チカトリーチェという男俺は兄みたいに頭が非常に良い優れたクルーメイトというわけでもない。
いや……しかし、馬鹿でも頭の回転が悪いわけではなく、一般的なクルーメイトよりかはだいぶマシな方だろう。
この世界の頭脳の三角形の頂点に立っているのが兄、その下が俺ってわけ。
俺の親も兄みたいな医者で、所謂昔っからの勉強家揃いの家系で産まれた時から出来の良い兄と比較される毎日。
全く、…厭になるね。
しかし張本人は俺に同情しているのか妙に優しいのが腹が立って仕方がない。
いつか兄と一緒に並んで医者を目指す、と思ったのは子供の頃だけだ。
今は自室に引きこもって外で何かと収集しては自身の成果の出ない研究という趣味に費やす毎日。
………笑えるだろう?
もういい大人だが、親から"あなたは兄にも追い付けない"、"もう何にでもなれない"、そう言い続けられ夢も希望も無い大人になってしまった。
なるべく親や兄に会わないように独立も考えたが何か引っかかって抜け出せない。
幼少期から親から、兄から、そういうヤツになるように無自覚に育てられたからだ。
逃げ出す方法も、自分が何に優れているのか、それを伸ばすような環境もない。
例えて言うならば、産まれて死ぬまで出口のない迷路に一人でさまよっている感覚だ。
「…チカトリーチェ、入っていいかい?」
自室のドアの叩いたのは兄だった。
無言を貫く、いたっていなくなってこの家にはいやしない存在扱いなのだから。
「……もしいるなら聞いてくれ。数か月後の話なんだが、私は……宇宙で医師として活躍するんだ。」
(俺に聞かせるな、……自慢話だなんて)
「その話に、一人信頼できる助手を連れてって良いとの通達が来たんだ。私はチカトリーチェを連れて行きたいと思っているんだ。」
(また同情か?親に見向きもされない俺を助手として、宇宙に連れて行き、助手として成果を上げて今更親に認めてもらえるとでも?)
「だから…少し考えてくれ、頼む」
(鬱陶しい奴だな、………早く消えろ)
少ししてドアから離れる足音がし、俺はほっと胸をなでおろした。
俺が助手だと?本当は踏み台にしたいだけなんだろう?
今更理想を植え付けられた家族関係を修復できるわけがない。
クソッ……とことんむかつく野郎だ!
そうか。
良いことを考えた。
俺は嫌な奴になってやる…。
こんなひどい奴が家族にいるだなんて、と親や兄に知らしめてやる…!!
兄とは逆の道を進んでやるんだ…そうだ、親や兄という医師の名誉を真っ黒に塗りたくるのは?
はは、…いいだろう…なんて、……なんて愉快だッ!
俺は親や兄に見られないように必要最低限の物だけ持って、俺は家の窓から飛び出した。
大丈夫だ、必要なものは全部頭脳(ココ)に入っている。
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「わっ、君、大丈夫~?」
「…………い、いや………」
「歩けるかい?救急車呼ぶ?」
「いや、もう、だめだ…………腹が減って…」
「え、お金もないの?」
思い切って家を飛び出したは良いが、金を所持せずまさか…空腹で倒れるなんて。
「そうか、困ったな。では、私がごちそうしてあげるよ。名前何て言うんだい?」
「チカトリー……………チカだ」
あえて俺はこう答えた。
本名ではもう暮らしてはいけないだろう。
「チカチャンって言うんだネッ、なんか見た目怖そうなのに可愛い名前だナァ~…」
「………うるさいな」
「さぁ行くよ、私の肩に捕まってチカチャン(^_-)-☆」
「貴様……」
「貴様って失礼だナ!!私はジェルベーラ、よろしくね(*^^)v」