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    aonekoya_tama

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    aonekoya_tama

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    2月13日のプラマニクスとエンカク
    弊社のふたりはできてます。

    プラマニクスが目覚めると下腹部が重苦しく、小用へ立つと水が真っ赤に染まった。
     荒野に停止したロドスの艦船、窓の外は雪を降らす余力もない、水気がすべて凍てついた灰色だった。
     濡れた服を着続けているように体が重く、冷たい。
     身支度を終えるとロドスに支給された端末が光っているのに気が付いた。
     妹から届いていた誕生日を祝うメッセージを眺める。
     プラマニクスは端末をデスクに戻し、両手で顔を覆った。掌の隙間からため息が漏れだす。
     違うわ、エンシア。私のお祝いはいつも明日だったじゃない――
     妹は、かわいい。良き家族でいられない自分の心がティースプーンのように思われる。


     エンカクの日課を知ったプラマニクスは傭兵だけではなく官軍の経験がありそうだと思ったことがある。
     六時の起床、身だしなみを整え、朝食を摂り、温室で鉢植えの世話をし、訓練室で体を絞り、自室に戻ってシャワーを浴びる。
     屋敷にいた護衛たちやクーリエ、マッターホルンは皆、定規で引いたような生活をしていた。
     だから、その時間に部屋を訪ねれば、必ず自室にいるとわかっていた。
     来訪通知を聞いてドアを開けてくれたエンカクは、シャワーを浴びたばかりの濡れた髪だった。
    「こんにちは。出直したほうが良いですか?」
    「いいや、構わない」
     大きな身体を引いて彼女を部屋へ招いてくれる。
     プラマニクスは大きく息を吸込んだ。重いからだがようやくきちんと呼吸をしはじめた気がする。
     窓辺の緑は少し数が減っている。多分、冷たい窓辺から温室へ移動したのだろう。
     エンカクの体格に合わせた大きなベッドに寝転がり、冷たい手足を丸める。
    「扉を開けられるだろう」
     首にかけていたタオルで頭を拭いながらエンカクが言う。
    「開けてもらいたいのです」
     プラマニクスの声の調子にエンカクはタオルの隙間からベッドに寝転がる彼女を見やった。
     透明感のある目は閉じられ、銀の睫が作る影のほかにも、目元がくすんでいる。
     エンカクは電気ケトルで湯を沸かす。自分は水を飲みながらカップにひとつまみの砂糖と塩を入れてお湯でとく。
     サイドチェストにカップと水、本とめがねとビスケットを置いてベッドヘッドにクッションを積む。
     エンカクがクッションに背を預けて足を伸ばすと待ちかねていたようにプラマニクスがくっついてきた。
     タンクトップの右肩にプラマニクスが頭を預け、ゆっくりと呼吸する。
     いつもより体温が高いような気がするが、触れた手はひどく冷たかった。
     エンカクはプラマニクスの長い髪をお互いの身体に敷いてしまわないようにまとめ、ふわふわした表面を撫でる。
     ベッドの足下に畳んだ毛布をかけようと思ったが、それよりもよほどボリュームのある彼女の尻尾がお互いのお腹を覆った。
     エンカクが頭を撫でると柔らかい三角耳が潰れ、すぐに立ち上がる。
     手のひらが余る大きさの肩を撫で、二の腕を辿り、ウェストから腰骨を撫でる。
     プラマニクスの呼吸が深くなり、シャワーを浴びたばかりのエンカクの体温を移し始めた細い手がエンカクの胸元やみぞおちを撫でる。
     こそばゆいのだが、好きにさせておいた。
     お互いの手がお互いの輪郭を辿る。
     湯気の落ち着いたカップを取り上げて猫舌の彼女へ差し出すと、エンカクに取っ手を持たせたままプラマニクスがカップに口を付ける。
     カップをチェストに戻し、代わりにめがねをかけて本をとる。プラマニクスはビスケットの袋へ手を伸ばした。
     左手でページをめくるエンカクの右側でサクサクとビスケットが小さな口へ消えていく。
     エンカクが少しだけ唇を開くと細い指がビスケットを差し入れてくれる。
     ライトグレーの光が差し込む部屋の中に、ページをめくる音とビスケットを咀嚼する音が満ちる。
     停泊中のロドスはまどろむように静かだ。
     エンカクの意識は彼女の存在と混じり合い、文字を追う事に集中しはじめる。
     細い指にうなじの髪をシャリシャリされたり、尖った耳の先を摘ままれた。
     エンカクだって彼女の髪の柔らかさや二の腕の頼りないお肉やウェストへの急カーブや腰骨の意外な存在感を右手に感じている。
     唇についたビスケットのかけらを拭ったのはどっちの手だったのかわからない。
     沿わせた身体の境界が溶け、四本の腕と四つの目とふたつの口をもった生き物になってしまったような気がする。
     プラマニクスは寄せて返すまどろみの気配を味わっていた。
     数日前から神経がひりついている気がしていた。朝から身体が重く、最愛の妹にさえ会いたくなかったし、下腹部に鈍痛があった。
     だから、ここに来たかった。
     撫でてもらうのがこんな気持ちを連れてくるだなんて知らなかった。
     小さな頃は知っていたのかもしれない。大きな温かな手にゆっくりと輪郭を慈しまれ、ささくれだった神経をなだめられる安堵感を。
     自分もなにかしたほうが良いかなんて考えなくてよかった。
     どうやってくっついたらいいのかわかった。エンカクの手もやがて、プラマニクスの尻尾の付け根の横あたりにおかれて動かなくなった。
     手当という言葉の意味を体感する。手足が温まっていく。鈍痛が消えていく。
     チェストの上で、水はぬるくなった。カップは冷めた。同じ温度になった。
     やがて、カサリと、ビスケットの袋がシーツに落ちる。
     まどろみの波に攫われたプラマニクスの眦からひとつぶ銀の雫が零れた。
     エンカクの指が無意識にその綺麗なものを掬い、舐めとってから涙だと気づいた。
     ようやく本から目を隣の女に向ける。
     良い匂いがした。


     その日の夕方、プラマニクスは可愛い妹と大切な仲間たちに誕生日を祝って貰った。
     本当は毎年、二月十四日に、兄と共に祝われていられたの、なんて、もう、考えなかった
    。 
    END
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