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DONEドラコルル長官と副官の小説-18・前作の続き
いつの日か -最終章-春の海の水温は低い。
飛び込めばショックで心臓麻痺、あるいは低体温症により、いずれ意識を失う。
だから、この温かさの正体が分からなかった。自分の首と背中にふれるこの温もりは何だ?
「副官」
かつての自分を表す言葉に副官は我に帰った。すぐ目の前には、穏やかな海が広がっている。自分は尻もちをついてしまったようだ。
「副官」
聞き覚えのある声に副官は目を見開いた。背後から抱きしめている男が言っているのだろうか?副官は恐る恐る後ろを振り返った。
「…………長官…?」
そこには、いるはずのない男の姿があった。白髪混じりではあるが、髪と瞳の色は赤い。30年が経ち、老いたその姿は、これが夢ではなく現実であることを物語っていた。
7163飛び込めばショックで心臓麻痺、あるいは低体温症により、いずれ意識を失う。
だから、この温かさの正体が分からなかった。自分の首と背中にふれるこの温もりは何だ?
「副官」
かつての自分を表す言葉に副官は我に帰った。すぐ目の前には、穏やかな海が広がっている。自分は尻もちをついてしまったようだ。
「副官」
聞き覚えのある声に副官は目を見開いた。背後から抱きしめている男が言っているのだろうか?副官は恐る恐る後ろを振り返った。
「…………長官…?」
そこには、いるはずのない男の姿があった。白髪混じりではあるが、髪と瞳の色は赤い。30年が経ち、老いたその姿は、これが夢ではなく現実であることを物語っていた。
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DONEドラコルル長官と副官の小説-17・前作の続き
・とてもシリアス
いつの日か -長官-主文
被告人を死刑に処する
ドラコルルは独房の壁にもたれながら、目を閉じた。
あれから5年が過ぎた。死刑の判決を受けた当初は、こんなにも心は穏やかなものなのかと、自分のことながら驚いた。大罪を犯したのだ。国民の傷も深い。執行はすぐだと思っていた。しかし、判決から5年たった今でさえ、なおも自分は生きている。
…殺すのなら、すぐにすればいいものを。
時おり、湧き出る苛立ちの気持ちにドラコルルは舌打ちをした。死への恐怖がないわけではないのだ。あらゆる希望を捨て、死にゆく者としての覚悟を持とうにも、それを維持することには限度がある。ほんのわずかな希望が湧きあがるたびに、それを押し殺さねばならない。執行の命令は当日の朝に告げられるというが、かれこれ5年。何もすることがない部屋の中で、いつになるとも分からない刑の執行を待つというのは、想像以上に精神を蝕む。
5997被告人を死刑に処する
ドラコルルは独房の壁にもたれながら、目を閉じた。
あれから5年が過ぎた。死刑の判決を受けた当初は、こんなにも心は穏やかなものなのかと、自分のことながら驚いた。大罪を犯したのだ。国民の傷も深い。執行はすぐだと思っていた。しかし、判決から5年たった今でさえ、なおも自分は生きている。
…殺すのなら、すぐにすればいいものを。
時おり、湧き出る苛立ちの気持ちにドラコルルは舌打ちをした。死への恐怖がないわけではないのだ。あらゆる希望を捨て、死にゆく者としての覚悟を持とうにも、それを維持することには限度がある。ほんのわずかな希望が湧きあがるたびに、それを押し殺さねばならない。執行の命令は当日の朝に告げられるというが、かれこれ5年。何もすることがない部屋の中で、いつになるとも分からない刑の執行を待つというのは、想像以上に精神を蝕む。
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DONEドラコルル長官と副官の小説-16・全3話予定
・第一作目「拘置所にて」の続編
・戦後処理の都市伝説あり
・シリアス志向
いつの日か -副官-街から聞こえる歓喜の声に、ギルモアが捕らえられたことをドラコルルは悟った。すぐに機関室へ足を運ぶ。そこには火災の後始末に追われる隊員たちの姿があった。隊服を汚しながら、慌ただしく部下たちに指示を出す機関長にドラコルルは声をかけた。
「ご苦労。ここの兵の負傷状況は?」
ドラコルルの姿に、機関長は敬礼した。
「は。いずれも命に別状はありませんが、敵からの攻撃時に3名、海への墜落時に1名怪我を負いました。ドラコルル長官は?」
「大事ない。エンジンは生きているのか?」
「……残念ながら」
機関長の言葉にドラコルルは笑った。
「しばらくは海の上か。自由同盟が到着次第、ただちに艦を降りる。負傷した4名から優先的に降ろすように。あとは同盟の指示に従え」
7121「ご苦労。ここの兵の負傷状況は?」
ドラコルルの姿に、機関長は敬礼した。
「は。いずれも命に別状はありませんが、敵からの攻撃時に3名、海への墜落時に1名怪我を負いました。ドラコルル長官は?」
「大事ない。エンジンは生きているのか?」
「……残念ながら」
機関長の言葉にドラコルルは笑った。
「しばらくは海の上か。自由同盟が到着次第、ただちに艦を降りる。負傷した4名から優先的に降ろすように。あとは同盟の指示に従え」
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DONEドラコルル長官と副官の小説-15・前作のつづき
8 -最終章-ギルモアの執務室へドラコルルを案内し終えた副官は、給湯室で紅茶を淹れながら静かに考えた。
…まさか気づかれていたとは…。
ドラコルル長官は、自分が将軍からどんな仕打ちを受けているのか全て見抜いていた。見抜いていたからこそ、俺にこの毒を渡した。あの将軍から解放してやると。
紅茶を淹れ終えた副官は、ポケットにしまい込んでいた薬包紙を取り出した。キッチンの天板には紅茶の入った2つのカップ。薬包紙を開き、その中身をカップに入れた瞬間、この紅茶はただの飲み物ではなく、恐ろしい凶器に成り変わるのだ。
『貴様にはずっと副官でいてもらう』
床に倒れ込み、この任を解くよう嘆願する自分の顔を将軍はつま先で持ち上げた。あの時の屈辱と絶望は、忘れられたものではない。自分には将軍の顔が、鬼か悪魔のように見えたのだ。副官は薬包紙を開くと、ギルモアの紅茶に毒を盛るべく、それをカップに近づけた。
6227…まさか気づかれていたとは…。
ドラコルル長官は、自分が将軍からどんな仕打ちを受けているのか全て見抜いていた。見抜いていたからこそ、俺にこの毒を渡した。あの将軍から解放してやると。
紅茶を淹れ終えた副官は、ポケットにしまい込んでいた薬包紙を取り出した。キッチンの天板には紅茶の入った2つのカップ。薬包紙を開き、その中身をカップに入れた瞬間、この紅茶はただの飲み物ではなく、恐ろしい凶器に成り変わるのだ。
『貴様にはずっと副官でいてもらう』
床に倒れ込み、この任を解くよう嘆願する自分の顔を将軍はつま先で持ち上げた。あの時の屈辱と絶望は、忘れられたものではない。自分には将軍の顔が、鬼か悪魔のように見えたのだ。副官は薬包紙を開くと、ギルモアの紅茶に毒を盛るべく、それをカップに近づけた。
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DONEドラコルル長官と副官の小説-14・前作のつづき
・長官がえげつない
8 -第二章-副官は痛む胸を押さえ、床に倒れ込んだ。
…今日は危なかった…。
いくら将軍が銃の扱いに慣れているといっても、老齢の身かつ前線を退いて長い。いつ手元が狂って、防弾ベストに覆われていない部分に弾が当たってもおかしくないのだ。弾が貫通せずとも、被弾の衝撃はベストを伝い、ダイレクトに体を襲う。
「今日のドラコルルへの非礼はなんだ?」
かはっと苦しげに息を吐く副官を、ギルモアは冷たく見下ろした。
「…申し訳…ありません…」
ゼェゼェと荒い呼吸を繰り返しながら、副官が声をしぼり出す。
「謝罪が聞きたいわけではない。客人すら、もてなすこともできんのか?」
ギルモアは床に倒れ込む副官の顔の下に足を入れた。つま先を使い、顎を上げる。
4478…今日は危なかった…。
いくら将軍が銃の扱いに慣れているといっても、老齢の身かつ前線を退いて長い。いつ手元が狂って、防弾ベストに覆われていない部分に弾が当たってもおかしくないのだ。弾が貫通せずとも、被弾の衝撃はベストを伝い、ダイレクトに体を襲う。
「今日のドラコルルへの非礼はなんだ?」
かはっと苦しげに息を吐く副官を、ギルモアは冷たく見下ろした。
「…申し訳…ありません…」
ゼェゼェと荒い呼吸を繰り返しながら、副官が声をしぼり出す。
「謝罪が聞きたいわけではない。客人すら、もてなすこともできんのか?」
ギルモアは床に倒れ込む副官の顔の下に足を入れた。つま先を使い、顎を上げる。
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DONEドラコルル長官と副官の小説-13・友情色強め
・副官の有能感が薄い
・副官が可哀想
・全3話予定
8 -第一章-カタカタとカップを持つ手が震える。
…大丈夫だ。このまま、そおっと置けば…
「副官」
_ガチャン
自分を呼ぶ声に、副官は動揺のあまり、手を滑らせてしまった。音を立てて置かれたカップからはコーヒーがこぼれ落ち、執務机の天板を汚している。飛び散った液体は、目の前の上官の軍服にも染みを作ってしまっていた。
「も、申し訳ありませ…」
「わしに名を呼ばれるだけで、そこまで動揺するとはな…。そんなにわしが恐ろしいか?」
ギルモアは口角を上げながら、ニヤリと副官に目をやった。
「め、めっそうもございません。じ、自分はただ…」
「わしの言葉を否定するか」
ガシリとギルモアが副官の右腕を掴む。老齢とはいえ、軍のトップに昇り詰めた男だ。力強く握られ、副官の腕は悲鳴を上げた。
4405…大丈夫だ。このまま、そおっと置けば…
「副官」
_ガチャン
自分を呼ぶ声に、副官は動揺のあまり、手を滑らせてしまった。音を立てて置かれたカップからはコーヒーがこぼれ落ち、執務机の天板を汚している。飛び散った液体は、目の前の上官の軍服にも染みを作ってしまっていた。
「も、申し訳ありませ…」
「わしに名を呼ばれるだけで、そこまで動揺するとはな…。そんなにわしが恐ろしいか?」
ギルモアは口角を上げながら、ニヤリと副官に目をやった。
「め、めっそうもございません。じ、自分はただ…」
「わしの言葉を否定するか」
ガシリとギルモアが副官の右腕を掴む。老齢とはいえ、軍のトップに昇り詰めた男だ。力強く握られ、副官の腕は悲鳴を上げた。
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DONEドラコルル長官と副官の小説⑥・前作の続き
・なんでも許せる方向け
その名を忌む -現在-官邸を襲撃後、宇宙へ逃れた大統領を追うべく、クジラ型戦艦は大統領の乗ったロケットの痕跡を辿りながら、飛行を続けていた。
「……」
ふと目を覚ました副官はぼんやりとした意識の中、枕元の時計を確認した。
「…!!」
ガバッと起き上がり、慌ててベッドから跳び降りる。
まずい。寝過ごした。
副官は急いで身支度を整えると、操舵室のドラコルルと交代するため、仮眠室を飛び出した。
ドラコルルは、操舵室の艦橋に座りながら、時計を見た。そろそろ副官と交代する時間だ。遠征時、いつもなら30分前には来て、自分と交代するよう催促する彼が、今日はまだ来ない。クーデター以降、心労の多い仕事が続き、疲れているのだろう。
「副官を起こしてきましょうか?」
2315「……」
ふと目を覚ました副官はぼんやりとした意識の中、枕元の時計を確認した。
「…!!」
ガバッと起き上がり、慌ててベッドから跳び降りる。
まずい。寝過ごした。
副官は急いで身支度を整えると、操舵室のドラコルルと交代するため、仮眠室を飛び出した。
ドラコルルは、操舵室の艦橋に座りながら、時計を見た。そろそろ副官と交代する時間だ。遠征時、いつもなら30分前には来て、自分と交代するよう催促する彼が、今日はまだ来ない。クーデター以降、心労の多い仕事が続き、疲れているのだろう。
「副官を起こしてきましょうか?」
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DONEドラコルル長官と副官の小説⑤・前作の長官視点
その名を忌む -長官-やられた。
ドラコルルはすでに息絶えた目の前の男を愕然と見下ろした。部屋にただよう微かなアーモンド臭。青酸カリだ。
拘束時に何か隠し持っていないかはおおよそ調べたはずだ。だがこいつは、いつでもその命を絶てるよう、奥歯に毒を忍ばせていたのだ。
その日、自身も含め諜報部のほとんどの人間は基地の外へ出ていた。そのタイミングでこの男は諜報室へ侵入し、軍の機密を探ろうとした。扉にかざすIDカードは偽装され、残っていた数人の部下たちも眠らされていた。幸い、空軍所属の1人の男が異変に気づき、スパイは拘束され、事なきを得た。知らせをうけて基地に戻り、尋問しようとした矢先の出来事であった。
勤務を終えたあと、ドラコルルは昼間の出来事を思い出しながら、夜道を歩いていた。悔しさから、ギリッと歯を鳴らす。こういう日は夜風にあたるに限る。
5404ドラコルルはすでに息絶えた目の前の男を愕然と見下ろした。部屋にただよう微かなアーモンド臭。青酸カリだ。
拘束時に何か隠し持っていないかはおおよそ調べたはずだ。だがこいつは、いつでもその命を絶てるよう、奥歯に毒を忍ばせていたのだ。
その日、自身も含め諜報部のほとんどの人間は基地の外へ出ていた。そのタイミングでこの男は諜報室へ侵入し、軍の機密を探ろうとした。扉にかざすIDカードは偽装され、残っていた数人の部下たちも眠らされていた。幸い、空軍所属の1人の男が異変に気づき、スパイは拘束され、事なきを得た。知らせをうけて基地に戻り、尋問しようとした矢先の出来事であった。
勤務を終えたあと、ドラコルルは昼間の出来事を思い出しながら、夜道を歩いていた。悔しさから、ギリッと歯を鳴らす。こういう日は夜風にあたるに限る。
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DONEドラコルル長官と副官の小説④・出会いの話
・友情色強め
・副官が暗い
・全3話予定
その名を忌む -副官-入学式の日。
自分の名が呼ばれたとき、会場内の空気が変わったのを幼いながら少年は感じた。おそらく同級生は気づいていない。みな、無邪気な笑顔を見せながら、自分の名前が呼ばれるのを待っていた。手をあげ、元気よく返事をする同級生に習い、少年も満面の笑みで返事をした。
2年生になったとき。
生活科の授業で自身の名前の由来を調べることになった。
「父ちゃん、俺の名前って誰がつけたの?」
「お母さんだよ」
少年は亡き母の遺影を見つめた。
4年生のとき。
学校でいちばんの秀才が少年を指差して、こう告げた。
「あいつ、悪いことしたんだぜ」
それをきっかけに、冷たい視線が少年に注がれるようになった。教師はクラス内の雰囲気をすぐに感じ取り、少年を守った。まるで、そうなることを予期していたかのように。
4770自分の名が呼ばれたとき、会場内の空気が変わったのを幼いながら少年は感じた。おそらく同級生は気づいていない。みな、無邪気な笑顔を見せながら、自分の名前が呼ばれるのを待っていた。手をあげ、元気よく返事をする同級生に習い、少年も満面の笑みで返事をした。
2年生になったとき。
生活科の授業で自身の名前の由来を調べることになった。
「父ちゃん、俺の名前って誰がつけたの?」
「お母さんだよ」
少年は亡き母の遺影を見つめた。
4年生のとき。
学校でいちばんの秀才が少年を指差して、こう告げた。
「あいつ、悪いことしたんだぜ」
それをきっかけに、冷たい視線が少年に注がれるようになった。教師はクラス内の雰囲気をすぐに感じ取り、少年を守った。まるで、そうなることを予期していたかのように。