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    フスキ

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    28歳×20歳水麿現パロ小説です!とりあえずまとめた…!この続きはたぶん鍵垢で書きます…全年齢部分だけひとまず。めちゃくちゃ楽しかったです…

    #水麿
    mizumaro

    28×20水麿 そのいち その日は日差しがきらきらとしている日だった。日曜日に朝早くから起き出さなければならなかったのは低血圧な清麿からすれば気が重かったけれど、公園に着いてみれば木漏れ日がきれいで気持ちも浮上した。
    「源、ほんとごめんな」
     自分と同じく高校のジャージ姿の同級生が、申し訳なさそうに手を合わせてくる。それはもう今日数回目で、清麿は苦笑しながら『いいってば』と返した。
    「〇〇が体調が悪くなってしまったんだもの。ボランティアのお仕事だからね、事前に出した参加人数を変えるわけにいかないっていうのはよく分かるし……やってみると意外に楽しいから、そんなに何度も謝らなくていいんだよ」
    「ありがとう……源は天使だー」
     大袈裟に泣き真似をする同級生を笑い飛ばして、清麿はまたごみ拾いに戻る。
     企業主催の公園内の清掃ボランティア、昨日突然穴埋めとして誘われた時は面倒そうだと正直思ったけれど、同級生に語った通り、始めてみれば割と楽しい。
     木漏れ日がゆらゆら揺れる中、ごみを集めて歩く。気づけばもう袋がいっぱいだ。取り換えにいかなければ、と思った時、ふいに声をかけられた。
    「受け取るよ。新しいごみ袋もある」
     振り向くと、同じくらいの年頃らしき少年が手を差し伸べて立っていた。見覚えのある学校のものではないジャージを着ているので、きっと私物なのだろう。清麿は微笑んで袋を交換した。
    「ありがとう。本部まで戻らなければいけないかと思ったから、助かったよ」
    「ああ……僕らみたいに回収して回ってるやつもいるから、声をかけてくれたらいい。もしかして、はじめて?」
     頷いた清麿に、彼はそうなのかと意外そうにした。
    「すごく楽しそうにしてるから、何度も参加してる子なのかと思ってた」
    「……そんなだった? 今回がはじめてだよ、今日だって元々参加するはずだった子が体調を崩してしまって、その代役で来ただけだから……みんな真面目に取り組んでいるのに、僕だけ楽しそうにしていたら駄目だったかな」
     少々慌ててそう伝えると、彼は破顔して『そんなことない』と言ってくれた。
    「楽しんでくれるのが一番だろう。こういうのは楽しみを見出せる子が向いてるんだ……嫌々やってる子もいるけど、君はこの環境も楽しんでるみたいで、僕はとても素敵だと思って見てたよ」
     つい頬が熱くなる。彼は見たところ同い年くらいの少年なのに、瞳がやたら大人びているのだ。その綺麗な翠に柔らかく見つめられると、なんだか心がそわそわとしてしまう。
    「あ……ありが、とう……で、いいの? かな?」
     彼はあははと笑った。頷かれる。
    「素直でいい子だな」
     なんだか言葉も大人目線だ。もしかしたら年上だったりするのだろうか。そうだ私服で来ているのだから、大学生くらいなのかもしれない。そう慌てていると、遠くから呼びかける声が届いた。
    「水心子さーん、あっちお願いします!」
     主催企業のスタッフだった。水心子と呼ばれた彼は『わかった』と返し、清麿にもう一度微笑んでからそちらへ行ってしまう。
    「……『水心子さん、お願いします』、『わかった』……?」
     スタッフのほうが敬語を使い、水心子のほうが口調が崩れている。
     なんだかちぐはぐで、違和感にうっかり立ち止まって考え込んでしまってから、そうだごみ拾い中だったと焦って仕事に戻る。そのあとはまた同級生と合流し、清掃が終わる時まで忘れてしまっていたのだけれど。

     公園内の清掃が終わって、主催企業側から記念品の配布があった。ボランティアなのだから必要ないのではとも思うけれど、きっと企業の宣伝も兼ねているのでこんなこともあるのだろう。
     受け取りに行った同級生を待っていると、先程の水心子が寄ってきてくれた。
    「お疲れ。君は受け取った?」
    「お疲れさま。今同級生がまとめて受け取りに行ってくれているよ」
    「なんだ、そっか」
     僕から渡したかったのにな。──そう呟く彼の手には、よく見れば記念品がたくさん入ったバッグ。
    「……そんなにもらったのかい? あ、大人数で参加していたの?」
     一瞬彼はきょとんとして、それからなにか合点した顔で『いや』と首を振った。
    「僕は配る側なんだ。そちらの手伝いを頼まれた。君と同じだよ、欠員補充要員だ」
     なるほど、主催側の手助けをしていたらしい。だからごみ袋の回収をして回っていたのか、と納得して、けれどまだなんだか違和感がある。それがなんなのか分からず首を傾げる清麿に、水心子は少し躊躇った様子を見せてから口を開いた。
    「……あの、連絡先の交換、とか、できる? あ、もちろん学校で禁止されてたり不都合があるならいいから! もし、君がよければ」
     また話せたら嬉しいと思って、と続けられるので、清麿は笑って頷いた。
    「いいよ、そんな不都合なんてないし……僕も君とお話してみたいから、こちらこそぜひ」
    「ほんと?」
     大人びた瞳が、子供のように細められる。笑うと顔立ちに合った印象になるのだ。
     かわいいひとだな、と思っているうちに、彼は連絡先だとポケットからカードを手渡してくれる。
    「ここに連絡して」
    「ありが──、……え」
     受け取った名刺と、目の前の悪戯っぽい笑顔を何度も見合わせる。名刺。名刺だ。そこには、今日のこの公園内清掃を実施した企業名と、水心子正秀、という名前も書かれている。
     つまり。
    「……さ、サラリーマンさんだったの……!?」
     水心子は面映ゆそうにして頷く。……主催企業の社員、どころか、大学生、いや高校生だと思い込んで話をしていたのに。というかずっと敬語を使わずに喋ってしまって、と慌てふためく清麿を彼はただ笑うだけで許してくれた。
    「こ、これからは敬語を使うので……」
    「ええ、そんなのやめてよ。君の言葉遣い、好きだなって思ったんだから……それよりさ」
     名前、聞かせてよ。そう言われて、名乗ってさえいなかったことに思い至る。なんだか今日は失態ばかり見せているな。
    「み、源清麿……です」
    「敬語やめてってば」
     そう笑ってから、水心子正秀は『綺麗な名前だな』と笑顔を穏やかなものに変えて言ってくれた。

     連絡を取り合うようになって知った、水心子というひとは、もう二十五歳にもなる立派なサラリーマンなのだった。
     最初のころはどうしても抵抗があって敬語を使っていたのだけれど、途中で水心子が拗ねて『次に会う時敬語使ってたら落ち込むからね!』と言い放ってきたので、また会う機会を作ってくれるのか……となんだか妙にくすぐったい気持ちになりながら清麿が折れて自然な口調で話すようになった。
     毎日のようにメッセージのやり取りをして、電話もして、再会の喫茶店に行く時にはもう清麿の心はすっかり水心子に惹かれきっていた。
     初恋、に近い感覚を持ちながら、少しレトロな喫茶店に入る。探さなければいけないかと思ったけれど、入口のすぐ横の席に水心子はいてくれて、手を挙げてくれたのでほっとして駆け寄った。
    「こんにちは。待たせてしまった?」
    「こんにちは。ううん、まだ待ち合わせ時間前。僕が早く着きすぎちゃったんだ」
     そう明るく笑んで席を勧めてくれる彼に、心がふわふわとする。座ってもまだふわふわしていて、これはなんなんだろうなあ、とぼんやり考える。
    「何頼む? もうお昼時だけど、食事もここでいいか?」
    「あっ、うん! ええと、ブラックコーヒーと……水心子はなにを注文するの?」
     アンティークな表紙のメニュー表を挟んで、二人ああだこうだ喋る。どうやらここは彼のお気に入りの店らしい。君と一緒に来たくて、と言われて、また心がふわふわした。
    「……水心子のおすすめは?」
    「うーん、がっつりいくならナポリタン! ここ量が多いんだ。清麿って量食べれるほう?」
    「う……あんまり食べられないかも」
    「じゃあミックスサンドにして、二人で分けて食べるのは?」
    「うん、それがいいかも」
     決定して、水心子が店員を呼ぶ。互いに見知った相手なのか、オーダーを取りに来た年配の女性は二人を見てにこにこと笑んだ。
    「はじめて他のお客様を連れてきてくれたと思ったら、こんな綺麗な方、隅に置けないですね」
    「はは、からかわないでくださいよ」
     水心子は動揺も見せず、笑顔でかわした。それを見て清麿はついむくれてしまって、こちらに視線を戻した彼がどうしたのと目を丸くする。
    「……なんでもない」
    「……あんまりかわいい顔してると、取って食べようとしちゃう輩もいるから気をつけろよ」
    「……それって、水心子?」
     そう尋ねてみると、彼は咳払いをした。
    「そうだって、言ったら?」
     目を丸くするのは今度は清麿のほうだった。いつも通りに、何言ってるんだと笑ってくれるのを予想していたのに、今の彼は真剣な顔をしている。
    「……え」
    「清麿は、無防備すぎるんだよ。相手が僕じゃなかったら、君いまごろお腹の中だ」
     気をつけてね、と言われ、一瞬言葉を飲んでから彼を睨んだ。
    「他のひとといる時は、もっと気をつけているよ。水心子だからこうなだけ」
    「……そういうこと言っちゃう時点で、」
    「水心子だから、こうなだけ」
     重ねると、彼もまたぐうと言葉を飲んだ。
    「……勘違い、するぞ」
    「勘違いではないと思うよ」
     なんだか腹の探り合いな言葉の応酬が嫌で、テーブルの上で拳を握る。僕は、と口を開く。
    「……水心子のことが、好きだから」
     すきなひとだから、とくべつなんだよ。
     彼は顔を覆ってしまった。俯くので、やはりなにかまずかったかと冷や汗を流していると、ゆっくりその顔が持ち上がった。
    「……こんな、おじさんでいいの?」
    「おじさん、って、水心子が?」
     二十五歳はおじさんではないだろう。首を傾げる清麿に、彼は『八歳も離れてたら僕はさっさとおじさんになるよ』と落ち込んだ目をして言った。
    「そんなことない。八歳なんて、五十歳を過ぎてしまったら誤差だろう?」
     思ったことをそのまま言っただけなのに、水心子はぱっと顔を上げて、その頬を朱に染めた。
    「……そんな先まで、一緒にいること考えてくれるの?」
     言われてみればそういう意味だ。なんだか焦ってしまって、ええと、と頬が熱くなる。知り合ったばかりでプロポーズみたいで変だよね。でも正しい言い方ってなんだろう。そうぐるぐると思考していると、彼の熱い手に拳を覆われた。
    「……清麿、僕も、君が好き」
     きゅ、と手を握られて、頬がまた熱を強くした。何と返していいのか分からない間に、彼はゆっくりと語りかける口調で言葉をくれた。
    「でも、恋人になっても、絶対に手は出さないから。大事にするから、安心して」
     顔を上げた。ぽかんとする清麿を、彼は穏やかな微笑を浮かべて見つめている。
    「……え、で、でも」
    「もちろん、いつまでも、とは言えないよ、……ごめんね。……君が、二十歳になる日がきたら、それを解きたい」
     ──だから、その日に結婚しよう?
     覗き込まれる瞳の、翠。大人の目が、窺う色を宿している。
     プロポーズをされているのだ。──先程自分がそれまがいのことを言ってしまった時は失態だと思ったのに、彼からもらう言葉はどうしてこんなに心を揺らすのだろう。揺れて、その反動で、彼のもとに行きたいと胸の奥が叫ぶ。
    「……いいの、かい?」
     ぼくはきみのおくさんになれるの? そんな幸せがあっていいのだろうか。
     躊躇してしまう幼い心を、彼は温かく抱き寄せてくれるように。
    「誰になんて言われても、僕が、君を欲しいんだ」
     五十歳を過ぎて、年の差が誤差になっても、一緒にいて欲しい。
    「……、……うん!」
     よろしくお願いします、と頭を下げた時、彼の瞳が泣き出しそうに揺れた。
    「……すごく抱きしめたいけど、ここじゃ駄目だよな……」
    「あはは、あとで場所を移ろうか」
    「清麿のほうが余裕があるのってどういうことなんだろ……」
     別に余裕なんてないよ。ほんとうは今すぐ抱きしめて欲しい。両腕で包んでもらって、一緒に結ばれたことを実感したい。
    「でも、立場が悪くなるのは水心子だろう? 僕も君を犯罪者だって誤解させたくはないし」
     ──だから、食べ終わったら、二人きりになれるところに行こう?
     水心子がテーブルに突っ伏す。うにゃうにゃと判別のできない唸り声がして、清麿は思わず破顔してしまった。

     ミックスサンドは確かに二人で食べてちょうどいいくらいの量だった。けれど水心子はいつもこれを一人で食べているのだろうかと考えると、足りない思いをさせてしまったのではと少し焦る。
    「うーん、少なくても別に不満はないんだけどさ。じゃあコンビニ寄ってから、僕の部屋に行く?」
     店から出たばかりの外で、清麿はエッと素っ頓狂な声を上げてしまった。
    「い、いいの?」
    「うん。……あ、言ったけど、手は出さないから。絶対変なことしないから、嘘とかじゃなくほんとにしないから! だからほんとに心配しないで」
    「……でも、ぎゅっとはしてね?」
     水心子がまた顔を覆う。再度うにゃうにゃしだすので、清麿は笑ってその手を引いた。
    「正直、他人にばれないところでなら僕はどうでもいいのだけれどね?」
    「……そういうこと言わない……」
    「あはは、うん、もう言わない。だから早く行こうよ、水心子おうちどっち?」
    「せ、積極的だな、今の子は……」
     急にそんな大人目線を口にするので、なんだかおかしくなってしまう。正直水心子とならくっついて歩いたって誰も不審には思わなさそうなのだけれど、それはそれで彼のプライドが傷つくだろうから、手を放して一緒に歩いた。
     駅の近くに来た時、歩道の端に露天商がいた。思わず立ち止まって覗き込んでしまったのに合わせて、水心子も横に止まる。
    「こういうの、好きなの?」
    「うん、うーん……だって、形にしておきたいじゃない」
     首を傾げる水心子を尻目に、清麿はフリーサイズの同デザインの指輪をふたつ購入した。両方で二千円程度の安いもの。不思議そうにこちらを見ている水心子へ、『左手見せて!』とお願いをする。
     素直に差し出された彼の薬指に、指輪をひとつはめてやると、きょとんとしていた彼は頬をざっと染めた。
    「き、きよまろ?」
     そのうちに自分の左手薬指にもはめてしまう。陽光にかざすと、シンプルな銀色のそれはうっすらと光を反射させた。
    「これ、婚約指輪にしようよ」
    「え」
    「してくれるかい?」
     こてんと小首を傾げて笑いかけると、彼は真っ赤なまま何度目かのうにゃうにゃした声を上げた。そのまま手を掴まれて引かれる。
    「わ、水心子」
    「もー、早く、早く部屋にいこ。もう今すぐ抱きしめたくて堪らない、ほんともう、清麿のばか」
     目の前を揺れる頭頂の毛束を見て、清麿は声を上げて笑った。

    ***

    「……っていう馴れ初め、だったんだよねえ」
     懐かしいね、と清麿は笑う。二十回目の誕生日の当日、水槽に囲まれたレストランと豪勢な食事。
    「……うん」
     水心子は今日はやけに言葉少なで、緊張が強く伝わってくることが逆に清麿に状況を教えた。
     互いにすこし黙って、そのあと、水心子が躊躇った唇を決意を込めた顔で開ける。今日、と紡がれた。
    「……ここに来る前に、指輪他の指にしてきて、って頼んだだろ」
    「……うん」
     そのメッセージだけを見た時は、別れ話でもされるのかと一瞬ひやりとしたのだけれど。でも、水心子に会ったら、彼ががちがちに緊張して真っ赤になっていたので、ああ違うのだと分かったのだ。
    「言ってから、誤解させたかもって思ったけど……でも、君からもらったものだけじゃなくて、僕からもちゃんと贈りたかったから」
     そう言って、彼が席を立つ。テーブルを回り込んで、清麿の前に跪いた。ポケットから取り出された箱、開いた中身が、向けられる。
    「……今日からは、こっちもつけて欲しい。……結婚してください」
     見つめられる翠。あの日よりもさらに大人びて、そんなふうに変わったのに、君は変わらない愛情を向け続けていてくれる。
     泣くのを堪えて飛びついた。すぐに回される腕を愛しく思いながら、返事を返す。
    「よろしくお願いします……!」
     周囲のスタッフが拍手をし始めて、それで状況に気づいたのか他の客たちも手を叩いて祝ってくれた。
     こんなふうに祝福されていいのだ。そうしてくれたのは水心子だ。君がずっと約束を守って、大事に、大事にしてきてくれたから、僕たちは幸せを祝ってもらえる。
    「大好きだよ、……水心子」
     首筋にぎゅうと抱きつけば、彼も腕に力を込めて『僕も』と返してくれる。
     こんな幸福はないと心から思った。

     食事を終えて、ホテルの一部であるレストランを出て。そうしたら、また水心子はがちがちに緊張し始めてしまった。言葉数が少なくなって、それが何を意味するのか、分からないほど子供ではないから。
     水心子の腕に抱きつく。もう誰にも咎められない。瞳を覗き込んだ。
    「……もらってくれるかい」
     そんな言葉で分かってくれることだって特別なのだろう。水心子は抱きしめてくれた。
    「ぜったい、大事にする。……今夜も、これからも、ずっと」
     今までで、充分すぎるほど大事にしてもらってきたのに。これからもなんて、この幸福はどれだけありえないことなのだろう。
     水心子が与えてくれた幸福。それが沁み込んだ心に、身体がやっと追いつく。そんな夜がこれから訪れるのだと、面映ゆくも幸せに思いながら、宿泊する部屋への一歩を二人で踏み出した。
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    フスキ

    DONEまろくんが天使だったパロの水麿、すいくん風邪っぴき編です。
    ひとは弱くそして強い(水麿天使パロ) 僕の天使。嘘でも誇張でもない、僕のために人間になった、僕だけの天使。
     水心子は、ほとんど使っていなかった二階の部屋に籠もり、布団をかぶって丸まっている。鼻の詰まった呼吸音がピスー、ピスーと響くことが、いやに間抜けで、布団を喉元まで引き上げた。
    「……水心子」
     僕だけの天使、が、ドアの向こうから悲しげに呼びかける。
    「入らせて。ね、顔が見たいよ」
     清麿は、心細くて堪らないような声でそう言った。ぐっと息を詰める。顔が見たい、のは、こちらだってそうだ。心細くて堪らないのだって。けれど、ドアを開けるわけにはいかない。
     水心子は風邪を引いてしまった。もとより人である水心子は、きちんと病院に行き診察を受け、薬を飲んで今ここで寝ていられる。けれど、一緒に暮らす清麿は、元が天使だ。医療を受ける枠組みの中にいない。もし彼に移してしまって、悪化してしまっても、水心子には術がない。天使だったのが人になった身なのだ。病院で診られて、もしどこかに普通の人とは違う部分があって、それが発端となり彼を失うことにでもなったら。
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