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    H_haruaki__

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    すけさんの素敵なイラストお借りしました!置いていく側と置いて行かれる側最高だな…へへ…としてたのですが気付いたらハッピーエンドに収まってもらっていました

    【真+八】バッドエンドで終わらせない とん、と押された身体が傾いだ。なぜ? どうして? 状況が上手く飲み込めない頭に、いやにクリアな声が響く。
    「すまない真下、サヨナラだ……」
     今までに見たことのないような穏やかな笑顔で、男はそう言った。腕の中で物言わぬ人形となった少女を愛おしそうに抱きしめて。しかし真下は知っている。その腹は引き裂かれ、今も口の端からごぷりとこぼれ落ちるどす黒い血も、すべてその少女の仕業なのだ。
     震える声で、震える手で、今にも泣きそうで死にそうな顔をしているくせに、どうして笑えるのだろう。
    「……な、逝くな八敷――ッ!!」
     叫んで、伸ばした手は果たして男に届いたのだろうか。薄れていく意識の中、少女の笑い声が聞こえた気がした。

     途端、鳴り響くけたたましい電子音。びくりと身体が跳ねて飛び起きた拍子に携帯電話がデスクの上からゴトリと落ちた。
    「ゆ、め……」
     まだ心臓はドクドクと鼓動を刻んでいる。けたたましく騒ぎ立てる携帯電話を拾う手も少し震えていた。
    「はい……」
     通話ボタンを押し込んで耳に押し当てる。
    「真下、おまえ今どこにいるんだ。約束の時間、過ぎてるぞ」
     約束。その言葉と声に徐々に意識が戻ってくる。急いで時計に視線を送れば時刻は七時過ぎを指していた。たしか、通話口の相手と約束した時間は、午後六時半。事務所を閉めてすぐに向かえばちょうど九条館に着く時間だ。
    「……すまん、すぐに行く」
    「その様子だとまだ事務所か? 珍しいな、残業でもしていたのか」
    「いや、居眠りをしちまっていたようだ。おかげで目が冷めたよ」
     自嘲気味に笑い、車と事務所のキーを手に立ち上がる。軽い会話をしている内に冗談を言う余裕も出てきた。その頃にはもう、己が先ほど見ていた夢の内容など頭から抜けていた。

     九条館へと向かいながらふと思い出して、どんな夢だったのか思い出そうとしてみる。けれど、思い出さない方が良いような気がして、夢のことは頭の隅に追いやる。それよりも、この失態の埋め合わせをどうするか。そちらの方が重要だった。
     きっと八敷のことだから気にしないし必要ないと言うだろうが、それではこちらが落ち着かない。
     大型デパートなどはまだこの時間でも営業しているだろう。少し奮発して八敷の淹れるコーヒーに合う洋菓子と、きっと適当な食事をしているであろう男に夕飯でも作ってやろう。
     買い物をしてから向かう旨をメールで送れば、少しの間を置いてありがとうと返事が返ってきた。
    「さて、何を作ろうか……」
     どうせなら精のつくものでも作ってやろうか。そう考えて知らず口角がつりあがったが、効果が期待できるかは不明だ。ならばそれよりも凝った料理を作って驚かせてやろうか。自分ひとりの食事であれば適当に食べられて栄養バランスが整っていればなんでもいいが、誰かに振る舞うとなれば話は別だ。それも相手が普段から不摂生をする相手であればなおさらで。残った分は明日の昼食にでもしてもらえればなお良い。
     頭の中で八敷の胃が受け付けそうなものをチョイスしながら、真下はかごを手にぐるりとスーパーの食材を眺めていく。先度までの不安はもう、どこにもなかった。
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