくさん努力した。君なら大丈夫だ……僕も、明日手伝いに行っていい?」
    「え、そんな、せっかくの非番なのに」
    「せっかくの非番だからだよ! せっかくなら、清麿のそばに」
     そこまで言って、あれなんだか恥ずかしいことを言ってるな、と気づいて咳払いをした。
    「ともかく。できることがあるならさせて、君の力になりたい」
     彼の頬がほわっと染まる。そうして穏やかに微笑んで、彼はうんと頷いた。

     明け方に薬研は出陣していった。時間遡行軍のほうに大きな動きがあるのを察した審神者の指示で。本丸最強と呼ばれる彼が出なければならない場面だというのは喜ばしい事態ではなかったが、本人は嬉しそうにしていた。血が逸るのだろう、何度も手を結び開くのを繰り返して。
    『清麿の旦那、頼んだ。仲間の命がかかってるぞ』
     清麿は神妙に頷いていた。横に立っていた水心子にも薬研は視線を向けてくれて、よろしくなと言い残した。
    「さて、とりあえず薬品の整理をしたいんだ。負傷者が出ないうちはここは役割がないから……それに越したことはないけれど」
    「分かった、手伝うよ。何をしたらいい?」
    「あの箱に湿布薬があるのだけれど、あれを棚に運んで……」
     すっかり手入れ部屋の管理側になった清麿が、白衣姿で動き回る。長い裾が時折翻るのを水心子は微笑ましく見ていた。
     指示に従って薬品の整理をしているうちに昼になった。食事も手入れ部屋でするというので、ならお膳もらってくるよと言いかけた時だった。
     ブザーが鳴った。それは審神者部屋から直通の、手入れが必要なものが出たという知らせだった。
    「来たか……」
     清麿が苦々しく呟いて、白衣の襟を正す。部屋のドアを開けると、もう角を曲がって一期が抱えた誰かを運び込もうと駆けてきていた。
     小さい刀だ。一瞬誰か分からなかった。頭にも布が巻かれていたから。
    「重傷です! やげ」
     水心子はその時清麿を見ていた。
     彼の顔から表情が滑り落ち、さっと白くなるのが見えた。
    「薬研が!」
     一期は半泣きだった。彼自身も荒い呼吸をしている。よく見ればその腕には浅い裂傷が刻まれていた。彼も軽傷以上の状態だ。
    「──中、へ! 主も今来るよ、一期一振、安心して」
     清麿が震える声を懸命に張った。そして一期が薬研を担ぎ込んだのと別の入口から審神者が飛び込んでくる。診察台に横たえた薬研の状態を見て、誰もが息を飲んだ。
     何の知識もない水心子でも、重傷以外の何物でもないと分かる傷。彼の息は微かで、まるでいつもの薬研藤四郎ではなかった。
    「まろくん、札を使うよ」
     両方持ってきて、と審神者が声をかける。努めて冷静で在ろうとする目。はっとした清麿が依頼札と手伝い札の両方を持ってくる。必要な資材は水心子も手伝って出した。
    「絶対大丈夫だからね、一期くん」
    「主」
    「必ず助けられるから!」
     そこからは、できることがあるのは審神者だけなのだった。主が札を介して霊力を送り傷が少しずつ癒えていくのを、清麿は唇を噛み締めて見ていた。

     薬研の肉体は完治した。ただ受けた傷の重さのせいで意識がすぐには浮上しないのだと聞かされた。小さな身体にはショックが大きいのだと審神者は苦い顔をした。
     一期は軽傷だったが太刀ゆえに手入れに時間がかかる。札を使うか清麿が聞くと、一期自身が首を振った。
    「どうせ、兄として弟が起きるのを待たねばなりませんから。……このままここにおります」
     そうして案じる眼差しを薬研に向ける。審神者も頷いた。
    「……すいくん」
     その審神者がそっと声をかけてくる。何を言いたいのかは分かっていた。頷いて、棒立ちの清麿に呼びかける。名前を呼ばれ振り向く彼の瞳が、くすんだ色をしていたから。
    「……清麿、ちょっと、休みにいかないか」
    「……でも」
    「休むことも大事だ。ここには我が主たちがいる。清麿、……な?」
     微笑みかけると、彼は首筋を軋ませるように頷いた。
     隣の部屋へ入る。そこはいつもなら薬研が寝起きしている場所だった。自室は別にあるのだが、彼は手入れ部屋の傍にいることを好むのでもっぱらここで生活していた。部屋の隅に畳まれた布団があり、そこには『いつもの薬研』の気配が色濃くある。
    「なにも」
     清麿が、震える声を漏らした。
    「……できなかった……!」
     その身体を抱き締める。まるで今にも崩れ落ちそうに見えたから。
     実際抱いた瞬間に彼の膝は力が抜け、水心子にもたれかかってきた。耳朶が白いのが視界に入る。
    「そんなことない。君はちゃんとできることをした。何もしてないなんてことない」
    「けど、僕は、治せない。何もできない。僕は主じゃないから……僕じゃだめだったんだ、僕じゃ……」
     痛々しい思い詰めた声。──けれど水心子はそれが嬉しかった。一緒に床に座り込んで、彼の耳朶を撫でる。
    「……それはたぶんさ、薬研殿も同じなんじゃないかな」
     清麿が息を飲む。覗き込むその頬がまた赤みを取り戻してくれるように願って手を添えた。
    「あの時、……清麿が重傷を負った時、薬研殿も同じ思いをしたんだよ、きっと。治せない、何もできないって思ったんだ。……きっとあの方は、何度もそういう思いをしてきたんだろうな」
     審神者以外のものでは直接的に治すことはできない。その無力さを彼は怪我人が出るたび噛み締めて、それでも手入れ部屋の管理者という立場に在り続けた。
    「そう……か……」
     清麿の目尻から涙が溢れ出る。頬に触れた手を濡らし、伝って落ちる。
     悔恨の声が漏らされた。
    「……僕は、自分から傷を受けに行ったんだ。薬研が一番苦しい思いをすることを、進んでしてしまったんだ、ね……」
     自分も泣き出したい心地で、水心子は微笑んだ。抱き締める腕に力を込める。
    「……それを、清麿が分かってくれたんだ。我が主と薬研殿が手入れ部屋の手伝いを任せた意味、ちゃんと果たされてるよ。それでいいんだ、僕は、今、すごく嬉しいんだよ」
     ──きっと、薬研殿も起きたらそう言うよ。

     清麿は声を上げて泣いた。彼の全身に染み渡る悔しさと悲しみ。どれだけ辛いだろう。苦しいだろう、苛まれているだろう。
     それでもこれは大きな収穫なんだ。結果として薬研が命を懸けて教えてくれたことだ。清麿はきっとこれを乗り越えたらもっと強くなれる。
     君と一緒に僕も学ばされた。この本丸最強はやはり薬研藤四郎に相応しいのだと強く思う。たとえ深い怪我を負って帰ってこようが、生きていてくれる限りそれは変わらないのだ。

     泣き腫らした目のまま、清麿は薬研の横の椅子に座り続けた。水心子もその横にいた。彼は部屋に戻っていいと言ったけれど、傍にいさせてくれと願うと俯いて頷いてくれた。
     日付が変わるころ、ふいに薬研の眉が動いた。ぐっと顰められて、清麿と顔を見合わせる。
    「薬研」
     清麿が呼びかけたのを聞いて、隣で寝ていた一期も身体を起こし覗き込む。
     唸るような声とともに、薬研が瞼を押し上げた。
    「薬研、身体は」
    「……ああ、大丈夫だ……、嫌な思い、させちまったな、旦那」
     掠れた声を聞いて、清麿の目からまた雫が零れ落ちる。
    「薬研、……僕は、ぼくは、ほんとうに、君にも主にも仲間にも、みんなに酷いことをしたんだよね。自力で治してあげられない傷と向き合うこと、本当に怖かったけれど……君が起きたら、絶対にお願いをしたいって思っていて」
    「ん、……なんだ?」
     泣きながら、それでも凛とした声で清麿は薬研に嘆願した。
    「……手入れ部屋のお手伝い、これからも続けさせてほしい」
     にや、と薬研が笑う。
    「……苦しくてもか?」
    「その苦しみは、向き合わなければいけないものだと思うから」
     まっすぐな眼差しだった。薬研は満足そうに目を瞑る。そうして漏らされる声は、どこか震えていた。
    「……嬉しいねえ。……お仲間が出来た」
     もしかしたら、薬研もずっと孤独だったのかもしれない。独りで治したくとも治せない傷と向き合う日々はどれだけ不安だっただろう。本丸を守るために、最強であるために、彼はずっと独りだった。
     けれどそこに今日からは清麿も並び立とうとする日々が始まるのだ。もう薬研は孤独ではない。──それならばと水心子も内心誓いを新たにした。
     薬研を独りにしない清麿を、独りにはしない。
    「もしも、私にも手伝えることがあったら」
     なんでもさせてほしい。──そう伝えると、二人は笑って頷いてくれた。

     それから清麿は出陣以外の時間を手入れ部屋で過ごすようになった。薬研一人だけだった時よりもそこは元気な刀の出入りが多くなり、毎日誰かが入り浸っている。
     今日は包丁が清麿にべったりでお喋り中だ。
    「清麿は白衣が似合うな! 薬研兄はお医者さんって感じだけど、清麿はナースさんって感じなんだぞ」
    「あはは、ありがとう? って言っていいのかな」
     ふいに包丁が水心子を向く。何だろうと思って視線を返すと、何の穢れもない顔で問いかけられた。
    「ナースプレイとかしたりする?」

     水心子の頭が爆発するのと包丁の頭が薬研によって叩かれるのは同時だった。
    「そういう話すんならもう帰れ、包丁。清麿は遊びで話聞いてくれてんじゃねえんだぞ」
    「そそそそそ、そうだ、そうだぞ包丁殿!」
    「ちぇーっ。じゃあ水心子も一緒に出ようよ、水心子ならいいだろ」
    「なにがいいんだ、私は清麿を手伝うんだ!」
    「今なにもすることないくせにーっ」
     笑声が響く手入れ部屋。ふと目が合った清麿が、そっと口元に人差し指を押し当てて笑う。
    「……秘密。ね?」
     茹だった頭で咳払いする。包丁がうらやましい! と声を張り、薬研にはお盛んだねえと笑われる。しかしそうだ、秘密は秘密だ。
    「白衣の天使くんいるかな、明日の出陣なんだが」
     タイムリーに入ってきた長義の台詞に全員が吹き出してしまい、『えっなに!?』と彼を散々慌てさせることになるのだった。
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    フスキ

    DONEまろくんが天使だったパロの水麿、すいくん風邪っぴき編です。
    ひとは弱くそして強い(水麿天使パロ) 僕の天使。嘘でも誇張でもない、僕のために人間になった、僕だけの天使。
     水心子は、ほとんど使っていなかった二階の部屋に籠もり、布団をかぶって丸まっている。鼻の詰まった呼吸音がピスー、ピスーと響くことが、いやに間抜けで、布団を喉元まで引き上げた。
    「……水心子」
     僕だけの天使、が、ドアの向こうから悲しげに呼びかける。
    「入らせて。ね、顔が見たいよ」
     清麿は、心細くて堪らないような声でそう言った。ぐっと息を詰める。顔が見たい、のは、こちらだってそうだ。心細くて堪らないのだって。けれど、ドアを開けるわけにはいかない。
     水心子は風邪を引いてしまった。もとより人である水心子は、きちんと病院に行き診察を受け、薬を飲んで今ここで寝ていられる。けれど、一緒に暮らす清麿は、元が天使だ。医療を受ける枠組みの中にいない。もし彼に移してしまって、悪化してしまっても、水心子には術がない。天使だったのが人になった身なのだ。病院で診られて、もしどこかに普通の人とは違う部分があって、それが発端となり彼を失うことにでもなったら。
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