8 -第一章-カタカタとカップを持つ手が震える。
…大丈夫だ。このまま、そおっと置けば…
「副官」
_ガチャン
自分を呼ぶ声に、副官は動揺のあまり、手を滑らせてしまった。音を立てて置かれたカップからはコーヒーがこぼれ落ち、執務机の天板を汚している。飛び散った液体は、目の前の上官の軍服にも染みを作ってしまっていた。
「も、申し訳ありませ…」
「わしに名を呼ばれるだけで、そこまで動揺するとはな…。そんなにわしが恐ろしいか?」
ギルモアは口角を上げながら、ニヤリと副官に目をやった。
「め、めっそうもございません。じ、自分はただ…」
「わしの言葉を否定するか」
ガシリとギルモアが副官の右腕を掴む。老齢とはいえ、軍のトップに昇り詰めた男だ。力強く握られ、副官の腕は悲鳴を上げた。
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