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    フスキ

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    フスキ

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    水麿家族パロ、妊娠中のつわりのお話。まだ娘ちゃん産まれてません。すごくフィクションなので怒らないでやってください…

    #水麿
    mizumaro

    (水麿家族パロ)増えていくしあわせ「え、ぅ」
    「きよまろ」
     袋に向かい嘔吐する清麿の、丸まった背に触れたまま水心子は動けなかった。さすってやりたいけれど、さすったら余計吐いてしまって苦しいだろうかと思ったら何もできなかった。
     それでもひとしきり吐くことを続けた彼は、少し落ち着いた様子で水心子にぽすんともたれかかってきた。それを抱き止め、覗き込んだ口元に水の入ったコップを向けてやる。彼が口をゆすいだ。
    「ん……ごめん」
    「謝らないで……ごめんね、何もできなくて」
     青いままの顔を、清麿はううんと左右に振った。嬉しそうに懐いてくれる。
    「君がいてくれるから、安心する。……一人だった時は、つわりさえ来なかったんだから」
     表情が歪むのを堪えながら、彼をそっと抱きしめた。まだ荒い呼吸が苦しい。
     清麿は、妊娠が発覚してから一か月近く行方をくらましていた。見つけた時にはちょうど妊娠三か月ほどになっていて、逃げていた時期は一般的につわりの多い時期に重なった。けれど、そのころ清麿はけろっとしてアルバイトなんてしていたのだ。
     今はもう安定期に入っているが、つわりはまだ起きていた。医師は、元々重いほうだったのでしょうと口にしていた。きっと孤独であることのあまりの精神的負荷が、本来出て当たり前だった症状さえ堰き止めていたのだ。今はその堰が壊れてしまった状態なのだろう。そう思えば彼が吐くのは、痛々しいのとほっとすることが半々といった感覚だった。
    「……清麿、落ち着いてからでいいから何か胃に入れよう。空腹は吐き気によくないから」
     エチケット袋を片づけつつそう声をかけると、彼はうーんと唸った。
    「……今日ほとんど食べていないから、食べないとだよね……」
    「うん。頑張れ清麿……僕に作れるものなら作るから」
    「うーん……オムライス……?」
     オムライス? 目を瞬くと、彼が難しいかなと焦った顔をした。
    「洗い物も多くなってしまうし、だめだよね」
     珍しかった。いつもはゼリーくらいしか食べない清麿が、吐いた直後にしっかりした料理を欲するなんて。水心子は作ったことはなかったし、洗い物が多くなるというのもそうなのだろう。けれど、清麿が食べたがるものを作ってやれない己に価値などない。
    「わかった。調べて作ってみるよ、待ってて」
    「え、……いいのかい?」
    「期待はしないでね」
     笑って頭を撫でてやると、彼は頬を薄く染めた。

     清麿は逃げる時、大学も辞めアパートも引き払ってしまっていたから、今は水心子が一人暮らししていた部屋で一緒に暮らしている。
     水心子も大学は辞めてすぐにでも働くつもりでいたけれど、清麿も周囲もそれを必死で引き留めた。清麿は水心子が大学を中退することは、水心子の今までの努力が損なわれてしまうようで耐え難かったらしい。自分のほうが大変な苦労をして通っていた大学だったのに、水心子のほうを残してくれた。
     それでも清麿を探して大学を休み続けただけに、戻れるのかひやひやしたが、それもなんとかなった。どうしてなんとかなったのかは、水心子にはよく分からない。目をかけてもらっている大学の理事の一文字則宗が『まあ僕にかかればな』と扇子の向こうで笑っていたので、おそらく何かしてくれたのだろうが。
     その大学生活ももうすぐに終わる。ちょうど子供が産まれるころ、水心子は新社会人として働き始めているだろう。ばたばたすることにはなるけれど、楽しみがいっぱいだねと笑ってくれた清麿が愛しかった。
     もうすぐ引っ越しも控えている。新居も決まった。費用は水心子の両親が出世払いにしてくれている。親に頼るのも、と葛藤はしたのだが、両親は『孫の顔を見るためなのだから金くらい出させろ』と圧をかけてくれた。
     たくさんの人に支えられて、清麿と出産の日を待てる。それがとても誇らしくて、同時に身が引き締まる思いだった。
     僕は僕の責任を果たさなければいけない。

    「……一応できた、けど、清麿食べれる……?」
     出来上がったオムライスを手に振り向きはしたけれど、冷ましたほうが食べやすいだろうか。卵は特有の匂いもあるし。そう思って窺った水心子に、清麿は顔色を明るくして『食べる』と言った。
    「今食べたい。せっかくの水心子のオムライス、出来立てを食べなきゃ」
    「……形いびつだし、味もいいか分からないぞ」
    「水心子はレシピから外れないから大丈夫だよ。……わ、おいしそう……!」
     清麿のいるこたつまで皿を運ぶと、彼は飛び上がるようにそう言った。おいしそう。清麿が、食べ物を見てそう言うのなんてどれくらいぶりだろう。なんだか無性に感動して、涙が出そうな心地になった。
     ちょうど夕飯時なので一緒に作った自分のぶんは、見比べてより形がいびつなほうにする。多少綺麗にできたほうを清麿に置くと、面映ゆいように彼が微笑んだ。
    「ありがとう。薄焼き卵、難しいのに綺麗にできていてすごい」
    「そんなことないよ、破れてるし……でも清麿が少しでも食欲出てくれたならよかった」
    「そんなことあるし、食欲だって出るよ。水心子のオムライス」
     嬉しそうに笑う彼が、ふいにその腹部を撫でた。
    「食べたい? 産まれてきたら、きっとまた作ってもらおうね……」
     それを、眩しい思いで見つめる。
     清麿は、よくお腹の中の子供に話しかける。きっと一人で逃げていた時にそうしていたのが残っているのだろう。それでもその行為はもちろん悪いことなんかではないから、水心子も手を伸ばして彼の腹に添えられた手の甲に触れた。
    「……作る、けど、どんなのになっても怒らないでね」
     清麿が破顔してあははと声を上げる。
    「怒らないよ」
     ね、と腹に向けて声をかける。その様子が聖母みたいだなんて、そんなことはきっと思う水心子がおかしいのだけれど。
    「……さて、食べようか」
    「うん。いただきます」
    「いただきます」
     手を合わせて、清麿がスプーンを口に運ぶのを見つめる。味はどうだろうか。ケチャップライスは味見したけど、卵と合わせてどうなるかは薄焼き卵が欠けちゃうからと思って確かめられなかったんだよな……。
     咀嚼している清麿の表情が、どんどん明るくなっていく。
    「……すっごくおいしい……!」
     彼はすぐに二口目を頬張って、飲み込んですぐに、これならいくらでも食べられてしまうかもと興奮した面持ちで語った。
    「水心子?」
     ぎょっとした顔が向けられる。水心子は俯いて目元を拭った。伸ばしてくれた手が腹がつかえるのか途中で止まるので、慌てて水心子からも手を伸ばしてその手に触れた。
    「ごめん。……僕の料理で、元気になってくれるの、嬉しくって……」
     いくらでも作るから、食べられるだけ食べて。そう伝えてやると、彼もまた泣き出しそうに微笑んでくれた。

     眠るために電気を消して、向き合って横たわった清麿の腹部にそっと触れた。穏やかに伝わる、清麿のものだろう心音。
    「……ずっと守るね」
     産まれてくるまでも、産まれてからも、ずっと。
    「……水心子が父親だなんて、この子は幸せ者だね」
     彼は、なんだか羨ましいな、と言って眉を下げた。
     清麿は両親のもとで育った子供ではない。施設でずっと育ってきた。彼自身だって充分な愛情に満たされて生きてきたわけではない。それは少しだけコンプレックスであり、育児で不安な点なのだと、彼は以前零した。
    「……大丈夫」
     腹に触れていた手で、彼の頭を撫でてやる。視線がこちらを向いた時に、笑いかけた。
    「この子の父親である前に、僕は君の夫だから。君にだって、誰にも劣らない愛情を注ぎ続けるよ? 覚悟しててよ、もう、絶対放さないんだから」
     この子が大きくなって巣立つ時が来ても、君のことだけは手放さないよ。
     今度、泣くのは、彼のほうだった。目元を胸に押しつけられるので、腹部を圧迫しないように気をつけながらそっと抱き寄せて髪を梳いた。
    「……こんな幸せで、おかしくなりそう」
     怖いなあ、と呟かれて、怖いよね、と笑って頭を撫でる。──怖くても、ずっと一緒だよ。

     もう少しで、この幸せは三人ぶんになる。これ以上増えるのは怖いけれど、正しく怖がれているうちはきっと大丈夫だろう。
     ずっと一緒だ、と囁けば彼の腕の力が強くなる。愛しくて、二人の間にもう一人の最愛が増える日を想って、もっともっと強くなろうと心に誓った。
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    フスキ

    DONEまろくんが天使だったパロの水麿、すいくん風邪っぴき編です。
    ひとは弱くそして強い(水麿天使パロ) 僕の天使。嘘でも誇張でもない、僕のために人間になった、僕だけの天使。
     水心子は、ほとんど使っていなかった二階の部屋に籠もり、布団をかぶって丸まっている。鼻の詰まった呼吸音がピスー、ピスーと響くことが、いやに間抜けで、布団を喉元まで引き上げた。
    「……水心子」
     僕だけの天使、が、ドアの向こうから悲しげに呼びかける。
    「入らせて。ね、顔が見たいよ」
     清麿は、心細くて堪らないような声でそう言った。ぐっと息を詰める。顔が見たい、のは、こちらだってそうだ。心細くて堪らないのだって。けれど、ドアを開けるわけにはいかない。
     水心子は風邪を引いてしまった。もとより人である水心子は、きちんと病院に行き診察を受け、薬を飲んで今ここで寝ていられる。けれど、一緒に暮らす清麿は、元が天使だ。医療を受ける枠組みの中にいない。もし彼に移してしまって、悪化してしまっても、水心子には術がない。天使だったのが人になった身なのだ。病院で診られて、もしどこかに普通の人とは違う部分があって、それが発端となり彼を失うことにでもなったら。
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