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    miinaC_shiro

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    miinaC_shiro

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    年老いたジェルベーラとカルドのお話

    フォロワーさんから頂いた尊い小説──あとは引き金を引けば全て終わる。
    なのに、何故だ?手が震えて引くことが出来ない。
    俺の手は引こうとするのを拒否している。
    これは寄生生物の意思じゃない。
    俺の意思だ。
    俺の意思で、引き金を引くことを躊躇している。
    何故だ。これで全て終わるというのに……!

    「……ごめんね」

    銃口を突きつけられているコイツは、抵抗をしないどころか、謝罪の言葉を口にした。

    「キミがこうなっちゃったのも、全然過去の私が招いた結果だよね……
    私がもう少し、視野を広げて情報網を広げていれば、多分避けられたんだよね……」

    ベッドで座った姿勢をとっているジェルベーラは、布団の裾を手で固く握っている。
    その表情は、悲しさも怒りも優しさもあるような顔をしている。

    「ッ、貴様のせいで……」

    拳銃を握る手が震える。
    未だに引き金を引けずにいる。

    「貴様のせいで……!」

    全身に渡っていた緊張が突然切れ、その場に崩れ落ちる。

    (くそ、駄目だ。──こんなはずでは……!)

    嗚咽が漏れ、涙が零れる。悔しさからなのか、悲しいからなのか、自分でも分からない。
    ただ、今の自分ではこの男を殺すことが出来ないと確信した。

    「貴様のせいで、知らなくてもいい事を、思い出す必要も無かった事を、覚えなくてもいい事を……
    本来ならもっと早く貴様を殺せるはずだった……
    なのに、クソ、駄目だ。貴様のせいで俺はあの時から何もかもずっと狂ったままだ……」

    お前を殺すつもりだったと告白しているのに、ジェルベーラはうんうんと、優しく相槌をする。

    「……でもさ、そんなキミでも良かったって思えること、たーくさんあったよね?
    特に、ネーヴェチャンに対して……ね?」

    ジェルベーラの顔を見る。
    俺は今も拳銃を握っているというのに、この男はいつもよりも優しい表情をしている。

    「……ネーヴェチャンと一緒によく居たキミは、狂ってはなかったと思うな。
    笑ったり、優しかったり。……本来のキミの優しさで、元からしっかり持っていたものじゃないかな?」

    ジェルベーラの手がそっと頬に触れてくる。
    そしてゆっくりと指で涙を拭う。
    今までなら反射的に手を払っている。
    だが、今の自分には何も出来ない。

    「私のせいでキミの人生を狂わせてしまった事、……私の命と引き換えにしても、きっともう吊り合わないよね。
    もう私は老い先短いし……。
    ……キミ、本当はこんなにも綺麗な紫色の身体をしていたんだね」

    その言葉で、自身の姿が元の姿に戻っていることに気づいた。
    だが、もうどうだっていい。
    何もかも知られているんだ。今更姿がバレたって……

    「……ごめんね。あの時、しっかり話を聞いていれば」

    ──あの時?
    俺が殺されたあの時?

    「……お、覚えているのか?」

    ジェルベーラはこくんと頷く。
    拳銃を握る手の力が抜けて床に落ちてしまう。
    カシャンと言う音が部屋に響いた。

    「……あの時はね、責務を全うする事で精一杯で、キミが発した言葉なんて全然聞いてなかったんだ。
    でもね、後になって。……本当にすごい後になってね、ふっと頭をよぎったんだ。キミが言いかけていた言葉。
    それから色々調べたよ。あの国家の下で動いていた人達を。……私が今まで手にかけたであろう人々を」

    ジェルベーラは、ベッドの横に置いていた花の図鑑を手に取る。

    「花の名前を付けてもらったんだね。
    ……キミに付いてるのは他の国の言葉だけど、私達の言葉だとアザミっていう名前。
    ちなみにね、とある国にはアザミの花に伝承があって、国を救った偉大な花として知られてるんだ」

    ジェルベーラは本のとあるページを見せてくる。
    ……アザミの詳細ページ。
    そして花の名前の横に付箋が一枚貼ってある。
    手書きで"Cardo"と──

    「……カルド。……良い名前だね」

    ──俺の名前だ。
    ずっと忘れていた。……いや、忘れてたんじゃない。
    思い出したくなかったんだ。

    もうずっと昔には気づいていた。
    復讐する相手はジェルベーラじゃないと。
    だけど、あの時の自分はどうしようも出来なかった。
    自分でも気づけないほど洗脳されていたんだ。
    コイツに殺されさえしなければ、まだ幸せに生きていたはずだと。
    そんなはずは無い。あの国家の下にいたら、あの時よりも酷い現実が待っていたかもしれない。
    自分の弱さのせいで招いてしまった結果なのに、他人に責任転嫁していたんだ。
    とっくに気づいていたが、もう後には戻れない所まで来てしまっていた。
    だから、封じ込めたんだ……。

    「でもさ、ネーヴェチャンのお陰で、色々ゆっくり思い出してきたんだよね」

    ──口に出ていたのだろうか。ジェルベーラが言葉を続ける。

    「私はもう人生を楽しんだ。……でも、カルドチャンはまだだよね。私のせいで苦しむ日々を過ごしちゃったんだよね。
    ……でもね、私はもう近いうちにあの世に逝くから。
    そうしたらもう囚われる必要なんてないよ」

    「そ……そんな事を言うな……まだ早いだろう……」

    死んでほしいと願っていた自分とは思えない言葉が口から出てくる。

    「……私ってカルドチャンの願う事とはいつも真逆になっちゃってるね。
    ごめんね、今度も願いを裏切ることになると思う。
    ……だからさ、カルドチャンにいくつか託したいことがあるんだ」

    ジェルベーラは、手に持っていた本を閉じて俺の方へ向ける。

    「私のお店、カルドチャンに引き継いで欲しいんだ。
    店の裏に本棚があってね、そこにやるべき事を書いたノートがあるから、引き継ぎについては心配ないよ」

    「……貴様を殺そうとしていたやつに、店を引き継がせるのか」

    「もうそんなつもりないでショ?」

    ジェルベーラはニッコリと笑う。
    ──あぁ、くそ、本当にコイツにはいつも狂わされる。
    渡された本を受け取る。

    「ありがとうカルドチャン。
    ……ずっとね、お店どうしようか悩んでたんだ。でもね、今決めた。カルドチャンに継いでもらいたいなって。
    ……あっでも、負担になりそうだったら閉めちゃっていいからね?」

    「……はっ、腑抜けたことを。
    貴様が俺の願いを叶えないのなら、俺は貴様の願いを全部叶えてやる」

    そう言うとジェルベーラは優しく笑った。
    してやられた、のような顔をして。

    「ありがとう。それとね、もう一つ。
    ……他のみんなのことを見守ってあげて欲しいんだ。
    特にチカチャンとポルチャンをね。
    あの二人は私が拾った子達だからさ、残して逝くことに不安が大きいんだよね……
    だから、見守ってあげて欲しい。
    ……あ、心配しないで!あの二人にだけはキミについて話してあるからネ!」

    そう言ってへらっと笑う。
    なんか今とんでもないことを言われたような気がするが?

    「……今、なんと言った?」

    「あの二人には話してあるんだ、キミについて。
    クローバーチャンの姿をしているけれど、多分本来は……って話をネ。
    大丈夫!私が最も信頼してる二人だから問題ないよっ!他の人にバラしてなんかないと思うナ!」

    ジェルベーラに察されるどころか、その事が他二人に筒抜けになっていたとは。
    落胆と共にホッとした気持ちに包まれる。

    「あっでもね!他の子には言ってないし、二人にも言わないようにって伝えてるからネ。
    インポスターだし、本当のこと知るとキミのことを嫌いになっちゃうかもしれない。
    やっぱり、そうするとクローバーチャンが被害被るかもしれないからね。……明かすのは慎重にね?」

    「あぁ。分かっている。
    だが……貴様ら三人より最も先に知った人物がいるがな」

    「いや多分私の方が先だと思うな」

    ジェルベーラは一切疑わずに言い切る。
    なんだコイツは。張り合うなそこで。

    「……と、まぁ冗談は置いといて。
    あの二人もそうだけど、ネーヴェチャンもしっかり見守ってあげてね?信頼してるよ、お父さん!」

    昔から変わらない、相変わらずの茶化した笑顔でそう言う。

    「ネーヴェには本来の両親がいる。ネーヴェが勝手に俺の事をパパと呼んでるだけだ」

    「いつも呼ばれると嬉しい顔してるくせにぃ」

    「???」

    そう話しているうちに時間は進んでいき、外はすっかり夜になってしまった。
    最初は殺すつもりでここに訪れたはずが、ここまで打ち解けてしまうとは思ってもいなかった。
    ……相変わらず、全てを狂わせる男だ。

    「……もう外も暗くなっちゃったね。今日はここまでかな?
    また明日もおいで。私はここで待ってるからね」

    「来れたら来てやるよ」

    荷物をまとめながらそう言う。
    ジェルベーラが「それって絶対来ない人が言うやつじゃん!」などと言ってるが無視する。
    ……手渡された花の図鑑だけ荷物に入り切らなかった。
    まぁいいか、と小脇に抱えて準備を整える。
    ……あぁそうだ、姿を変えなければ。
    コイツには知られたが外ではクローバーの姿をしなくてはいけない。
    これからも多分ずっとそうだろうな。
    姿を変える準備をしていると、後ろでジェルベーラが驚嘆の声を上げる。

    「おぉー……初めて見たよ。シェイプシフトする瞬間。……わ、もうクローバーチャンだ。本当すごい精密だね」

    「本来なら誰にも見られないところでやるものだ。
    見れたこと、有難く思うんだな」

    手鏡でおかしな所が無いことを確認し、部屋の扉へ向かう。
    ……軽く振り返り、ジェルベーラに挨拶をする。

    「……またな、ジェルベーラ」

    「うん。またね、カルドチャン」

    笑顔で手を振るジェルベーラに軽く手を上げ、そのまま静かに部屋を後にした。
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