会いたかった「零」
いい響きだと、思う。
あいつにこそ似合う名前、あいつだから、零だからしっくりくる。
そんなことを思いながら、何度も零の名を呼ぶ。こんな牢の中から、それも中王区でこの名を呼んだところで、返事など返ってこないというのに。
我ながら、未練たらしい、女々しいと、そう思う。
それでも
「零」
呼ばずに居られない名前。生涯でたった1人の、愛した男の名前。…これで返事さえ返ってきたら
「おーおー、そう何度も呼ぶんじゃねぇよ」
「……は」
思わず、顔を思い切り上にあげた。
牢の外にいるのは、会いたくてたまらない、愛してやまない存在だった。
ああ、嗚呼、あの時から変わらない、綺麗な顔。相も変わらず美しい顔。
しかし何故かその顔は煤汚れている。それでも美しいことに変わりは無いが。
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