【八真】あるクリスマスの穏やかな夜に うたた寝から目が覚めた。ぱちぱちと弾ける暖炉の灯を横目に、また目蓋を閉じる。たまにはこんな穏やかな日があってもいい。日々忙しなく、慌ただしく、目まぐるしい時間を過ごす自分たちに必要なのはきっと穏やかな日常だ。
ただ、そんなものが叶わないと知っている。だからこそ、このほんの僅かで、些細な幸せを噛み締めて楽しめるのかもしれないが。
控えめにドアが開かれる音がする。足音を、物音を立てないよう静かに部屋に入って来る男の足音はもう何度も聞いてきた。コトン、と小さな音を立ててローテーブルに置かれる二つのカップ。中身がコーヒーであることも、それがこの男が淹れたものであることも真下は知っている。
さて、今日はどのタイミングで目を覚してやろうか。男の所作の一つ一つに神経を研ぎ澄ませながら考える。決して驚かせたいわけではない。怖がらせたいわけでもない。ただ、おはようを言ってもらうタイミングを図りながら、狸寝入りを決め込む。
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