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    H_haruaki__

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    とある年のクリスマスの話

    【八真】あるクリスマスの穏やかな夜に うたた寝から目が覚めた。ぱちぱちと弾ける暖炉の灯を横目に、また目蓋を閉じる。たまにはこんな穏やかな日があってもいい。日々忙しなく、慌ただしく、目まぐるしい時間を過ごす自分たちに必要なのはきっと穏やかな日常だ。
     ただ、そんなものが叶わないと知っている。だからこそ、このほんの僅かで、些細な幸せを噛み締めて楽しめるのかもしれないが。
     控えめにドアが開かれる音がする。足音を、物音を立てないよう静かに部屋に入って来る男の足音はもう何度も聞いてきた。コトン、と小さな音を立ててローテーブルに置かれる二つのカップ。中身がコーヒーであることも、それがこの男が淹れたものであることも真下は知っている。
     さて、今日はどのタイミングで目を覚してやろうか。男の所作の一つ一つに神経を研ぎ澄ませながら考える。決して驚かせたいわけではない。怖がらせたいわけでもない。ただ、おはようを言ってもらうタイミングを図りながら、狸寝入りを決め込む。
     やがて隣のロッキングチェアに腰を下ろす、木材の軋む音を聞いて、次いで聞こえた紙の擦れる音。一頁一頁、丁寧に繰る穏やかな音を聞いていると、本当に微睡んできてしまうのだからタチが悪い。
     本格的に落ちる前に起きるとしよう。そう決めて、真下は薄く眼を開く。ぼんやりとした視界で男の姿を捉える。
    「早く飲まないと冷めるぞ」
    「知っている。だから起きたんだろう」
     最近では狸寝入りをしていることも見通されているらしい。初めの頃のからかい甲斐のある反応がないのはつまらないが、いつまでも驚かれても面白くない。
    「なあ八敷」
    「なんだ」
    「世間では今日はクリスマスだそうだ」
    「プレゼントをもらって喜ぶ歳でもないだろう」
    「そうだな。だがこのコーヒーに合うケーキはあってもいいと思わないか?」
    「……それもそうだな。しかし今からでも間に合うだろうか?」
    「なに、まだ夜はこれからさ」
     時刻は午後七時。まだ店が閉まるには少し早い時間だろう。売れ残りのケーキがあるかどうかと、自分たちの胃がケーキを受け付けるかはさておいて。たまにはこんな風に普通の日常を過ごすのも悪くはないだろう。
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